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女性の数が9割以上の世界に俺は降り立ち、イロイロと苦労する  作者: 銀色の侍
第九章 アゲルタム飲食店、料理対決編
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少女、守る為に成長した

 

 援護に戻って来たサクラの登場、そして彼女とブレーの連携攻撃により劣勢に追い込まれていくクチナシ。強化されたブレーの蹴りで吹き飛ばされた彼女は苦し気な表情をしながらもすぐに起き上がり、握っていた刀を放り捨てる。


 「(なに、武器を捨てただと!?)」


 持っていた武器を捨てたクチナシに内心で戸惑いながらも果敢に突っ込んで行くブレー。

 しかし刀を捨てたクチナシは代わりに腰に備えてあった、なにやら短い筒の様な物を握っていた。

 ブレーが大剣を振り上げると同時、彼女の瞳には眩い光が映し出された。


 「うわっ!?」


 光で瞳を眩ませられた次の瞬間、ブレーの身体が大きく後方へと吹き飛ばされた。

 クチナシの握っている筒の先端から光が照射されたかと思うと、その光がブレーの心臓目掛けて伸びて来たのだ。胸に伸びて来た光を大剣の腹で盾として防ぐが、走る衝撃を堪えきれずに吹き飛ばされたのだ。

 背中を地面に着けながら、ズザザザーッとサクラの足元まで滑って行くブレー。


 「だ、大丈夫ですかブレーさん!」

 「ぐっ…なんとかな…」


 大剣で直撃を防いだためにブレーの肉体面にはダメージはなかった。

 すぐに起き上がると、自分を襲った武器をその目で見るブレー。


 「…何だアレは。光の…剣?」


 クチナシが刀の代わりに持っている筒、その筒の先端部分からは細長い光が伸びている。光の先端部分は槍の様に尖っており、先程防げなければ自分の肉体を貫いていただろう。よく見ると大剣の方も、あの光を防いだ箇所が少し黒くコゲており、小さな穴まで開いている。

 

 「熱…いや、もっと別の力か…」


 大剣の腹を見ながら光の正体を探るブレー。熱の様にも見えるが、ブレーにはあの筒から伸びている光がもっと別の物に見えるのだ。

 未知の武器の正体に悩んでいると、隣に居るサクラが筒の光を見つめながら言った。


 「あの筒から出ている光の剣。とてつもないマナを感じます」

 「……マナか」


 サクラの言う通り、確かにあの光の剣からは凄まじいマナを感じる。まるで武器にマナが籠められているというより、マナその物が剣の形を形成しているかのような……。

 その時、クチナシが苦し気な表情をしながら片膝を付いた。しかも僅かだが呼吸も荒くなっている。


 「ぐっ…はあ、はあ…」

 「アイツ…急にどうした?」


 今まではそこまで疲弊した様子などなかったクチナシが、今は少し苦し気な表情をしているのだ。 

 相手の変調に戸惑うブレー、そしてソレに対してサクラは冷静に考える。


 「(私が援護に来たときはあそこまで苦し気な顔なんてしてなかった。あの光の剣を使い出してから急に相手の様子が変わった。どうして…?)」


 サクラが考察していると、地面についていた膝を上げクチナシが後ろへ下がった。そしてそのまま先程捨てた自分の刀を拾うと、筒から放たれる剣を引っ込めた。

 

 「何だ、あれだけ強力な武器を収めた? 何かしらの策略か?」


 自分の強固な剣に穴を開ける程の強力な武具をみすみす収め、通常の刀剣を再び構えるクチナシに違和感を覚えるブレーであるが、逆にサクラはいくつか気付いたことがあった。


 「恐らくあの剣、使うにはそれなりの制限があるんじゃないでしょうか?」

 「制限?」


 聞き返して来たブレーに頷くサクラ。さらに彼女は続ける。

 

 「私がブレーさんの援護に来たとき、彼女は大きな疲労感を持ってはいませんでした。ですが、あの剣を使った瞬間に息が上がり始めた」

 「…確かに」

 「そしてブレーさんの剣を貫く程の殺傷能力と威力。恐らくはあの剣は通常の剣と違い、使用している最中は威力と引き換えにマナを多大に消費する…」

 「なるほど、だから今は無駄な消費を避けるために剣を納めているのか」


 ブレーたちの会話の内容はクチナシにも聴こえており、何も答えはしなかったが内心では正解と思っていた。

 彼女が取り出した光の剣、それは体内のマナを筒に流し込みソレを剣へと形作る武器。つまりはマナそのものを武器として扱う代物なのだ。だが、筒にマナを送り込り続ければならないと言う欠点がある。その為、この武器はマナの消費量が凄まじく大きく、そして速いのだ。

 威力方面に優れている事からクチナシは仮面の女から貰っていたが、そもそもこの武器は試作品であったのだ。だが、デーブから盗んだ物であるため、仮面の女もこの武器が試作品である事実は知らなかったのだ。

 

 「ちっ…(不味いですね)」


 この状況、クチナシは少し焦りを覚え始めていた。

 すぐにマナの剣を納めた為、乱れつつあった呼吸も整いはしたがマナを少し無駄に消費してしまっていた。無論まだまだ動けるが、この武器は余り乱用できない。かといって一対一ならばまだしも、実力者2人同時に通常の刀では少し心もとない。そして彼女には予想外な事も1つあった。


 「(あのサクラとやら…随分力を付けた様ですね)」


 以前ファストと戦った時に彼女も一緒に居たが、正直クチナシには眼中にすらなかった。自分とあの少年の戦いに彼女は援護すらまともに出来はしなかったはずだ。だがこの戦いでは彼女はブレーの攻撃に合わせ、中々の連携を取っている。

 サクラが短時間でここまで急成長した事が予想外の余り、本人に対して無意識に声を掛けていた。

 

 「随分と腕を上げましたね貴女。以前は私と彼との戦いで何もできなかった筈ですが……」

 「…そうだね。前の私は何もできず見ていただけだった…」


 クチナシの言う通り、以前の自分は目の前の相手の動きを目で追う事がやっとであった。自分の大切な人が戦っている間、無力な自分を恥ずかしく思った、そして同時に強く呪った。

 だが彼女は決して腐らなかった。むしろあの日、ファストと共に戦い、そして彼を守りたいと心から思いファストと共に特訓に精を出した。そしてそれはサクラだけでなく、ブレーとクルスも同じであった。


 「守りたい人がいるから…だから強くなった。あなた達のような闇ギルドの人にファストを好きにさせない為にも!!」


 そう言ってサクラは炎で槍を形成し、その切っ先をクチナシへと突き付ける。

 燃え上がる炎の槍、そしてそれに負けず劣らず燃えているサクラの瞳を見てクチナシはふっと笑った。

 不意に笑みをこぼしたクチナシを怪訝そうな顔で見るサクラ。


 「恋する乙女は強し…ですか。中々良い物ですね」

 「なっ、何を言って!?」


 この状況でからかってきている様な発言に思わずテンパってしまうサクラ。予想外の言葉に戸惑ってしまうが、逆にブレーは堂々と真顔で言い返した。


 「ああそうだ。守りたい男が出来た私やコイツは今までの自分よりも強い女に成長している。侮らない事だな」

 「ぶふっ! ブレーさんまで何言っているんですか!?」


 真面目にそう返したブレーに思わず吹き出すサクラ。

 それに対してクチナシの口元は小さく笑っていた。


 「羨ましいですね……あなた達が……」

 「ふ、ふざけないでください!」

 「ふざけてなどいませんよ」


 顔を赤くするサクラに対し、クチナシはふざけていないと答える。

 その時、サクラは戸惑っているだけだがブレーは気付く。目の前のクチナシの瞳が変化していた事に。

 今までは冷酷で生気を宿していない瞳をしていた彼女だが、この時の彼女の瞳には光が宿っていたのだ。


 「(まるで別人だな…)」


 今まで対峙していた目の前の女は感情を感じさせない人形のようにブレーにはずっと見えていた。だが、この時のクチナシの貌はまるで――――恋に憧れる乙女の様に見えていた。

 しかしそれも一瞬の事、すぐに目の前の相手は感情を悟らせない貌となり、改めて武器を構える。


 「さて、ここからは肉を切らせて骨を断ちますか」


 その言葉と共にクチナシは2人へと一気に突っ込んで行った。


 


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