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女性の数が9割以上の世界に俺は降り立ち、イロイロと苦労する  作者: 銀色の侍
第九章 アゲルタム飲食店、料理対決編
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少年、突然の乱入者に応戦する


 アゲルタムの街で行われている料理対決、先に料理が完成したのはフルド側の代表であるナポリであった。

 用意された横長のテーブルにはフルドによって選出された三人の女性が座って彼女の料理を待っている。もちろん、そのうちの1人はフルドの息がかかっている八百長に加担している女性だ。

 ナポリもフルドの八百長作戦については事前に聞いているので、念のために右端の女性にアイコンタクトを送ると、瞬きを数度して返答して来た。


 「(ヨシ、あの女も協力する気満々ね。もしかしたら直前で寝返る不安もこれで消えたわ)」


 たかだか少年の写真程度で誘惑されるとは、随分と軽い女性だと内心で呆れる。その時、そんな考えは表情にも出ていたが、普段の態度がやる気を感じないため、ナポリの表情が僅かに変化した事に気付く者は居なかった。

 3人の女性達の席の前にどんぶりに移した自分の料理を置く。


 「私の料理はシンプルに激辛麺です。使われているスープには数多くの辛みのある香辛料を混ぜ合わせました。麺にも同様にです。そして、その辛みを抑え込むためにアマトリから採れる希少な光の卵をスープに混ぜ合わせました」

 

 手元のどんぶりを覗くと、審査員に選ばれた女性の1人が器の中を見て驚いた。


 「このスープ…少し輝いている…」

 「アマトリの卵を溶かして入れましたからね。スープと混ざったとはいえ微かな光を未だ宿しています」

 

 真っ赤なスープは卵の光が合わさり赤く怪しげな光を微かに放っている。そのスープを見て審査員の1人が食べる前からこの料理に対する高評価を付ける。


 「この料理、食べる前から人を驚かしてくれるわね。少し面白くてお店で出せば客受けもいいかも。コストはかかるだろうけど…」


 高評価を付けたのは八百長の女性だ。ナポリに料理に対する良い印象を他の2人の審査員に植え付けるためだ。

 だが、そのすぐ後に他の1人がこう言った。


 「でも一番大事なのは味よ。風味がいくら良くても味が伴っていなければ意味はないわ」

 

 その言葉に残りの1人の審査員も頷いた。

 そして3人が同時に箸を手に取り、麺を掴んで口に運ぶ。小さな音と共に麺を啜る3人。


 「お、美味しい…」


 八百長女が素直な味の感想を述べる。それは八百長に加担しているからではなく、食べて出た素直な感想であった。他の2人も同じく味の感想を述べる。


 「凄く辛い…たしかに辛いけど…」

 「でも…その後に来る甘味。これってアマトリの卵の…」


 恐ろしく辛いスープであるが、それをアマトリの卵の持つ甘味が見事に和らげてくれている。しかも、ゲキトウガラシとアマトリの卵が見事に調和が取れており、3人は今まで味わった事の無い辛くも美味い激辛麺を堪能する。

 

 「辛いけど…止まらない!」

 「カラッ! でも美味しい!」


 3人はあっという間にどんぶりの中の麺を全て食べ終える。

 その光景にナポリは内心でガッツポーズを取った。これでフルドからの特別ボーナスは自分の物に……。


 「大変満足してもらえたようで何よりです」


 一応表面上では笑顔を浮かべ、軽く一礼するナポリ。

 別段相手が自分の料理に絶賛してくれた事に対し、手ごたえを感じただけで喜びなど微塵も感じてはいないが。

 すると、自分の料理の試食が終わったと同時に向こうの料理も完成した様だった。


 「できた…よしっ!」


 ナポリの料理の試食の際も自分の調理に真剣に取り組んでいたレンゲ。

 完成した料理を審査員の前まで運ぼうとする。


 「(ふん…どうせ勝てっこないのに…ゴクローサン…)」


 総合的に考え自分の料理はレンゲを上回っている筈だ。しかも審査員の1人は自分達の息のかかっている人間なのだ。どうあがいてもレンゲが勝てるわけも無い。

 しかしナポリの考えとは裏腹にレンゲの瞳には未だ諦めの色は見られない。


 「(ほんっと、ウぜーのよ…)」


 ナポリを横切り、自分の料理を審査員の前に置こうとするレンゲ。


 彼女が自分のどんぶりを手に持った瞬間――――


 「きゃあぁぁぁぁぁぁッ!?」


 観客側から大きな悲鳴が聴こえて来た。







 レンゲの料理が審査員の元まで運び込まれている最中、観客の皆は当然審査員たちの方へ視線を向けている。しかし、観客達の最後尾の方に位置する女性の1人が背後から視線の様なものを感じ、何食わぬ顔で後ろを振り返る。

 

 「……ッ!」


 振り返った女性は声を詰まらせ、身体が石造の様に硬直してしまう。口元はブルブルと震え、隣に居る女性の肩をバンバンと叩く。


 「イタっ! 何よ…」


 突然勢いよく肩を叩かれて少し不機嫌そうな表情で隣の女性を見る。

 しかし肩を叩いた女性は何も答えず、震えながら指先を前方に向けるだけ。


 「?」


 怪訝そうな顔をしながらその指先を辿って行くと、その女性は隣の女性が指さしたものを見て同じように体が硬直する。だが、その数瞬後、腹の底から盛大な悲鳴を上げた。


 「きゃあぁぁぁぁぁぁぁッ!?」


 周囲の人間は突然の甲高い悲鳴に驚き、何事かと悲鳴を上げた女性を見る。

 そして――――その悲鳴は他の者達にも伝染して行った。


 「な、何よアレ!?」


 女性達の視線の先には複数の人間がいつの間にか立って居た。

 しかしその者達は皆、身体が土色に変色しており、肉が腐り骨が所々から覗いているおぞましい姿をしている。 

 その幽鬼達はゆっくりと観客達へと足を運ぶ。

 だが、突如吹き荒れる暴風が幽鬼達をかなり後方まで吹き飛ばした。


 「全員この場から避難しろぉッ!!」


 暴風の正体はファストの風の魔法であった。

 観客の中で後方付近に居たファストは迫り来る化け物にすぐさま反応し、女性達の前に立ち盾となる。

 未だ自体がよく呑み込めておらず戸惑う観客達へ向けて先程と同じセリフを叫んだ。


 「はやく逃げろと言っているんだ! 再三再四言わせる気か!!」


 ファストの怒号により、ようやく我に返った女性達は悲鳴を上げながらその場から逃げ出してくれた。

 

 「サクラ、皆が逃げられるように観客を安全な場所に誘導しつつ護衛を頼む」

 「うん、分かった」

 「ブレーは俺と共にコイツ等の処理だ」

 「ああ、了解した」


 それぞれがファストに返事を返すと、サクラは逃げる観客達の最後尾に位置取り共に移動する。万が一こちらに流れて来たあの異形を対処するためだ。

 

 「それにしても…アレは…」


 炎を両腕に宿しながらファスト達が戦っている異形達に目を向ける。サクラはあの異形をよく知っていた。何しろ、自分も過去にあの異形達とは戦った実績があるのだから。

 そしてそれはファストとブレーも同じであった。


 「おいファスト、コイツ等は…」

 「ああ、間違いない…〝死人〟だ…」


 肉体から魂が抜け落ち、腐った操り人形。

 過去にファストとブレー、そしてサクラが戦っている存在だ。死人の戦闘力自体は大したことは無く、この場にはファスト達以外にも何人かギルドの者が居り、自分たち同様に死人を片付けて行っている。この分だといずれは殲滅できるだろう。

 そう、死人だけならば大した問題ではないのだ。だが、何の前触れも無くこの死人達が湧いてきた、それはつまり……。


 「コイツ等を呼び出した奴がどこかに居る。ブレー!」

 「ああ、理解しているさ!」


 目の前の死人を一刀両断しながら応答するブレー。彼女もファストに言われずとも同じことを考えており、この死人を呼び出した術者が必ずどこかに居る。ブレーの脳裏には以前対峙した仮面の女の顔が浮かび上がった。

 そしてファスト達が応戦している時である、自分たちの前方に居た死人の集団を何者かが吹き飛ばした。



 

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