少年、降り立つ
人間という生き物には二種類の性別が存在する。
男と女、男性と女性、雄と雌。世間では色々な言い方があるが、2種類の性別が世界には存在し、人類全体の割合は男性が約6割、女性が約4割であった。
しかし、ある世界ではそれは今から約30年前の話であった。
現在の人類の男女比率は――――――男性がほとんど0に近く、そして女性がほとんどを占め、つまり100同然であった………。
男性の出生率はどんどん低下し、そしてついには世界の女性の大半は同じ女性しか出産しなくなってしまったのだ。
その原因は不明、何かが世界で起きているのではないかと思ったが、その謎は未だに解明されいなかった。
「う~ん、この世界はどうなっているのかしら?」
一人の赤い髪をした女性がそう呟いている。
彼女の居るこの空間内には様々な世界が映し出されている。ここは世界の管理所、ありとあらゆる世界が映し出されていた。
そしてこの赤い髪をした美しい女性はいわゆる神であった。しかし、彼女が管理している世界の中には神を名乗る存在は多く確認できるが、ここにいる彼女はそれらの上を行く存在である。なにしろそれらの世界を纏め上げている存在。上には上が居る・・・などと言うが、彼女にはこの言葉は存在しない。彼女の上は存在しないのだ。
そんな中、彼女は様々な世界を見て異常がないかを確認している。
そしてその中、神様はまた新たに変わった世界を見つける。その世界は男性の数が極端に少なく、女性の比率が圧倒的に多いのだ。
「う~ん、問題ではないけど、男性の数が異常な程に少ないわね。人間以外の生き物は男女比率は普通なのに……」
神様は頭を軽く掻いて原因を探るが、神とはいえ様々な世界で起きている問題全てを解決できるわけでもなく、ましてや彼女が直接赴いて世界を滅ぼしたり、作り替えたりなど、そのような事をするわけにもいかないのだ。
「う~ん、原因を調査したいけど私が出向くわけにもいかないし、よしッ!」
神様は今見ている世界に少し細工を施した。
「この世界は魔法が存在するファンタジーな世界ね。少し強い子が生まれる様に細工をして・・・ちょいちょい…とぉ…」
神様は作業を終え、一息ついた。
「とりあえず、原因を探る為の使いは送ったし、後はこの世界の子達に任せましょうか。さーて、次は………」
神様は今見ている世界から目を離し、別の世界を調べ始めた。
そして、神様の手によってこの世界には変化が生じたのであった。
「討伐完了っと……」
一人の桜色の長い髪をを靡かせている少女が目の前で倒れている狼を模している魔獣を仕留め、ほっと息を吐く。髪の色と同じ桜色を基本とした色調の服装、袖の無いノースリーブに、ミニスカートを履いている。
「さて、じゃあこの村の村長に報告して…ん?」
彼女は依頼を受けてこの村に出現した大型の魔獣を討伐した。
ギルドと呼ばれる場所には、今回の様な様々な依頼書が貼られており、そこには大勢の魔法を扱う者達が仕事を取っては依頼を果たしている。
ここにいる少女、サクラ・フレイヤもそのギルドで働いている少女の一人であった。
そして仕事が終わり、この村の女村長に報告しようと村の居住区に移動しようとすると、ある物を彼女は見つけた。
「あら、綺麗…宝石かな?」
彼女は地面に落ちている物を拾い上げる。
それは、青い色を放つ宝石の様に輝いている石であった。
「持って帰って鑑定してもらおうかな」
彼女はポケットの付いているスカートを着用している為、その石をポケットの中に入れる。その後、この村の女村長の元へと足を運んで行った。
「ありがとうございます、お蔭で村に平穏が訪れました」
「いえ、お仕事ですから」
居住区に移動し、村の女村長に礼を述べられるサクラ。
彼女は村長から報酬を受け取り、ギルドへと戻る。
「あの村も女の人ばかりだったなぁ…当たり前だけど」
村を出た後、サクラはそんな事をぼやきながら村まで来た道を引き返して行く。
世界から男性の数が減少してから、サクラは男の実物を見た事はたったの2回しかなかった。今となってはそれほどまでに希少な存在なのだ、人間の男性は。
「まあ、今や男性は国宝の様に扱われるからなぁ…」
男性が減少してから、男という生き物はその希少性から生まれた時から優遇扱いをされる。
しかし噂では、自分たちの様に男でありながらどこぞのギルドに所属している男性が居るとかなんとか・・・・・。
「私たちのギルドには男の人なんていないし…」
自分の様にギルドに所属している若い子達からはよく、私も恋をしてみたいなどというため息の声を聞いている。
「てっ、何を考えているんだか…」
サクラはそう言いながら、ギルドへと向かって行った。
「今日はここで野宿かな」
ギルドから依頼を受けた村に着くまでは二日を有したサクラ。当然帰りの道も行きと同じ時間がかかる為、ギルドまでの道中の途中で野宿をする事とする。
「この辺りでいいかな?」
森林に囲まれた場所で、見晴らしの良い場所を選び寝袋を広げようとするサクラであったが、寝袋を地面に広げたその時、彼女の手が止まった。
「…何か…いる……」
近くに感じる気配、そしてそれを証明するように森の中から複数の魔獣が現れる。
「魔獣の群れ、まさかここで遭遇するとはね」
彼女は体内に眠るマナと呼ばれる力を解放し、炎の魔法を発動する。
「フレイムスピア!」
彼女の両腕に炎の槍が形成され、それを魔獣目掛けて投擲する。
炎の槍は凄まじい速度で次々と魔獣を串刺しにしていく。しかし、魔獣達も彼女から投げつけられる槍を回避しつつ、サクラへと向かってくる。
「ちっ!」
槍の攻撃をこえ、何体かの魔獣が迫って来るが、彼女は炎の槍を手に持ち、喰らいつこうと向かってくる魔獣を蹴散らしていく。
魔獣の突進を躱しながら次々と数を減らしていくサクラ。
「さて・・・あらかた片付いたわね」
槍を回転させながら残りの魔獣の数を確認する。
「残りは3体、これなら大丈夫そう」
しかし、ここで魔獣達に援軍が現れる。
森林の奥から更にもう1体、魔獣が現れる。
だが、その魔獣は一目見ただけで他の魔獣とレベルが桁違いであることがよく分かった。まずサイズが他の魔物の3・・・いや、4倍はある。
「親玉といったところかな・・・」
サクラは炎の槍で先制攻撃を繰り出す。
しかし、魔獣は凄まじいスピードで槍を避けながらサクラへと突っ込んで行く。
「くぅぅッ!」
サクラは目の前まで迫って来た魔獣の突進をギリギリで回避し、再び槍を投擲する。
しかし、流石は群れの親玉、サクラの攻撃を紙一重で回避し続ける。しかも、他の生き残りの魔獣達もサクラへと隙を見て襲い掛かる。
「ちぃッ! きゃっ!」
そして、ここでサクラは致命的なミス、何と足を滑らせてしまったのだ。
「しま……」
「グオォォォォッ!!」
その隙を見逃さず、親玉の魔獣が大口を開けてサクラに飛び掛かって来た。
「くぅ…!?」
迫り来る鋭利な牙、それが今にも自分に突き刺さろうとした時――――――
彼女のポケット、いや……その中にある石が光を放った。
「な、なに!?」
青い光が彼女や魔獣達を包む。その光に魔獣達は驚き、その場から飛び退いて距離を取った。
そして、サクラのポケットからその石はひとりでに飛び出し、そして彼女の視界の少し先で空中に浮きあがり、佇む。
「な、なんなの…?」
眼前で浮かび上がっているその石を眺めて呆気にとられるサクラ。
そして、その石は先ほど以上の強い光を放ち、辺りを照らした。
「くっ…!」
その眩しさに思わず目を閉じるサクラ。
その数秒後、ゆっくりと瞼を上げていく……そして彼女の視界にはもうあの石は存在しなかったが、その代わりに別の物が………いや、存在がその場に立っていた。
「え………」
彼女が目を凝らすと、そこには一人の人間が立っていた。しかも、それは唯の人間ではない。この世界ではその数は一割にも満たない存在……自分と歳の変わらない――――――少年が立っていたのだ。