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女性の数が9割以上の世界に俺は降り立ち、イロイロと苦労する  作者: 銀色の侍
第九章 アゲルタム飲食店、料理対決編
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少年、守る為に戦いの中に身を投じる


 突如として現れた死人達に応戦するファストであったが、自分の眼前に居た死人達が勢いよく吹き飛んで行った。乱入して来た人物は獣を連想させる様な耳と尻尾を生やしている。


 「サード!!」

 

 自分の前に立って居る少年の名を叫ぶファスト。

 乱入者の正体は自分と同じ少年、サードであった。


 「お前何で…お前も避難を…」

 「大丈夫だよ」


 そう言ってサードは近くの死人の身体を手刀で貫く。

 

 「こうゆう時の為に鍛えてもらったんだから」

 「……」

 「オレだって守られてばかりは嫌だからファスト達と特訓を積んだんだ」


 静かな声で、しかし燃え上がるような瞳をするサード。

 するとファストの隣でクルスが水の魔法で死人を迎撃しながら、サードの意思を汲み取る。


 「サードなら大丈夫。私でさえ戦えるから…」


 短い一言と共に再び戦闘に集中するクルス。

 確かにサードとほぼ同じ時期で特訓を始めたクルスはファストの目から見て十分戦う力を身に着けている。そして、共に特訓をしたサードの実力も分かっているつもりだ。少なくともこの程度の死人に後れを取る事は無いだろう。

 ならばここで彼を引き留めるのではなく……。


 「行くぞサード」

 「了解!」


 共に戦いたいと言う彼の意思を尊重するファスト。

 ファストに戦力として数えられた事が嬉しかったのか少し大きな声で返事をするサード。

 変身した状態のサードの身体能力は凄まじく、死人達を次々と手刀や爪で斬り裂いて行く。その近くではクルスが水を鞭の様に形状変化させ、広範囲で死人を殲滅して行っている。


 「…あの2人、本当に強くなったな」

 

 短い期間の特訓で、すでに戦力に数えられる程の成長を遂げたサードとクルスに思わず感心をするファスト。恐らくだが才能という点は他の者よりも持っていたのだろう。

 すると、凄まじい轟音が鳴り響きファストがその方向へと振り返る。


 「邪魔だァッ!!」


 轟音の正体はブレーの振るった大剣による衝撃であった。

 地面へと振り下ろした彼女の大剣は振り下ろした地面をへこませ、周辺の死人を衝撃で吹き飛ばす。大剣を直接叩き込まれた死人は粉々になっている。


 「ブレーは流石に心配ないな。まあ、あいつの実力なら初めから不安など感じていないがな」


 元々彼女は自分と出会う前からギルドに所属し、この町でも屈指の実力者なのだ。この程度の相手に自分が心配する必要は無いだろう。しかも今は魔法面の訓練も行っているので、彼女の実力は更に増強されている。それを証明するかのように彼女の大剣には電撃がバチバチと宿っている。

 雷の大剣を振るいながら、ブレーは辺りを見回す。


 「クソっ! 術者は何処に…」


 次々と死人を狩って行くブレー。

 その時、頭上から鋭い殺気を感じ勢いよく後ろへと跳んだ。


 「っ……新手か…」

 「仕留めそこないましたか…」


 ブレーの前に現れたのは黒髪の女性であった。

 彼女は自身の髪と同じ色の刀を一度振るうと、構えを取って来た。


 「アイツは!?」


 死人を相手取りながら突如として現れた女性を見て驚くファスト。

 以前、サクラと共に依頼を受けた際に遭遇した相手、闇ギルド所属のクチナシであった。


 「ブレー下がれ、ソイツの相手は――――」


 ファストがブレーへ呼びかけている時、背後から殺気を感じ横へ跳んだ。

 その直後、彼の居た場所に拳を突き出した体制で1人の人物が立って居た。


 「アラ、避ケラレタ♪」

 「お前…イトスギの街で会った…」


 クチナシに続き、イトスギの墓地で出会った仮面の女であった。彼女はあの時と同じ仮面を付け、そして軽快そうな口調で話し掛けて来る。

 

 「久シブリネ、オ兄サン」

 「ああ、そうだな」

 「取リアエズ、アナタノ相手は私ガ……テッ!?」


 仮面の女が話している途中、刀で突きを放って来たファスト。

 足裏に風を纏い一瞬で間合いを詰められ、ギリギリのところで回避した仮面女。完全に回避しきれず仮面の頬の部分に小さな切り口ができる。

 

 「…素早いな」

 「モウッ、イキナリ過ギルワネェ! セッカチナ男ハモテナイワヨ!!」

 「死者を駒として扱う輩に言われたくないな」

 「イヤ…男ナラ今ノ世デハセッカチデモ好カレルノカシラ?」

 

 ファストの怒りを気にも留めず、関係の無い事を考える仮面の女。その態度に僅かな苛立ちを感じるがソレは奥底にしまい込む。闇ギルドの人間相手には一瞬の気の抜けが命取りになりかねない。目の前の相手に警戒を抱きながらファストはブレーに声を掛ける。


 「ブレー、気を付けろ!! お前の前に居るソイツも闇ギルドの人間だ!!」

 

 ファストの言葉を聞き、改めて目の前の相手を油断なく見据える。

 

 「闇ギルドか…以前ファストを狙って来たとは聞いてはいたが…」

 「はい、それは恐らく私でしょうね」


 あっさりと自分の行いを認めるクチナシ。すました顔で言われ、ブレーの大剣を持つ握力が強くなる。

 自分の好きな男の命を狙っている相手を前にして何も感じない訳がない。目の前の相手に抱いている怒りを言葉にしてぶつける。


 「いい度胸をしているな。私が心底惚れた男に刃を向けた事を馬鹿正直に容認しするとは……。ならば惚れた男を守るべく剣を持つ私に叩っ斬られても文句はあるまいな」

 「彼に惚れている云々以前に敵対しているのですから当然なのでは?」

 「ああ…そうだ…ナッ!!」


 身体をマナで限界まで強化し、爆発的な加速でクチナシへと斬りかかるブレー。

 上段から振り下ろされる大剣を刀で受け止めるクチナシであるが、大剣から伝わる筋力に少し顔を歪ませる。


 「潰…れろぉッ!!」

 「~~~っ!」


 ギリギリと少しずつ圧し込まれていくクチナシ。

 完全に圧し込まれる前に彼女は一気に腕の筋肉を使い、ブレーの大剣を真上へと持ち上げその場から急いで跳躍して距離を取る。しかし間合いを取らせはしないとブレーは再び距離を詰めて来るが、眼前に居るクチナシの姿がブレて消える。

 

 「何処に―――!?」


 クチナシの動きを目で追おうとするが、視点を動かすより先に背後から感じた殺気に身体が反射的に動き、手に持っている大剣を背中へと回し背後から斬りかかってきたクチナシの攻撃を防ぐ。


 「そこッ!」


 大剣を持っていない左手で手から電撃を放つが、紙一重でクチナシはそれを回避して再び距離を取る。

 

 「ちっ…避けられたか」


 相手に攻撃を避けられたのも癪だが、それ以上に今の様な情けない電撃を放つ自分にも僅かながら苛立ちを覚える。ファストと共に訓練を積んで少しは魔法面もマシにはなりはしたが、それでもこの程度の威力しか出せない。

 ブレーの放つ魔法を見てクチナシは小さく笑った。


 「随分微弱な電撃ですね。とは言え、直撃すれば体が麻痺しかねませんが…」

 「スマナイな。一思いに感電死させられるほどの威力はまだ出せなくてな。当たれば中途半端に痛い思いをするかもしれん」


 皮肉交じりのセリフをクチナシと同じく小さく笑いながら言うブレー。

 そんな彼女にクチナシは不思議そうな顔で質問をする。


 「見た目のイメージから察するのであれば貴女は接近戦を主体とする戦士。それならば無理に魔法を完全に身に着けようとせずとも肉体面の更なる向上に勤しんでは如何ですか? 現に先程の膂力、純粋なパワーは私以上かと」

 「そうだな。だが、すぐ近くに肉体面と魔法面の両方を極めている男が居てな。ギルドの戦士の端くれとしては見習いたいんだよ」


 そう言って彼女はチラリとファストの方に目を向ける。それにつられ、クチナシもファストへと視線を向けるが、すぐに彼女の視線はさらに奥で戦うサードへと向けられた。


 「(ファストと呼ばれる彼の実力は把握していますよ。ですが、気になるのはあのサードと呼ばれる少年…)」


 獣耳と尻尾を生やしている少年が次々と死人を狩って行く姿を見て、彼女は心の奥底でボソッと愚痴を零した。


 「(まったく…今の世の男は脆弱である事が普通なのですが。あのような少年まであそこまで力を付けられると我々の手間も増えますね)」


 また一人、新たな敵が出来た事に頭を悩ませながら、再びクチナシは刀を構え直し、ブレーへと斬りかかって行った。




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