26:邂逅
遅れてすみません。一日二本立ては死にますマジで。
時は少し遡り、日が落ち切る前の話。
「……はぁ」
書類を眺めながら、斎藤は溜息を吐く。
紙の上に踊る、逮捕状の文字。多少手荒でも構わないから、コイツを捉えてこいとの上からのお達しだった。しかも、身柄拘束後の処遇は全て上が受け持つ、との如何にも怪しいおまけつき。
「主任、いきなり回ってきましたけど……これ、あの天才ですよね?」
「あぁ、間違いなくそうだ。だが――」
「犯行の証拠がない……?」
優秀な部下の疑問に、斎藤は頷いた後、答える。
「そして、まだ14歳の子供だ」
――神崎 夜宵。最近になって現れた、21世紀の大天才。
素性はあまり明らかになっていないが、彼がまだ中学二年生、夜白と同じ年であるのは事実。そして上層部――若しくは国が彼を極秘裏に捕らえようとしているのもまた、事実。
罪状は殺人。なんとまぁ、非現実的な話なのだろうか。
「……まぁ、考えても仕方ねぇ。とっとと行くぞ」
数人の部下を引き連れて、斎藤はパトカーに乗り込む。
揺れる車内。高速で流れていくビル群を眺めながら、斎藤は考えた。
(……きな臭い)
おそらく虚実であろう逮捕状に、急な呼び出しと隔離。これ程までに斎藤を殺しやすい状況は、他にない。
目的地に着く頃には既に、日は落ち切っていた。
「ここ……ですかね?」
「その筈だ」
まるでゴーストタウンのように集まった、廃ビルの一つ。ご丁寧な事に、犯行がここに潜んでいるから捕まえて来いとまで書類に書かれていた。
「上に人の気配はしねぇな」
「……分かるんですか?」
「最近鍛えられた」
鍛えられた。そう、夜白が原因である。いつも足音と気配を消している夜白といると、いつの間にか五感が鋭くなっているのだ。
「下、だな」
コンクリートがむき出しになった、寂れたビルディングのフロント内。その一角にある地下へと繋がる階段を、警戒しながら下っていく。
カツカツと靴の音が響くが、他の音は一切しない。
階段を下りきり、目の前に広がったコンクリートの世界にも、到底他に人間がいるとは思えない。
地下一階は、真っ暗だった。
「懐中電灯はつけるな」
「了解」
真っ暗闇に、地下独特の冷たい空気。空気には微かに刺激臭が――
――毒ガス。そんな単語が頭に浮かんだ。
斎藤はしまった、とポケットに手を入れた。
「今すぐハンカチ当てて上に走れ!」
全力で、階段を駆ける。
このような独特の匂いがする毒ガスなど、聞いたことがない。しかし、人の手を使わずに殺すのには、毒ガスが最適。証拠の残らぬ毒ガスなんかがあったら、どれほど有用だろうか。
――パン、パン。
響いた音が銃声だと斎藤が理解するのに、数秒要した。
ドサリ、と人が倒れる音。斎藤が階段を昇り切った時には、既に手遅れだった。
「しゅ、主任!」
突然死んだ一人の部下。そんな光景を見て、殺し合いとは無縁に生きてきた部下が、涙ぐんで声をあげる。
「あれ、一発外しちゃった」
誰かが近づいてくる音と、男の声。
「お前ら、逃げろ!」
柄にもなく、斎藤はそう叫んでいた。
「逃がすと思った?」
更に3発響く発砲音と、斎藤の足元にまで広がる、鉄臭い血液。
こみ上げてくる胃液を飲み込みながら、斎藤は目の前に立つ男を見据えた。
Tシャツにジーンズという一般的な格好をした、背の高い日本人。どこかで聞いた事がある格好だった。
「君とはお話をしに来たんだけどなぁ」
人を殺すことに何の忌避感も無いのか、男は陽気に話を進める。
「……ふざけんな」
「なんだい?」
「ふざけんな!」
「おっと」
警棒を腰から抜いて、斎藤は我武者羅に振り回す。
「荒事はしたくないんだけどなぁ」
直後、腹に衝撃を感じた。
ぐるぐると回る視界。ごろごろと地面を転がる、それなりに大きい図体。少し経ってから、男に蹴られたのだと斎藤は理解する。
「さて、どうだい? 夜白ちゃんの様子は?」
「か、はっ」
血液の混じった胃液を吐き捨てて、斎藤は男を睨みつける。
「……なんで、夜白、の事を」
「僕が生みの親だからさ」
意味が分からなかった。
夜白の生みの親。夜白が、作られた存在だとでも言いたげな、その言葉。
確かに夜白は異常な身体能力を持っている。が、それは教育の賜物ではなかったのか。
「まぁ、交渉は決裂のようだから仕方がない」
「何、を……」
手に持った拳銃を斎藤の頭に突きつけ、男は唇の端を吊り上げる。まるで、殺しを楽しむかのように。
「じゃあ、さような――」
銃声が鳴る前に、鈍い音に掻き消される男の声。男の体はそのまま地面に投げ出され、先程の斎藤のように転がっていった。
「……夜白?」
スタ、と音を立てて着地する、幼い少女。無表情だった筈のその顔は、その目つきは、鬼の形相そのものだった。
「どういうつもり」
男は、答えなかった。
地面に落ちた銃を拾い、夜白はすぐさま銃口を男に向ける。
――パン。
「ぐ――ッ」
うめき声が漏れた。
夜白は躊躇いなくその引き金を、男の脚に向けて引いた。
「答えて――」
「――フジモト」
夜白の紅い瞳は、闇夜の中で妖しく輝いていた。
新作の宇宙人と、少し話が繋がりました。
今後もちまちま登場します。
……そんなわけで、新作『Genius Reincarnation ~ 宇宙人、女の子になる』、投稿を始めました。
なろうこんに滑り込みです。はい。
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