嘘つきは恋の始まり
「よしっ」
俺は気合いを入れるために頬をパンと叩く。
何でこんな気合いをいれるかと言えば別に受験でもデートでもない。
つか今日は春休みだし。
ていうか問題は、今日が四月一日っつーことと、
隣の家に嘘つきが住んでるのが問題だ。
隣に住んでるのは相田美帆。俺はミィって呼んでる。ミィは俺を健太郎からケンちゃんと呼ぶ。
そんな俺とミィは隣人で同じ幼稚園どころか同じ病院で同じ日に生まれ、今までずっと同じクラスと言うまさに腐れ縁だ。
「ケンちゃ〜ん」
きたきたきたきたぁ!
俺とミィの部屋は向かいで屋根づたいに移動できる。いつでも移動するために屋根にサンダルが常備してたりする。
窓を叩いて開けろと言うミィに俺ははいはいと普段通りに開けてやる。ミィはいつものように何が楽しいのかにやにやしながら俺の部屋に入る。
ふ、俺をいつも通りと思うなよ。
「どうした?」
「ううん、暇だしケンちゃん『で』遊ぼうと思って」
く、巫山戯たこと言いやがって。だが普段から俺がお前に騙されまくってるのは事実。
ていうか俺も好きで一日一回騙されてんじゃない。あいつの嘘が巧妙なんだよ。
「そうか、ならゲームでもするか」
「あ、そうだ知ってる? ケンちゃんの好きなスーパークエストにファイブがでるんだよ。昨日ネットで公式サイトが発表してた。キャラも発表されてたよ、見なくていいの?」
「マ」
マジで!?
って、危ね〜。んなわけないだろ。半年前に4がでたばっかりだぞ。いやでもあり得なくは……いやない! だいたい先月にチェックした時にはなかったし、そんな噂もない!
「ああ、知ってる。主人公は3の息子なんだよな」
だから俺はミィから離れテレビ台からゲーム機を取り出しながら応える。
「ぇ…う、うん。そうそう! なぁんだ知ってたか」
くくく、戸惑ってるな。
「ああ。つか腹へらねー?」
「ん? 朝ごはん食べてないの?」
「食ったけど減ったの。とりあえずパズゲーでいいよな。ゲームの用意してるから一階からスイカとってきて」
「は? この季節に?」
「お前知らないの? 昨日お向かいが南の国の大王に就任したお祝いに配ってただろ」
「…なるほど」
「何がなるほどだ?」
俺はにやつく顔を抑えながらミィを振り向く。
「つまり! このあたしに決闘を申し込むわけだ! ケンちゃんのくせに!」
「は? お前何言ってんの? 今日エイプリルフールだからちょっと嘘ついただけじゃん」
ていうか普段嘘つきなお前にちょっと仕返ししようとしたんであって、別に喧嘩売る気はないぞ。
たがミィはびしぃと俺に指をつきさす(冗談でも比喩でもなく頬にさしてくる。お前爪が長いから痛いんだよ)。
「じょーとーだぁ! あたしの17年かけた嘘んこテクに勝てると思うなよ!」
思ってません。
ていうか自慢か。
「はぁ…別にいいけど。さっさとドリアン持ってこいよ」
「臭いよ! ってあたしがツッコミしちゃったよー!」
「ドリアンは美味いんだぞ」
「食べたことあんの?」
「昔はマレー半島に住んでたんだ」
「ずっとお隣さんだー! ってうわああ! ケンちゃんのくせにぃ!」
「うるさい。隣の新婚さんは昨日もお盛んだったんだから静かにしてやれよ」
「ケンちゃんの家は角だから隣はあたしん家だけじゃん!」
「ゲームしないのか?」
「やってられっかー!」
ミィは俺が配線したゲーム線を乱暴に抜いてテレビを消し、高らかに言う。
「外で勝負だ!」
嘘をつくのは楽しくないが、ミィの反応が面白いから俺は頷いた。
てか、俺って嘘の才能ある?
○
「ケンちゃんケンちゃん! 知ってた? PCってプライベートコンピュータの略なんだよ。偉いさんが個人的に使ってたからだよ」
「違う、パパコンピュータだ。父親が仕事で使うことからついた。」
「UMAって『嘘! まさか! あり得ない!』で未確認生物をさすんだよ」
「『噂の 摩訶不思議な あいつ』で未確認生物だ」
家を出た途端繰り出されるくだらない嘘。いつもなら普通の会話に時々出てくるから流したりしがちな嘘も、並べて聞くと面白い。
ミィは声が出かいのですれ違う人が笑ってるが、普段はチキンな俺もミィと一緒だと基本的に気にならない。
テキトーに言い返してやるとミィはむむむぅと唸る。
「こ、これで勝ったと思うなよー!」
「ミィ相手じゃ勝負にすらならないな」
だってミィと対立しようなんてはなから思ってないし。
幼なじみなんてベタと言われようが、俺はミィが好きだ。
ミィは容姿も性格も全部が全部可愛い。嘘つきだがそれも合わせて好きだ。
まぁ、ミィは全然そんな素振りないからたぶん俺なんか見ていだろうけどな。
「くぅうっ…ケンちゃんのくせにぃぃい!」
……てか、格下に見てるよな。
本気で悔しがるなよ、たかが嘘、てかデタラメの言い合いくらいでさ。これを嘘とカテゴライズするのかも分からないしな。
「あ、ケンちゃん見て見て、もうアイスクリーム屋台でてるよ」
「え、ああ…ホントだ。最近日差しキツイからな。とは言え、野外でアイスはないだろ」
「あたしストロベリー、ケンちゃんは?」
「話を聞け。あー…まぁ、ゲーセン行くならいいぜ」
室内なら普通にアイスはオッケー、てか俺の家は冬でもアイスがある。
スーパークエストのキャラつかったアーケードゲームがあるからたまにゲーセンには行く。
キャッチャー以外なら家で出来るからな。キャッチャーは基本俺は興味ないし。
「これカワイー」
ミィが言い出さない、限りは。
「よし、ならば俺が挑戦してやろう。」
バニラソフトクリームをコーンまで一気にばりばりたいらげて指を舐めてから財布を取り出す。
ミィはぺろりとまだ8割くらいあるストロベリーソフトクリームを舐めながら笑う。
「あは、期待しないよ」
「ちったぁ歯に衣着せろよ」
「ウ・ソ。嘘だよ。エイプリルフールだもん。いつも以上に今日は嘘つくよ。本心では期待してま〜す」
嘘ってかただのひねくれ者だろ。まあ…そういうとこも可愛いんだけど
「よし、任せるな」
「任せないー、頑張らないで、ケンちゃん」
○
何とか取れた。千円なら上出来だろ。俺はブサイクなクマのぬいぐるみをミィに渡す。
「ありがとー、やん、グルルカワイー」
「は? ぐる…なに?」
「グルル、知らないの? グルルの村シリーズの主人公だよ。」
「知らねー」
ほんと、ミィはそういうの好きだよな。
ミィは機嫌良さげにぬいぐるみに頬擦りし…
「おいミィ、アイス崩れそうだぞ」
「にぬ?」
まだ半分あるソフトクリームはだいぶ斜めになっていて某斜塔も真っ青だ。勿論かの有名な斜塔はテレビで見ただけだが。
ぬいぐるみにかまけすぎなんだよ、しょうがないやつ…。
「ほら、ん……久しぶりに食ったがストロベリーも美味いな」
長い付き合いで遠慮なんて欠片もなくさらにソフトクリームを半分にしてやった。
「……」
「ミィ? どうかしたか?」
「…あたしの勝手に食べないでよ」
「別にいいだろ、ちょっとくらい。ぬいぐるみ取ってやったのに、何が嫌なんだよ」
「……気持悪い、から」
「え…」
き、気持悪い?
俺が?
「ああ! 嘘! 嘘だよ!」
「え、ああ…そうか」
じゃあ本心は気持悪いの反対で……え
反対って、気持良い?
俺の視線に気付いたミィははっとしたように顔を赤くする。
「ち、違っ! 別に変な意味じゃない!」
「あ、ああ、分かってるよ」
んなことは分かってるが、そういう発言はやめろよ。
「もう…えと、とにかくグルルありがと」
「ああ…次は何する?」
「ん〜…パズゲーで対戦がしたくない」
「じゃあ俺もやりたくない。行かない」
笑いかけるとミィもニコリと笑う。うん、いつも通りだ。
○
その後は、いつものように映画を見たり買い物したりして過ごした。
「うぐ、うぬ、ごくっ。えへ、人のお金だと思うとなお美味しいね」
「性格悪いぞ。でもま、値段のわりには美味いけどな。でも最近段々値段上がってるよな」
安いから良いのに、値段上がっちゃ駄目だろ。
前は300円くらいで一食なのに今はバーガー一つでそのくらいするしな。
何の詐欺だよ。
「ねぇねぇ、次はどこ行く?」
「ん〜…一通りいつものコース行ったし、お前に付き合うよ」
「え……じゃあ、ね、お願いしないでいい?」
「? あ、ああ、えと、駄目」
使ったり使わなかったり紛らわしいだろ。普通に話さないか?
「うん、花見っ、お花見、しないでおこう」
「駄目なんじゃね」
なんで唐突に花見? と思ったがまぁ時期的にはばっちりだし賛成した。
ここからでも歩いて15分ほどで桜のある公園があるし、さらに足を伸ばせば桜並木の綺麗なとこがある。
どっちに行くと尋ねるとミィは秘密。と可愛く言った。
○
「ねぇケンちゃん」
「何だよ」
「綺麗でしょ」
「……まぁ、な」
ミィに連れてこられたのは小さい公園。休みなのに誰もいない公園は本当に小さくて水道と滑り台とブランコ、それと一本の大きな桜でいっぱいいっぱいだ。
高台にあることもあって割りと歩くので人はいないが景色がいい。今までこんなとこに公園があったなんて知らなかった。
「えへへ、でしょ? 月から見た地球より綺麗でしょ?」
「見たことねぇよ」
「え、無いの? おっくれてる〜」
「木星にばっか行ってたからな」
「…今日のケンちゃん、なんかノリ良すぎ。キモ」
「……」
どうしろってんだよ。
「ったく…お前は嘘が好きじゃないのかよ」
「ケンちゃんはバカだなぁ。嘘ってのは騙してナンボなの。嘘を言い合ってどうするのさ」
「いや、さっきので騙されるわけないだろ」
「分かってます! まったくもうっ…そんなマジっぽい嘘毎日毎秒つけるわけないでしょ。あたし、バカだもん」
お前の成績、俺より良いんですけど。
なに? 嫌味か?
って、どう見ても本気だよなぁ。なんか拗ねてるし。
「そりゃ、ケンちゃんみたく巧くないけどさぁ…でもでも! あたしが楽しいからいいの! 国際法の185でそう決まってるの!」
「無駄にグローバルだな」
てか俺みたいにて何だよ。
俺は今日はじめてお前に嘘ついた………よな?
あー…ガキんころとかよく覚えてねーし。一回くらいはあるかも知んねーけど。
「…ケンちゃん、その顔は忘れてる?」
「は? 何が?」
「もうっ、バカ! そもそもケンちゃんが嘘つきで、あたしにそれが感染った(うつった)んだからね」
「はい?」
なんと、この正直過ぎておこづかいをあげようと言われ続けて一財産築いた俺になんて言い掛かりをつけるのかミィ。
………勿論、嘘だけど。
「だいたいケンちゃんがあんな……やっぱりいい。」
「え、何だよ」
言いかけて止められたら気持悪いだろ。
「何でもない」
「何だよ」
言えって。
じっと見てるとミィはう〜と唸るとはぁと息を吐いた。
「あのさ」
「うん?」
「あたし、ケンちゃんのこと嫌い」
「………は?」
何で、んな突然? てか、え?
何で、顔赤いんだよ?
「嫌い、大っ嫌い」
ああ、そうだ。
ショックで白くなった思考が復活して、ようやく思い出す。
さっきから、ずっと言ってるじゃんか。
「死ぬほど、嫌い」
今日は、エイプリルフールなんだ。
ミィは、まっすぐに俺を見つめてくる。どうしようもなく可愛くて、抱きしめたい。
けど我慢する。
まだ、応えを言ってない。
「俺は、ミィが好きだよ。ずっと前から、好―」
「うわあぁぁあ―っ」
え、何で泣くんだよ?
は? ちょっ、何事!?
「み、ミィ?」
声をかけるがミィは泣きながら踵をかえそうとするので俺は無理矢理ミィの手を掴む。
「なんなんだよお前は」
訳がわからん。
つか泣いてても可愛い……俺、病気かも。
「あた、あたししのことは、ほっといて、よ!」
「無理に決まってんだろ」
「なんでよ!?」
なんでって…むしろ俺がなんでだよ。お前今、ひねくれた言い方で俺に告ったんじゃないのかよ。
「だから、ミィが好きだからだって」
「…………あれ?」
「何だよ」
つか、何度も言うとさすがにハズイんだが。
「え……もしかしてケンちゃん、あたしのこと好きなの?」
「ああ」
「……え? でも好きの反対は嫌い…」
「なんで俺までひねくれた告白しなきゃならないんだよ」
涙を拭うのも忘れたミィはぽかんと俺を見る。
つか仮に俺がミィに気がないとして、そんなふりかたがあるか。
好きに嫌いて…俺はどんなやつだ。
「だいたい、嫌いなやつとこんなにずっと一緒にいれるわけないだろ」
そう、だからいつも少しだけ期待してた。もしかするとって。
やばい、にやける。
だって俺、初恋の相手に告られたんだぜ?
「っ!!」
あ、赤くなった。
「バカ! あたし泣いちゃったじゃん!」
「可愛いよ」
「〜〜っ!! っ!?」
ミィは無言で俺を叩いてくる。俺は甘んじてそれを受ける。
しばらくそうしてるとミィは止めて、赤い顔のまま視線を落とし
「〜〜ぅ………ケンちゃんの……バカ…」
と言いながら俺の胸にぶつかるようにもたれてきた。
「バカはお前だろ。わざわざエイプリルフールに大嫌いって告白なんて…こんどはどこの法律で決まってんだ?」
「…ケンちゃんが悪いんだよ」
「なんでだよ」
「……覚えてないなら、いいよ。あたしは忘れないから」
だから教えろよ。
まあ…いいけどさ。
「ケンちゃん、あれ見える?」
突然、ミィが俺から離れると柵まで行き街を指差す。
「ん? なに?」
ミィの隣に並ぶが特に目新しいものはない。ミィはじれたように俺のシャツの首もとを引く。
「だからほらっ」
つられるようにミィと同じ高さの目線になる。
「ちゅ」
ぷに―と柔らかい感触に思わず頬を押さえながらミィを振り向く。
ミィは赤い顔のまま笑う。
「やーい、引っかかった」
ああもう、だから、可愛過ぎて反則だろ。
○
それは、あたしが今よりもっと子供だった時の話。
「ねぇケンちゃん、オママゴトしよ?」
「え〜……まぁ、いーけどさ」
「うんっ」
ケンちゃんは、オトコなのにあたしにつきあってオママゴトしてくれる。
やさしくてダイスキ。
でも、あたしはしってる。
ほんとはケンちゃんはそとであそびたいの。
でもあたしがヒトミシリ?で、ともだちがケンちゃんしかいないからあたしといてくれるの。
「ねぇケンちゃん」
「何だよ」
「あのね…どうしてあたしとあそんでくれるの?」
「なんだよ…オレといるねヤなのかよ」
「ちがうよっ…あの、でもケンちゃん、おそとではしったりしてあそびたいでしょ?」
あたしははしってもすぐつかれちゃうし、ころんじゃうから、だからいつもオママゴトとかしかしない。
でも、ケンちゃんはたいくつかなってときどきおもうの。
「べつに…」
「うそだよぉ」
「うそだけど…ミィのこときらいだからいいんだよ」
「え…」
ケンちゃん、あたしのこときらいなの? イヤだけど、あたしがひとりでカワイソーだからいてくれてるの?
「う…ぅわぁああ」
ないちゃだめだ。
ケンちゃんがこまっちゃう。
「な、なくなよ」
ほら、なきやまなきゃ。
「うそだよ。きらいはうそだ」
「っ…うぅ、う、そ?」
「そう、うそだ」
「な、なんで…」
なんでそんなうそつくの?
うそはついちゃダメっておかあさんいってたよ。
あたしすごくかなしいから、やっぱりうそはダメだよ。
ケンちゃんはやっぱりあたしのこときらいなの?
あたしがないたから、うそっていってくれてるだけ?
「きょうは、えいぷるるひーるなんだぜ」
「えい…?」
ケンちゃんのことばがわからなくてあたしはケンちゃんをじっとみる。
「えいぷるるひーる! すきなやつにきらいってうそつくひなんだ。」
「そーなんだ」
あれ、じゃあケンちゃん、あたしのことすきなの?
すきだから、いつもあそんでくれてるの?
「えへ…あたしも、ケンちゃんきらい〜」
「ふん…オレなんか、もっとずっときらいだっての!」
『うそ』ってダメじゃないかも。
だって、すごくうれしいもん。
こうして、嘘つきなあたしができたとさ。
おしまい
エイプリルフールに考えたのにこんなに時間がかかってしまった…。
まぁなにはともあれ、読んでくれてありがとう。




