少女、衝撃的な出会いをする
「私が・・・負け・・た・・・?」
自分の敗北を受け入れられずにそう口にするブレー、しかし結果は変わる事などなく、彼女の敗北という事実は揺るがない。
悔しさの余り唇を噛みしめるブレー。
「これで認めてくれるのか?」
ファストがブレーにそう聞くと、彼女は少し悔しそうな顔をするが、すぐにどこか吹っ切れた表情となった。
「ああ、認めてやる。ここで敗者が何を言おうとも虚しさが広がるだけなのだからな・・・」
少なくとも自分に勝つほどの力量があるならば、このギルドのお荷物になる事も無いだろう。
「お前は骨があるようだな・・・」
ブレーはそう言うと、折れた剣を拾い上げてこの場から立ち去って行った。
ブレーが立ち去った後、周囲のギルドの者達は一斉にファストへと近づいてきた。
「おめでとうございますファストさん!」
「これからよろしくお願いします!」
「あの、よろしければ勝利記念に私の家でパーティーでも・・・」
「「「抜け駆け禁止!!!」」」
ファストの勝利に周囲で観戦していた女性達は一斉に沸く。これでファストがギルドに入ることが許されたのだ。希少な男性を確保できたことで彼女達は喜びをあらわにする。そんな彼女達を見てサクラの中には内心不安が沸き上がった。
「(もう、さっきまで負けた後の事を考えていたくせに・・・)」
随分と都合の良い女性達だと思うサクラだが、それ以上に今は気に入らないことがあった。
それは・・・・・今のファストについてだ。
「あの、よろしければ今度一緒に私と依頼を受けてみませんか!」
「いやいや、私と一緒に行きましょう!」
「えっと・・・」
湧き立つ女性達の対応に困っているファスト。
そんな彼の隣ではサクラが気に入らないといった表情で彼のことを見ていた。
「(なによファストったら、デレデレしちゃって!!)」
自分の事をマスターと言っておきながら他の女性にデレデレとうつつを抜かしているファストにむくれるサクラ。
もっとも、ファストは戸惑ってこそいるが全くデレデレなどはしていない。
その後もしばらくの間、ファストの周りにいた女性達によるこの騒ぎは収まる事はなかった。
ファストに群がる同じギルドの仲間達を遠巻きに眺めているヤイバ。
彼女は小さくため息を吐いてその光景を眺めていた。すると、彼女の傍に一人の女性が近づいてきた。
「盛り上がっているわね。という事は彼はブレーに勝ったのかしら?」
「ライティ・・・今来たの?」
やって来たのは金髪の少女、ライティ・シャーリー。このギルドに所属している一人である。サクラやヤイバともそこそこの仲を築いており、彼女達で共に依頼を受けることもある。
そんな彼女はこの日、決闘が終わった後にようやく広場にやって来ていたので、ヤイバが珍しそうな表情をした。
「ええ、勝負は彼が勝ったわ・・・ところで意外ね、あなたがこんなイベントがある日に遅れてやって来るなんて・・・」
「ああ、それが予想外の事態が私の部屋で起きて・・・・・」
「?」
ライティの言葉に首を傾げるヤイバ。しかし、どこか困った様な言い方の割には彼女の表情はどこか嬉しそうに見える。
「何があったの?」
「あ、いや、まあその、ね・・・」
明らかにはぐらかしている言い方と供のその場から立ち去るライティ。そんな彼女のことを不可解そうに見ながらも、とりあえず今はてんやわんやとなっているファストとサクラのフォローにヤイバは向かって行った。
「そっかー、あのファストって人が勝ったんだ・・・すごいな」
まさかブレーに勝てるとは思わなかったライティ。
しかしなんにしろ、これで彼は晴れてウチのギルドに所属する事となった。仲間達は皆、希少な男性が加入した事でさぞかし喜んでいる事だろう。もちろん自分も嬉しいと言えば嬉しいのだが・・・・・。
「(私にはすでに春が訪れたからな~)」
ギルドの皆はファストの気を引こうと必死になる事だろう。
だが、自分はそんな彼女達よりも一歩リードしている状態なのだ。
「(とはいえ、いつまでも黙っていていいものだろうか・・・)」
実は今、彼女はサクラとファストから聞きたいことがあった。
「(人の波が収まったらとりあえずサクラから聞いてみよう・・・)」
彼女、ライティは今日の朝に衝撃的な出来事を体験していた。そして、もしかしたら自分と同じ立ち位置である可能性を持っているサクラから聞きたいことがあった。
彼女がファストとブレーの決闘の観戦に遅れた理由も今朝のその出来事が原因であった。
時は今朝の目覚めた時まで遡る・・・・・。
「う・・・ん・・・」
朝日の光により目覚める少女、ライティ。
彼女はファストたちとはまた違う宿に宿泊しており、自分の部屋に設置されているベッドの上で目覚めた。今日はファストという男性のギルド加入を懸けた決闘の日、彼女もすぐにでもギルド前の広場に向かうつもりであった。
だが、彼女は目覚めと共に衝撃的な出会いを果たしていた。
彼女が寝ぼけた眼で隣に目を向けると――――――彼女の隣の布団がこんもりと盛り上がっていた。
「・・・・・うえッ!?」
膨らみを見てから数瞬の後、すぐに彼女の口から驚愕の声が出て来た。
「な、なに・・・・・」
ライティは恐る恐る盛り上がっている布団に手を掛け、ゆっくりと深呼吸をして――――――
「・・・・・それぇッ!!」
勢いよく布団をめくった。
そして、そこには・・・・・。
「んん~・・・」
一人の少年が自分と同じベッドで眠りに落ちていたのであった。
「え・・・」
ライティの思考が停止する。
目の前にいるこの人物はなんだ?
いや、どう見ても自分と歳も変わらない少年だ。それ以外ありえない。
「いや、ありえないのはこの状況でしょ・・・」
思わずそう口にするライティ。
だが、この状況では思わずそう口にするのも無理はないだろう。朝、自分が目を覚ますと同じベッドで少年が・・・そう、世界で一割にも満たない存在、男性が共に添い寝をしているのだ。
「うそ・・・どうしよう・・・」
軽い混乱に陥るライティ。
すると、少年が目を覚まし始めた。
「んん・・・」
「・・・・・」
「あ・・・」
少年は目をこすりながら隣に居るライティに目を合わせた。
とても綺麗で純真な瞳の少年、そんな彼に見つめられライティの心音が高まる。頬が熱くなり、赤く染まって行くのを感じる。
「あ~~~」
少年はライティの姿を見て間延びした声を出すと、そのまま彼女にゆっくりと抱き着いた。
「!!!???」
少年の突然の砲様にライティの顔は火が出る程に真っ赤に、そして熱くなる。声が思う様に出せず、口をパクパクと間抜けに動かす事で精いっぱいであった。そんな彼女に少年はどこか甘えてるような声色で話し掛けて来る。
「マスタァー、おはよー」
「お、おはようございます・・・」
今の彼女には深く物事を考える余裕が全くないため、少年の正体を聞くこともせずただ挨拶を返す事しかできなかった。
「んん・・・」
たった今、朝の挨拶をしたのも関わらず少年は再び抜けきっていない睡魔に襲われ眠りに誘われる。
彼の体から力が抜け、ライティに抱き着いたまま布団に倒れ込み、そのまま再び眠りにつく。ライティを抱き枕にして・・・・・。
「・・・・・・!?」
再び赤面しながら口だけをパクパクと動かす事しか出来ないライティ。そのまま彼が目覚めるまで彼女は抱き枕の様に彼に抱き着かれ続けたのであった。




