22:少女ナイア
超絶伏線です。
伏線です――けどその正体は最後まで明かさないつもりです(´・ω・`)
だって、そっちの方が楽しいじゃまいか。
――翌日。
時刻は6時。まだ朝早いというのに、NRWの街はプレイヤー達でにぎわっていた。プレイヤー達は皆PvPイベントの話に持ち切りでテンションが高く、どこか危なげに感じる。
そして当然街の酒場等は混んでいたが、アクアの喫茶店は知名度が低いからか客はまばらだった。夜白達もその一員で、店の片隅を陣取っていた。
サリエルが一心不乱ににパフェを頬張る姿をポケっと眺めていると、正面に座っていたしゅにんに突然話を振られた。
「すまん夜白、俺達は棄権する」
「……なぜ?」
唐突な話に何か裏があるのではないか、と怪訝な目を向ける。
「まぁ、色々あってな」
「……おかーさん?」
「私からはなんとも」
はぐらかす二人に、夜白の視線は自然と鋭くなる。
「……さて、俺は仕事が入ったから落ちる。ミサミサ、後は頼んだ」
「はいはーい」
「……はぁ」
ガードが硬くて無理だと理解し、夜白は溜息を吐いた。
「……さて」
「?」
夜白が席から立つと、サリエルが目を丸くして注目してきた。口の周りにパフェがついているが、可愛いので少し放っておこうと企てる。
「私はもう行くから、ミサミサと一緒にここで待ってて。絶対」
「うんっ」
「ん」
しかし、夜白はもう出てしまうのだ。このままアクアやミサミサにサリエルが渡ってしまったら――
「あー。サリー、ついてる」
「ふえ?」
やるしかない。
夜白はサリエルの頬に着いたパフェを指ですくい、ペロリと舐める。
その行為にしばらく固まっていたサリエルだったが、ようやく硬直が解けると恥ずかしそうにはにかんだ。
「えへへ」
「ん……してやった。じゃ」
最後に頭をぽんぽんと叩き、店を後にする。少し心寂しい気もしたが、やはり気のせいだろう。気がしただけだ。
「さて」
店を出てからまだ一分経っていないと言うのに、道行くプレイヤー達の視線が夜白に集中していた。以前何度かあった騒動で、掲示板か何かで話題になっているのだろうか?
VRモノの鈍い主人公と違い、夜白に心当たりは結構ある。
まず一件目。迷宮でのチーター疑惑。いや、その前にも兎狩りを見られていたかもしれない。
「……はぁ」
溜息を吐いただけだというのに、プレイヤー達――主に男性プレイヤーがビクリと反応する。一体夜白が何だというのか。
話は戻って二件目。裏らしき迷宮は例外として、その後――昨日の夕食前のレベル上げ。
……レベル上げと言っても、夜白のレベルが上がったわけではない。昨日は斎藤のレベル上げを眺めていたのだ。いや、何匹か暇つぶしに狩りはしたが。
三件目は昨夜から今にかけてだ。途中で睡眠をとりはしたが、喫茶店でデザートを楽しんだ後にフィールドで少し暴れてしまった。
レベルが少し上がったが、まだ31。そう、死神戦を入れてもまだ31なのだ。このゲーム、必要経験値が少しおかしくはないだろうか。
「んー……あ」
夜白の素の歩調に高AGI補正がかかっているおかげか、早くも闘技場に到着してしまった。
闘技場。PvPイベントの開催場所である。
「まだ早い……筈なんだけど」
まだイベント開始まで3時間以上時間があるというのに、闘技場の周囲、また受付は大勢のプレイヤーでにぎわっていた。その規模は今までの道とは比較できない程多い。
闘技場の周囲には公園のような場が広がっており、主に女性プレイヤーがベンチに腰かけて思い思いに過ごしている。
「……ッ!?」
突如、ゾワリと悪寒が走った。現実でも何も起きていないし、この世界では、普通なら寒気という現象は起きない筈である。
夜白は直ぐに、悪寒が走った方向を振り向いた。
「……?」
少女がいた。
薄い紫のボブカットに、吸い込まれそうな程に真っ黒な、大きな双眸。背丈は夜白より少し高いくらいだが、見るからに幼いと分かる。
服装はパーカーにショートパンツという現代的な格好で、フードを被っていた。そういえば、通りの防具専門店――というか服の専門店に、そんなものがあったかもしれない。
――しかし問題はそこではない。
少女の顔立ちが、異様に整っている――整いすぎているのだ。
少女は夜白に気が付いたのか、ニッコリと笑みを浮かべる。
夜白は、少女と接触を図ることにした。
あくまでも平然を装い、速すぎない歩調で接近する。
「こんにちは」
「……ん、こんにちは」
いきなり挨拶をされた――いや、いきなりではない。挨拶は元から出会い頭にするものだ。
「あなたもイベント、参加するの?」
「うん、私も出るんだ! ライバルさんかな?」
「……ん、そうなるね」
少し口調を変えながら、少女の様子を窺う。
少女は笑顔を浮かべて、夜白の顔を向きなおした。
「なんていうの?」
「……夜白。よろしく」
「私はナイア。よろしくね!」
「ん」
夜白は握手に応じ、フレンド登録を済ました。
ニコニコと浮かび続ける笑みが偽物だと、夜白の本能が訴えてくる。熟練の殺し屋でも見抜けないような、非の打ち所の無い本物の笑顔。
(レベル50オーバー……不気味過ぎる)
フレンド登録の完了を知らせるウィンドウには、異様に高いレベルが表示されていた。
流れでフレンドもなってしまったが、これ以上の接触は危険かもしれない。そう考え、夜白はそろそろ移動しようと判断する。
「……そろそろ行くね」
「うん。またねー!」
ナイアがぶんぶんと手を振る。
夜白も適当に振り返して、その場から離れた。
次話からPvPイベント編(裏で伏線回収編)、始まります。




