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4.

4.


 十二月三十一日。

 公園で大人や子供が遊ぶなか、噴水に腰かけて足を組み、頬杖をつく金髪くるくるカールの少女がひとり。


「これは、大変だ。繰り返してる。わたし、頭がおかしくなってなければ、同じ日を繰り返してる」


 他人が聞いたら病院を勧めるでしょうが、あにはからんやマッチ売りの少女がループしていることは事実でした。

 いくつもある魔法のマッチ箱。

 赤いマッチは擦れば夢を叶える。

 金色マッチは擦れば時間を戻す。


「……でも、戻るのはいつもあそこまでなのね」


 十二月三十一日の朝。

 マッチ売りの少女が両親にマッチを全て売るまで帰ってくるなと家を蹴りだされた瞬間までしか戻らない。


 どうせなら、父がこんなべらぼうに高いマッチを買う前まで戻してくれれば、わたしはマッチを売らなくてもいいのに。


「金色のマッチだけが、時間を戻してくれる」


 一度目。吹雪く寒空の下で、わたしが最後に明かりを灯したマッチが、運よく金色のマッチだったのだろう。

 そして二度目。女性から逃れるために使ったマッチも、おぼろげに見えた程度だが金色だった。


「一度目は夜だった。二度目は昼だった。決まった時間分だけ戻るわけじゃなくて、決まった時間に戻るのね」


 それは魔法のマッチが決めているのだろうか。

 いや、他に決める人もいないだろう。魔法のマッチであることを知っているのは、マッチ売りの少女だけなんだから。


「あ! さっきの男の子たちは? あの子たちも時間が戻ったことを覚えているのかしら」


 覚えていたら大変だ。悠長に噴水から公園を眺めまわしている暇ではない。

 ただ、確かめたいのも事実だった。

 マッチ売りの少女は、公園の時計を見ながら、男の子たちが通るのを待った。

 そして、男の子たちは寸分たがわぬ時間に噴水の前を通った。


「ちょいとそこらの坊ちゃん。魔法のマッチって知っとるか?」


 少女が声をかけると、子供たちは首を傾げた。

 子供たちは、金色のマッチを擦るまでの少女のした行動を、一切合切忘れていた。

 お金にならない子供だとわかると、少女はすぐに平素の口ぶりにもどった。


「知らないならいいのよ。年が明けるまでに公園のどこかに埋まっている金色のマッチを見つけると、百クローネがもらえるらしいから、きみたちも探すといいよ」


 子供たちは、すかさず顔を見合わせて、


「教えてくれてありがとう。目が少し黒いお姉さん」


と手を振りながらどこかに駆けていった。


「あそこまでいい反応を示すということは、あの子たちは本当に覚えていないのね」


 忘れられるのは寂しくもあったが、それ以上のうれしさが胸にこみ上げた。

 このマッチがあれば、何度も何度でもやり直すことができる。

 何度もやり直せるなら、四十クローネのマッチを売り切ることなんて簡単だ。いや、魔法のマッチなんだからもっと高くてもいい。百クローネでも買う人はいるだろう。

 なんどもやりなおしながら、買ってくれる人を探せばいい。

 少女は、やっと家に帰れると、公園を巡回する涼しい風に身を浸しながら思った。


「……そういえば、目が少し黒いって言ってたわね。私の目は金色だけど、そんな言い方をするなんて、変わった子ね。まあ、欲しいものに食べ物じゃなくてオペラグラスを望む子だから、考えることなんてわたしにはわからないわ」


 マッチ売りの少女は、一本だけの金色マッチをポケットにしまいこんで、マッチを売り始めた。


「マッチは要りませんか? マッチ一箱四十クローネ」





「なんで誰も買うてくれへんねん!」


 夕暮れ、粉雪が降ってきた。

 マッチ売りの少女は人のいなくなった公園の、噴水に座り込む。


「四十クローネのマッチでもええやん。そりゃあ外見は無地やで、細工のあるマッチにも見えへんわ。売っているのも美人じゃなくてちょっとばかし可愛いだけのうちや。でも、夢が見られるのじゃ!」


 やけになったマッチ売りの少女は、赤いマッチを擦る。

 噴水にはもう一箱分のマッチの捨て柄があった。

 少女が傍に暖炉を置き続けているのだった。


「こんなに温かいのに。温かいのは本物なのに」


 少女はマッチを擦りながら、鼻もすすりながら、そう呟く。

 やはり、四十クローネのマッチは売れない。なにか策を考えないといけないわね。

 マッチ売りの少女はマッチを見ながら考える。


「わたしだったら、マッチだけを買うことはないわね。だって、マッチだけあったってしょうがないもの。蝋燭を点けるのに必要だけれど、年末のこんな時期に慌ててマッチを買うなんて、準備のできないお馬鹿さんのすることだわ」


 消費者を小馬鹿にしながら、少女は唸る。

 それでも、いくつかのマッチを買う人はいた。勿論、誰もが普通のマッチとしてだが。


「そうね、安物でいいからコートを手に入れましょう。こんなボロ布の服でマッチを売っても同情でしか買ってくれないわ。逆に、同情で買ってもらったほうがよく売れるのかしら?」


 少女は悩みましたが、すぐに決断しました。


「両方、試せばいいわね」


 金色のマッチを少女は擦った。







 同情でマッチを買ってくれる人からの売上金で、安物のコートを買ってみた。

 結果としては、より売れなかった。

 ただの暴利な四十クローネのマッチは、同情という付加価値がないと売れないらしい。

 コートをまとったぐらいの小細工では、どうにも売れそうにない。

 もっと、根本的な策を考えないと。



 それと、マッチを擦って夢を見れる人といない人がいた。

 同情で買ってくれた人の中には、何人かが夢を見れた。

 魔法のマッチを信じてくれた何人かは、ひと時の夢を見られた。




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