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女性の数が9割以上の世界に俺は降り立ち、イロイロと苦労する  作者: 銀色の侍
第九章 アゲルタム飲食店、料理対決編
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少女、対戦相手の心理を考える


 戦闘現場まで駆けて行くサクラの後ろ姿を見送るレンゲ。そんな彼女にフルドは沸き上がる疑問を彼女へと投げかける。


 「ちょっといいかしらレンゲさん?」

 「え…何です?」

 「…どうして貴女がウチのナポリを心配するの?」


 それはフルドにとって純粋な疑問であった。

 レンゲとナポリはつい先ほどまで対決していた相手なのだ。勿論、競い合っていた相手だからどうなろうと構わない、などと言う考えを持つ人間もそういないだろうが、だからと言って彼女ほど別段仲良くない相手を気遣う人間も珍しいと思うのだ。

 フルドのそんな疑問に対してレンゲはほとんど間を空けずに答える。


 「まあ…一応さっきまで対決していた相手ですからね。少しは心配しますって」

 「……」


 レンゲの答えを聞き、フルドは小さく息を吐いた。

 対戦相手だからこそ、レンゲはナポリを心配する。その答えはフルドにとっても予想外な部分があったのだ。たかだか料理対決とは言え敵対している相手を気遣う理由、それは戦ったからこそだと彼女は答えた。


 「(純粋な娘ね…)」


 やはり彼女はナポリとは対照的な性格だ。

 もし、ナポリの立場ならば彼女のことを気にもかけないだろう。ましてや、戦う力も持っていなければ尚更だ。しかしレンゲはサクラに止められなければ間違いなく危険地帯へと赴いていただろう。

 レンゲの純粋な性格に感心していると、隣に居たメイシが少し得意げな表情をしていた。


 「ふふん、いい娘でしょ。ウチの娘は」

 「ええそうね」


 素直に返事をしたフルドに驚くメイシ。何か言い返して来ると思っていたので、どこか肩透かしを食らった気分であったが、すぐにいつも通りの嫌味を返して来た。


 「昔のアナタがここに居たらこの娘の爪の垢を煎じて飲ませてやりたいわ」







 その頃、話題の取り残されていたナポリは調理で使用したキッチンの下へ身を隠していた。

 身体をブルブルと震わせ、両手で自分を抱きしめて早く戦闘が終わる事を祈っていた。


 「何で…何でこうなるのよ…!」


 この料理対決、自分の勝利はもうほぼほぼ確定していた。後は形だけでもあのレンゲとやらの料理を審査員に食べさせるだけで良かったのだ。そして確定した勝利を得て、そして報酬のボーナスも自分の懐に入る手はずだったのだ。

 だが、突如として現れた化け物共のせいで料理対決は中断、しかも恐らく、これでは勝負自体が取りやめとなるだろう。これでは自分に入るはずの特別ボーナスの話も無かったことになるだろう。そして挙句は逃げ遅れて無様にキッチンの下で震えている。


 「ああもうッ!! なんでこんな目に合わなきゃならないのよ!! ボーナスもナシ、頑張った意味ないじゃん!?」


 腹の奥底から怒鳴り散らすナポリ。

 苛立ちで頭をガリガリと掻いていると、突然自分の隠れていたキッチンが大きく揺れた。


 「きゃあっ!?」


 何かが飛来してきてキッチンにぶつかった様で、その下に隠れていたナポリが驚きの余り隠していた身をキッチン下から這い出してしまう。

 今まで隠れていたナポリが姿を現した事でこの場に居た皆がようやく彼女の存在に気付いた。

 

 「ひっ、化け物!!」


 ナポリがキッチンにぶつかって来た物に視線を移す。そこに居たのは攻撃で吹き飛ばされて跳んできた死人であった。

 死人の肉体は激しく損傷しており、片腕も取れている。その状態を見てナポリは思わず口を覆った。


 「キモ…はあ、はあ…」


 転がっている死人はもう動く事は無いだろうが、ナポリの存在に気付き近くに居た死人が彼女へとゆっくり近付いて来た。

 それに気付いたナポリは思わずキッチンに置いてあった包丁を手に取る。


 「く、来るんじゃないわよ!!」


 包丁を構える彼女であるが、人を切った事など当然彼女には経験が無い。しかも戦闘に身を投じた事も無いので恐怖から包丁を持つ手はまるで極寒に晒されているかの如く震えが止まらなかった。

 その様子を見ていたファストが真っ先に駆け付けようとするが、目の前の仮面女の猛攻で邪魔をされる。

 

 「面白ソウナ場面ネ。鑑賞サセテ頂戴ヨ♪」

 「外道が!」


 ブレーもファスト同様に目の前の相手に手こずり救援に向かえない様であった。

 そこへ1人の人物が一直線にナポリの元まで駆け付け、彼女に迫る死人を蹴り飛ばした。


 「あ、あなた…」

 「大丈夫ですか!?」


 残りの死人を瞬く間に片づけ、ナポリを守るように彼女の前に立つ。

 すると更に後方から炎の弾が飛んできて死人を藩滅していく。その炎の正体に気付いたクルスが彼女の名を呼ぶ。


 「サクラ!」

 「お待たせ皆!」


 観客の避難が完了したサクラが再び戻って来たのだ。

 サクラはサードの近くで座り込んで居るナポリを見つけると、サードと共に彼女を守るように彼女の前に立った。


 「大丈夫ですか?」

 「え、ええ…助かったわ」


 サードとサクラに守られ、ようやく恐怖が和らいだのか身体の震えも収まった。

 サクラは隣に居たサードに、ナポリを守りつつ安全な場所まで連れて行ってほしいと頼んだ。


 「サード君、ナポリさんを安全な場所までお願いできる? こっちは私が代わりに残るから」

 「……分かった」


 少し悩んだサードであるが、自分よりもサクラは実戦経験もある事は彼も理解している。ここで意地になるよりも彼女と代わった方が良いのかもしれない。それに死人も随分と数が減って来ている。この戦況ならば自分1人が抜けても戦況が覆る事も無いだろう。

 そこまで考えが行くと、サードはナポリの手を握って誘導しようとする。


 「ナポリさん、ここは皆に任せて逃げますよ」


 この場から彼女を非難させようとするサードであるが、彼女はどういう訳か座り込んだ姿勢のまま立ち上がろうとしない。

 何故起きないのかをサードが問う前に、ナポリが力の無い笑みを浮かべながら言った。


 「こ、腰が抜けちゃった…アハハ…」


 死人に迫られて襲われる直前にサードに救われ、緊張が一気に抜けて思う様に力が入らなくなったのだ。

 するとサードは彼女の身体を強引に持ち上げ、お姫様抱っこをする。変身状態のサードにとってはナポリの様な少女1人など重くもなんともないので問題は無い。

 しかしサードに問題なくともナポリには問題ありであった。


 「ちょ、ちょっと」


 恥ずかしそうに頬を赤く染めるナポリ。

 異性にお姫様抱っこされる事は多少恥ずかしいがその程度で済む。だがそれ以上に自分よりも一回りも背丈の低い少年にお姫様抱っこされているこの現状はとても恥ずかしいのだ。


 「腰が抜けているんだから。この体勢も我慢してください」

 「ぐうう…」


 何も言い返さず唸り声だけ絞り出すナポリ。

 その場からナポリを連れ出そうとするサード、そんな彼にサクラが背中越しで声を掛ける。


 「レンゲさんもナポリさんの事を心配していたからね。早く連れて行ってあげて!」

 「!!」


 サクラの言葉にナポリがサードの腕の中で微かに震えた。

 どうやらこのサクラとやらはあのレンゲに自分を助ける様に頼み込んだ様だ。


 「(何で私を…)」


 レンゲの意図が解らないナポリ。そんな彼女を抱きかかえているサードはサクラに「この場をお願いします」と一言残しこの場から離れる。

 サードの腕の中ではナポリがうわ言のように「どうして」と繰り返していた。

 この場から離れて行くサードを数秒見送ると、サクラはブレーの方へと援護に行く。今の状況下で一番苦戦しているのは恐らく彼女の戦いであるからだ。


 「ブレーさん、援護します!」

 「ああ、頼むぞ!」


 大剣を振るいながら援護を頼むブレー。

 サクラが炎の魔法で援護し一気に劣勢となるクチナシ。


 「(これは不味いですね)」


 ブレーの実力が自分とほぼ拮抗している中、その上サクラの遠距離からの補助で追い込まれていくクチナシ。


 「ぜあッ!」

 「ぐっ!?」


 サクラの遠距離攻撃を躱し空中へ跳ぶと、そこにブレーの追撃が来る。

 迫る大剣を受け止めるが、そこへブレーの蹴りがクチナシの腹部へと突き刺さり彼女の身体が吹き飛ばされる。

 蹴られた衝撃で受け身を取る間もなく地面へとダイレクトに叩き付けられるクチナシ。


 「ググ…仕方ありませんね」


 腹部を押さえながら立ち上がるクチナシ。

 口の端から零れる涎をふき取ると、彼女は刀を捨て腰に備えてある細長い筒を握った。



 

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