7:いざ迷宮へ
長い長い(実はそんなに長くない)迷宮編の始まりです。
アクセス数やブクマが日に日に増えてます。ありがとうございます。
「おかーさん、最初の噴水の所で待ってる」
「おーけい夜白ちゃん。急いで行くからねー」
入浴を済ませた二人は待ち合わせ場所を決めて、早速ログインすることになった。
待ち合わせ場所が噴水――というのは攻略サイトの情報だ。どうやら皆同じくして、スタート地点は噴水前らしい。
そんなこんなで養母と別れて部屋に寝っ転がった夜白は、ヘッドギアを被って電源を入れた。
* * * * *
噴水前で待つこと10分弱。もう何十回見たか分からない白い光が溢れ、丁度目の前に養母が降り立った。
が、夜白はそこで目を疑う事になる。
「夜白ちゃ――あっいた」
「おかーさん、なにそれ?」
絶世の美女がいた。
青い髪に青い瞳。色を弄っただけとはいえ、実の母親(養母)にやられるとどこか恥ずかしく感じてしまう。
養母は鼻を鳴らしてどや顔を決めた。
「――もういい。フレンド申請送る」
夜白は目の前の養母を見ながら『フレンド』を開く。目の前にいる――正確には自分の近くにいる人が自動的に検出され、フレンド申請が遅れるという仕組みになっているらしい。
夜白は表示された『ミサミサ』という名前に吹き出しそうになりながら、ウィンドウの「はい」に触れた。
「んーなになに、夜白はヤシロ――実名さんね。おーけーおーけー。あっ夜白、私のことはお母さんかミサミサと呼んでくれたまえー」
嬉々としてフレンドを承認する養母――もといミサミサに、夜白は無言で頬を引きつらせた。
ゲームの中で「おかーさん」と呼ぶのは確かに恥ずかしいが、それを「ミサミサ」と呼ぶのもまた恥辱の極みである。何が好きでこんなキャラクターネームにしたのだろうか。
夜白は深く溜息を吐いた。
「はぁ、とりあえず行くよおかーさん。グランドさんとアクアさんのとこ」
「おーけいっ」
やたらとテンションが高い養母をぺしぺしと叩きながら、メールで決めた待ち合わせ場所――アクアの店へと向かう。
アクアの店に着くのに、今度は3分もかからなかった。まぁ、夜白の歩調が早かったのか、養母は少し息切れを引き起こしているが。
「おかーさん、なさけない」
「夜白ちゃっ、どんな体力してっ、るのよっ」
――カラン、カラン。
不満を訴える養母を無視して店内へと足を踏み入れると同時に、心地よい鈴の音が鳴った。グランドとアクアは既に手近な席に座っている。
「おっ、来たか」
「ヤシロちゃんっ、会いたかったわー」
二人はそれぞれ夜白に手を振った。店内は相変わらず人が居なくて、がらんどうとしている。夜白がNPCのウェイトレスさんをちらりと見やると、微笑んでぺこりと一礼してくれた。
髭を生やした中年のおっさんが外は明るくても今は夜だ、と言わんばかりに酒を飲んでいる。教育に悪そうなこのおっさんはどこのどいつだ――とよくよく見たらグランドだった。お洒落な喫茶店に合わない風貌をしている。
茶髪を後ろで括った女性――アクアは、養母と同じくらいか、それより少し年下くらいだ。先程までのエプロンとは打って変わって、如何にも魔法使いらしいローブを羽織っている。
「そーいやお嬢ちゃん、さっき運営から発表があったぞ。今度PVPのイベントが開催されるらしいぜ――って後ろのは誰だ?」
「知ってる」
先程養母と攻略サイトを見た際に知った。もちろん、夜白も参加するつもりだ。
話が逸れてしまった。元の思考に戻そうとしたところで、後ろから養母――ミサミサがにょきっと割り込んできた。
「これ、おかーさん」
「夜白ちゃんのママ、ミサミサです」
「若いな」
「お若いですねー」
母親をこれ呼ばわりしたのは気にされていないようだった。
二人が若い若いと連呼する中、夜白は誰も名前に突っ込まない事に不安を感じた。
夜白はこほん、と咳ばらいをして話題を止める。ちなみに、夜白が咳ばらいをするのは滅多にない。レアである。
一同の視線が過剰に刺さる中、夜白は本題を切り出した。
「今日は軽く戦い方の説明と、おかーさ……ミサミサのレベル上げをお願いしたい――いい?」
「おうよ、勿論だ」
「ヤシロちゃんと冒険……楽しみね」
にやりと不敵な笑みを浮かべるアクアにぶるりと鳥肌が立ち、夜白は後ずさった。
「……はやく」
「はいはーい」
くいっとアクアのローブの裾を引っ張り、子供のように急かす。まぁ、実際子供なのだが。
夜白はアクアにぽんぽんと頭を叩かれて頬が緩みそうになるのを必死にこらえた。
「おし、じゃあ行くか。お嬢ちゃん、行き先は迷宮でいいか?」
「それなに?」
「いわゆるダンジョンだ」
「行く」
そう即答してがたりと立ち上がる。ロマン溢れる迷宮に、夜白の心は一瞬で揺れ動いた。
後ろでミサミサがわけも分からずぽかんと口を開いているが、気にしないのが(夜白の中での)鉄則である。
* * * * *
「ここだ」
グランドが足を止める。
迷宮は街の外れにある、魔を連想させる禍々しい巨大建造物だった。噴水前に立った時に魔王城があると思ったら迷宮でした、というオチである。
しかし実際見て見れば、城の形をした何かである。砦のような、塔のような――。
迷宮の前には結構な数の人がいるが、初心者装備のプレイヤーは少ない。グランド曰くモンスターの湧き部屋に閉じ込められたり、時々異常に強いモンスターが湧いたりすることが結構多いので、初心者にはお勧めできないらしい。
「迷宮は進めば進むほど敵が強くなる。今見つかってるのは18層までで、ボスはまで出てないな」
「兎も角、今は1、2層辺りでレベル上げしましょー」
「はいっ」
「りょーかい」
グランドが説明してアクアがまとめる。非常にバランスが取れた構成である。
夜白はメンバーを見回しながら初期装備のナイフをひゅんひゅんと素振りし、腰のホルダーに納めた。
「いつでも行ける」
「はわわ、心の準備がっ」
ミサミサは腰にぶら下がった片手剣を抜き、その柄を震える手で握った。
いつまで経っても震えが収まらない事にしびれを切らした夜白は、ミサミサの耳元に近づき――
「おかーさん、それじゃ落とせないよ――主任さん」
ぼそりと呟いた。
「はうっ」
ミサミサはピンッと背筋を伸ばし、頬を真っ赤に染める。初々しい反応である。これで乙女の母親が務まるのだろうか。
最も、『殺し屋』に乙女も何も無いのだが。
夜白は可愛らしい反応をするミサミサの頬を軽くつねってから、迷宮の中へと足を踏み入れた。
そんなやり取りを見守っていたグランドとアクアの視線には、どこか呆れが混じっていた。
「親子の関係逆転してねぇか? あれ」
「……そうね、私もやられてみたいわ。ヤシロちゃんに」
「ん? おめぇさん――頭大丈夫か?」
「至って正常よ。さ、ヤシロちゃん行っちゃったわよ」
アクアがミサミサを引き連れて迷宮の中へと入っていくのを見て、グランドは深く溜息を吐いた。
グランドのおっちゃんは今日も苦労人のようだ。
* * * * *
迷宮第一層には、結構な数の人がいた。剣士の他にも斧使い、弓使いや魔法使い、聖職者といった遠距離職や回復職に、ガンナーまでいる。夜白はきょろきょろと見回してみたが、暗殺者っぽい人は見当たらなかった。
「これは――凄い」
紫のような、黒のような色をした壁にはランプが固定されており、薄暗い室内を照らしている。
迷宮の中は軽く入り組んでおり、モンスターがひょっこりと飛び出てきて襲ってくるさまはまさに、『ザ・ダンジョン』といった感じである。
その一方で、早速格好いいところを見せてやろうと大剣を構えるグランドは、夜白含む女性陣に白い目で見られていた。「流石グランド、期待を裏切らない」、と夜白は心の中で称賛する。
「コールドランス」
グランドがむくれているのを無視して、アクアが氷の槍でモンスターを屠っていくのは壮観である。アクアは調節も出来るのか、HPを少しだけ残してミサミサにとどめを刺させている。
「おぉっ、すぱすぱ切れるよ夜白ちゃん! 包丁みたいだよっ」
先程まで生まれたての小鹿状態だったミサミサも慣れてきたのか、切れ味と五感のリアルさに感動していた。ヤンデレと誤解されそうなセリフのおまけつきだ。
夜白が少し目を離している隙(1分程)に、一体何匹倒したのだろうか。
「……おい嬢ちゃん、まだ3分も経ってないよな? なんでこんな進んでるんだ?」
「知らない」
同じ考えのおじさんがいたようだ。中年のおっさんと一緒は嫌だとつくづく思う。夜白くらいのお年頃なら、「うっさい死ねっ」「お父さんと一緒にパンツ洗わないで!」くらい言うのだ。やっぱり私の心は広いと夜白は思う。
とはいえ、流石に見ているだけじゃ退屈だ。
「――私も狩ってくる」
「お、おう。気をつけろよ嬢ちゃん」
夜白は無表情でそう告げ、アクアとミサミサの間を一気に駆け抜けた。
二人が戦闘中の某黒い狼、『ブラックウルフ』の後ろに3匹の『ブラックウルフ』が待機している。
夜白は気配を消して一匹の背後に回り、首にナイフを突き刺した。
声帯を貫いたのか、断末魔も出さずに崩れ落ちた『ブラックウルフ』から素早く手を放し、夜白は残りの二匹の背後へと駆ける。
突然姿を見失って戸惑う『ブラックウルフ』二匹の首を続けざまに切断し、夜白はグランドの元へと駆け戻った。
「……は?」
グランドはあんぐりと口を開けて、瞼をぱちくりとさせていた。口に至っては夜白の腕がすっぽり入りそうな大きさである。
「どうしたの? グランド、顎外れた?」
「いやいやいやいやっ、お嬢ちゃんなんだ今の」
慌てて詰め寄るグランドを見て、夜白は首を傾げる。奥にいた女性二人もまた、まばたきを忘れて硬直していた。
「? 至って普通」
きっぱりと言い放つ夜白に対して女性陣は硬直し、グランドは深く溜息を吐いた。
迷宮編の次は、リアルの話かPVP編にしようかと考えております。
ちなみに現在、迷宮編の終わりまで書き溜めております(´・ω・`)




