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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

白昼夢

作者: 地上

枕を変えたからかあまりよく眠れなかった。我ながら律儀に鳴ってからアラームを止めて布団を出た。体がだるい、頭はボーっとして少し痛い、いつも通りのはずの部屋には薄くもやがかかってるように見える。クローゼットから制服を取り出して、パジャマは布団に投げ捨てた。重い足取りで戸を開けて階段を下りながらだんだん腹が立ってきた。ムカつく、何が安眠だ、何が最新だ、だがもう前のはもう捨ててしまった。慣れるしかないのだろう。

今朝はパンだった。空腹を満たされたら落ち着いてきた。むしゃむしゃ食べながらニュースを見ていて、そういえば夢を見られなかった、いつもはこの時間にその日見た夢を思い出しながら朝食を摂るのが好きなのに、やっぱりむかついてきた。

テレビは最近、ニュースやら討論やらが増えて、この番組でさえ前より少しつまらなくなった。もう一枚をとろうとして、手が止まった。ニュースキャスターのやや無機質な口調は多少現実味を削いでくれたが、それでもその言葉には十分な力があった。

小さく絶望した、同時にそれを忘れてしまうのだろうと気づいたら、小さくはなくなった。

それでも進んで関われないから、いつも通り登校しなくてはならない。

何度も通った通学路、街路樹、舗装された道路。家の前の車通りの多い交差点さえ気を付ければ、半分眠っていても歩いてたどり着けた。

今朝は特に眠かったから、最初は気づかなった。


彼の顔や手は血に染まっていた。腹より下にあるべきものはなくて、飛び出た腸はかつて教科書で見た図とは違い、ぐちゃぐちゃにからまっていた。血ではない透明な体液もあたりにまき散っていた。

横たわる親友は失敗したのだった、自分の命を絶つことを、明るくない未来を拒絶することを。

彼は両足を失った自分を嫌って車を暴走させた。僕は助手席に乗り込んで、彼の必死の制止を払ってブレーキペダルを踏んだ。なんとか止まった車は、その直後に僕たちを乗せたまま爆発した。

彼はより多く失ってしまった。僕のせいだと思った。彼は一層濃くなった黒目でこちらを見つめるだけで首を振らなかった。

遠くで両目のくぼんだ女がこちらを見ていた。鼓動が早くなって、だんだん目の前が暗くなって、目を覚ました。


校門をくぐりながら自分が不眠にこんなにも弱いのかと驚愕していた。いくら寝不足気味だからって、まさか登校途中に夢を見るとは思わなかった。思い出すのもはばかられる悪夢だったが、よく考えると下半身を失った彼はまったく知らない人であった。そもそも足を失くしてどうやって車を運転するのだろう、夢の中では親友のように感じたが、はっきり覚えているあの顔を持つ知り合いは現実にはいなかった。それでもどうしようもなく悔しく感じた。

最悪の気分で教室に入ると、すでに喧騒にあふれていた。

さっき夢をさえ見たのに、既にひどく眠かった。自分の机についたら突っ伏しざるをえなかった。腕の間に顔をうずめると周りの会話が少し明瞭となった。やれパキスタン、やれイスラエル、どこにあるかも知らないくせに、ばかにしながら眠りについた。

ホームルーム前には起きられた、首が痛い。今度は変な夢を見なかったが、気持ちのいい目覚めでもなかった。

ホームルームが終わって退屈な授業が始まった。今日は朝からあんなニュースで精神が不安になったのか、どうにもいつも通りでいられず、幸運なことに移動教室はなく、眠ってしまった。


歩いている、裸足で砂をじゃり、じゃりと踏みながら。背のほうには延々とこれまでの足跡が続く。上からは燦々と暑すぎる太陽の光が注いで、ボロボロの辛うじて服と呼べる布切れをまとって、歩いている。前方には砂の山と青すぎる空とその境だけが見えている。一人だ。どれだけ進んでも一人である。なぜここにいるのか、どこから来たのか、わからない。終わりはない、その確信だけがあった。終わりのない旅路なのだろう、いつまでもいつまでも、何時間も何日も、歩き続けるのだろう。陽が沈むことはない、暑さを忘れることもない。永久なのだ。これは罰なのか、どうにか逃れたい、そんなようなことは考えるだけ無駄なのだろう。永久にこのままだ、終わりはない。そう思っているといつのまにか、骨だけになっていた。皮膚も内臓も血管も、脳も、心臓も、なにもかも、失って白だけになった、足が止まった。歓喜したが、歓喜できることに絶望した。終わりはない。


四校時が終わって昼休みの開始を告げるチャイムで目覚めた。嫌な、夢だった。

今朝から変な気分だが、変になったのは周りもだった。みんなどこか生き急いでいるようだった。いつもより話し声は大きいし、普段は話さないような人同士が仲良く過ごせてるふりをしている。内容も朝のようではなくて、流行りのドラマやテレビ番組、ペットや恋人の話をしている。

クラスの人気者の男子が唐突に、みんなで写真を撮ろうと言い出した。女子や取り巻きたちが撮ろう撮ろうと集まった、普段みんなと関わらないような暗いやつや嫌味を言うようなやつも、少し歪んだ笑顔で賛同した。クラスメート全員が集まって、ピースをした。シャッターボタンが押されると同時に、フラッシュを焚いていないのに教室は光に包まれた。町も人も、なにもかも、まばゆい光に包まれた。


五校時は寝て過ごした。

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