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序章:惨劇の来訪

 父と母の死体が折り重なるようにして目の前に転がっていた。

 通い始めたばかりの街の大学から、自宅に帰ったばかりの澄川(すみかわ)カンナは、両親の変わり果てた姿に悲鳴を上げた。

 着衣は真っ赤に染まり、辺りに立ち込める微かな硝煙の匂いと床に散らばった無数の薬莢が2人が銃殺されたことを物語っていた。部屋の中は酷く荒らされており、ありとあらゆる物が破壊されていた。

 父の死体は母を身体で護るように覆いかぶさっていた。最強体術である『篝氣功掌(かがりきこうしょう)』を極めた父が何故殺されてしまったのか。

 カンナは震える手を父と母の死体に伸ばした。


「カンナ……お前……無事だったか」


 父は生きていた。目を閉じ、口から血を流しているが、カンナが近づくとうっすらと目を開いた。


「お父さん! しっかり! 良かった、死んじゃったかと思ったよ! 誰がこんなことを? 待って、すぐにお医者さんを」


 カンナがすぐに医者を呼びに行こうとすると、父の血まみれの手がカンナの腕を掴んだ。


「いい。もう遅い。だから、俺の言うことをよく聞きなさい、カンナ」


 父は自分が助からないことを悟っているのか弱々しく荒い呼吸をしながら言った。


「遅くない! 絶対、助けるからね! お父さんもお母さんも」


 父は口から血を流しながら微かに首を振った。


「いいかいカンナ。お前はすぐにここから離れなさい。俺の財産を持って、出来るだけ遠くに、我羅道邪(がらどうじゃ)達の目の届かないところまで行きなさい。奴は『澄川』と『篝氣功掌の使い手』を根絶やしにすると言っていた。お前も狙われる。だから……」


「嫌だって! 私はお父さんを助ける! ここから離れない! 嫌、嫌だよ、絶対!」


 カンナは止めどなく零れ落ちる涙など気にもせず両膝をつき父の右手を両手で強く握った。


「言うことを聞きなさい。もし、まだ生き残っている澄川がいたら……共に逃げるんだ」


 父の目には弱々しい光が僅かに輝いていた。しかし、それも今にも消え入りそうだった。


「我羅道邪……そいつがお父さんとお母さんをこんな目に遭わせたんだね? 禁止されている銃を使って……」


 カンナが憎悪に燃えた瞳を父に見せると、父は咳き込み血を吐き出した。


「お父さん!?」


 カンナの心配をよそに父は苦痛に顔を歪めながらも何故か微笑んだ。


「お前には俺の『()』を渡そう。それと、母さんの青いリボンも持って行きなさい。きっと似合うぞ。母さんと似て、お前は美人だからな……」


 カンナは歯を食いしばりながら父の話を黙って聞いていた。父は震える手で母の髪から青いリボンを解き、カンナに渡した。そして、カンナの小さな手を握り締める父の大きな手からは、物凄く温かい父の氣の力がカンナの中に入ってくるのを感じた。


「いいか、俺の氣と母さんのリボンを形見だと思って、必ず生き残ってくれ。そして、篝氣功掌という体術を世界に広めてくれ。頼んだぞ。それが俺の願いだ、カンナ。もう、お前にしか出来ないことだ。決して、仇討ちなど考えるなよ」


「嫌っ! 私は、このお父さんから貰った氣の力と篝気功掌で我羅道邪を殺してお父さんとお母さんの仇を取る!」


 カンナが嗚咽混じりに叫ぶとまた父はまた首を振った。


「いいか、約束だぞ、カンナ……人を……憎むなよ」


 その言葉を最後に、父の目からは微かな光さえも消え、そして二度と喋ることはなかった。

 カンナは父と母の死体の前で泣いた。喉から血が出るほど大きな声で泣いた。

 泣いても、いくら泣き叫んでも、父も母も慰めてはくれなかった。こんなに泣いてるのに、自分の娘が目の前で泣いているのに――――――――


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