23:予選①
無双と暗躍が始まります。
時間を潰して3時間。開場ギリギリに到着したアクアとグランドに、夜白は早速絡まれていた。
「それでだな、このプレイヤーが……」
「ヤシロちゃん、こいつの範囲攻撃には……」
長々と語る二人に、夜白は適当に相槌をうつ。
ちなみに、ここは闘技場の控室だ。とは言っても、個室と言うわけでもない。どっちかと言うと、酒場の方が近い。
ところで、だ。
ただ暴れたいだけの夜白には、面倒極まりない。というかそもそも、ネタバレしたくないのである。
「……はぁ」
「ん? どうした?」
嬉々として語っていたグランドが話を止め、夜白を心配そうに見つめてくる。
「もういい」
「おま、初見で『Ⅲ』は無理だっての」
「夜白ちゃんがやられちゃうのなんて見たくないわよ!」
「ん、あぁ……そう」
「そういやそんなタイトルのボ〇ロ曲あったな」
ため息交じりについつい地が出てしまう。というか、グランドはオタク系なのか。
予選トーナメントが始まるまで残り十分程。現実なら得物の手入れをしていたところだが、ゲームの中ではその必要がない。故に暇である。
「ひま」
「緊張の欠片もねぇな」
「そうみたいね」
声に出ていたらしい。両サイドから呆れの視線が飛んでくる。
「そうだ、嬢ちゃんは出番いつだ?」
「初戦」
「まじかい。俺はまだ先だぜ」
「私は最後から数えた方が早いわね」
予選トーナメントは参加者が多い為、何戦か並行して行われる。『Ⅰ』~『Ⅲ』を同時進行で、各部門何組かずつ消化していくらしい。無論、決勝・準決勝辺りは一組ずつやっていくようだが。
ちなみに一番参加者が多い部門は『Ⅱ』のようだ。夜白の予想通りである。
「そろそろかなー」
とアクアが言ったところで、夜白の目の前にウィンドウが出現する。転移のメッセージだ。
「……ん」
ウィンドウには「転移します。よろしいですか?」、の文字。棄権するか否か。夜白は無論、そんな事はしない。
『YES』に触れると、夜白の視界は暗く染まった。
* * * * *
「……さて」
転移先は闘技場のステージ。中世風なデザインの舞台の周囲には、半円形の結界が張られている。
「……ん」
空中に大きく対戦相手の名前とLVが表示された。対戦相手はサム、LVは47だ。やはり、レベルが高い。
そういえば、グランドとアクアも40くらいだったかもしれない。いや、グランドは50を超えていたか?
「……廃人?」
ばっかりなのだろうか。それとも、夜白が倒した死神の経験値が少なかったのか。
夜白より遅れて、少し離れた所に髪を金色にした青年が現れる。ちなみに金髪だからと言って、特段イケメンだというわけではない。身に着けている鎧が少し様になっているだけだ。
そうこう考えている内に、戦闘開始までのカウントダウンがスタートする。
夜白は『グリムリーパー』を右手に持ち、ローブのフードを被る。
「……ん」
よくよく見ると、自分の周囲にも結界が張られていた。おそらく、試合が始まったら結界による拘束が解除されるのだろう。
「すぅ――」
カウントダウンが残り1秒になり、夜白は静かに息を吸う。
『試合開始』
機械的な音声が耳に入った瞬間、夜白は一気に駆けだした。
「なんだ、餓鬼――」
対戦相手――サムがそこまで口にしたところで、その表情が恐怖に染まる。
「な――っ」
夜白は既に、サムの背後に回っていた。
慌てて回避しようとするが、時すでに遅し。
「はい――」
ニヤリと笑みを浮かべて、スキルを使わずに右手を横に薙ぐ。
「――終わり」
サムの首が宙を舞うのと、おそらくかなり高いであろうHPバーが全損するのは殆ど同時の事だった。
ゲーム内での時間にしても、試合開始から10秒も経っていない。
『Winner:Yashiro』というシステムメッセージと共にサムの肉体が粒子と化して消滅し、夜白の視界はまたしても闇に染まった。
* * * * *
――同時刻、控室(酒場)にて。
酒場の中心に浮かぶ巨大なウィンドウでカウントダウンの文字が表示された瞬間、まだ出番が来ていないプレイヤー達が一斉に集中した。
皆、優勝候補を予想したり、対戦相手の情報収集に熱心なのだ。
カウントダウンが始まり、プレイヤー達がごくりと息をのむ。
やがて『試合開始』の文字が躍った時、一つの画面から青年の声が聞こえた。
「なんだ、餓鬼――」
マナー違反だ、とプレイヤー達が非難の目を向けた、その瞬間――
「なに!?」
青年の首が、宙を舞った。
無論、それをやったのは対戦相手。そしてその対戦相手は青年が言ったように、幼かった。
「……何歳だ? あれ」
最早、誰一人として他の試合を見ている者はいない中で、一人の男性プレイヤーが声を漏らす。
「小学生? いや中1か?」
どちらにせよ、スキルを使わずに素人が出来る動きではない。
「あれ、スレで話題になってなかったか?」
「あぁっ、思い出した! あれだ、幼女スレだ!」
「あの子か。結局正体が分からず仕舞いで、ロリコンスレになったあのスレか」
話が広がっていき、主に男プレイヤーが彼女の話題を広めていく。
一部のプレイヤーが盛り上がる一方で、一人の男プレイヤーは黙ってウィンドウを見つめ、考え込んでいた。
――あの動きはまともな人間には不可能だ、と。
多くのプレイヤー達は「ステータスの補正があるから可能だ」、と楽観視している。それに以前の騒動で、少女――もとい、Yashiroがチートを使っていない事が明らかになった。
異様なプレイヤースキルに、『整形したとしか思えない』顔に、アルビノの特徴である真っ白な肌と、髪。
「……まさか」
一つだけ、心当たりがあった。
男は腰かけていた丸椅子から立ち上がり、表示されたウィンドウの棄権を選択して酒場の外へ出る。闘技場には観覧専用の酒場や、決勝などで使われる本ステージの席もあるため、人は殆どと言っていいほどいない。故に――
「……ん?」
始末をするには、丁度良かった。
ゲーム内だというのに、どこからか強い視線を感じる。
「……誰だ?」
当然、返事はない。
「があ――っ!?」
その代わりに、鋭い痛みが胸を貫いた。
痛みに胸を強く抑えるが、男の痛みは一向に治まらない。どころか、徐々に悪化している。
そのまま男が地面に崩れ落ち、肉体が粒子となって消失していく。
何十秒、否、何分経っただろうか。
男が消滅した後に、別の男の小さい声がうっすらと響く。
「実行部隊、こちら監視A。対象の死亡を確認。どうぞ」
少し間を置き、再度同じ声が発せられた。
「――実行部隊、了解」
さてさて、やってまいりました。始まりましたPvP。
ここから本編と言っても過言ではないです。
――とか言ってると、すぐ終わります。
完結までのカウントダウンが始まった気が……。




