21:密談
朝イチ更新。
遅れて申し訳ありません。
――いや、そんな筈がない。
自分とサリエルが同類だなんて、考えられない。否、考えたくない。
しかしそれは、同族嫌悪というわけではない。夜白と同じ道に、サリエルに来てほしくないだけなのだ。
「……夜白、どうしたの?」
「なんでもない」
サリエルに心配されて、自分の表情が硬くなっていたと気付く。
……何を言えばいいのか、全く分からない。これからどうすればいいのかも、全く見当がつかない。
先程まですらすらと喋れていたのが嘘のようだ。俗に言う『頭が真っ白』、という現象だろう。
「夜白」
不意に、しゅにんに声をかけられた。
しかし、これは夜白の問題だ。こっち側に来ていない斎藤と養母を招くのは愚策。最悪、二人がいなくなってしまう。
夜白としては、二人を巻き込みたくない。だから、二人が何を言おうと――
「夜白!」
「ッ! な、に?」
もう一度。
強く呼ばれて、夜白は掠れた声を出す。
「この件、俺達に任せろ。お前は関わるな」
「……でも」
珍しく強い口調で反論する夜白にしゅにんは少し驚いたが、迷うことなく続けた。
「大人を頼れ。お前はまだガキだ」
「……むぅ。最後の一言、いらない」
「事実だが?」
しゅにんがニヤリと笑みを浮かべた矢先。
「子供だから夜白ちゃんは可愛いのね! いや、大人になっても多分可愛いわ!」
「激しく同意! ヤシロちゃんこそ至高!」
馬鹿が復活した。
二人の空気に今までの空気は消し去られ、喫茶店の中を変態が支配する。
「……お前ら、イエスするのはいいけどタッチはノーだぞ」
「ごーたっち!」
「駄目だこりゃ。ムショいれるか?」
「しゅにん、それしたら悪化する」
呆れて言う男衆に、夜白も困ったと肩をすくめる。男衆の中に混じるのは不本意であるが、この場合女性陣にサリエルと変態しかいないので仕方ないと腹を括る。
「はぁ」
夜白は溜息を吐いてから、カタリと音を立てて席を立った。
「……まずはPvP。レベル上げ行く」
「まぁ、そうすっか」
賛同するしゅにん。よくわからないと首を傾げるサリエル。未だ騒ぎ立てる女性二人。
そんな中、グランドが爆弾を落とした。
「分かってると思うが――PvP、明日~明後日だからな?」
「えっ」
「えっ」
「えっ」
夜白一家は同時に、間抜けな声を漏らした。
* * * * *
「有給取れてよかったなぁ……」
「そうね……」
場所は変わって自宅のリビング。
ソファにて、二人で肩をくっつけて項垂れるリア充。有給だとか言いながら目の前でイチャイチャされているからなのか、夜白の頬はピクピクと引きつっていた。
……ふと見れば、時計の長針はⅩの字を指していた。今に至るまでに、養母が迷宮で閉じ込められたリ、養母が森のフィールドではぐれたり、夜白が養母に襲われたりと色々あったのだが、ひたすら混沌としていたので省略する。
「……どうしてこうなった」
夕食は昼のカレーの残り。食事を終えて夜白が風呂に入り、リビングに戻って来た時にはこの惨状だった。
「あっ、夜白ちゃん。明日と明後日、有給取れたわよぉ」
「……ていうか、そろそろ俺帰んないと。いつまでも居座るわけにはいかねぇ」
「主任――その、泊まってかない?」
言った傍からイチャツつき始める。
しかし夜白は、男女の対処法をマスターしていた。
「……ごゆっくり。私はしばらくNRW、やってるから」
二人が何も言わないうちにリビングの戸を閉め、部屋に向かう。
「あっ」
「えっ」
後ろから何やら声が聞こえたが、気に留めてはならない。
……部屋に戻ったところで何やらイケナイ声が聞こえた気もするが、それも気のせいである。流石リア充気が早い。
「……はぁ」
ベッドの上に寝転がって、枕元に転がるヘッドギア――NRWをちらりと見やる。
思えば、このゲームに関わり始めてかもしれない。否、養母に引き取られてからかもしれない。
だが、NRWを見つけたのも夜白だ。
……疫病神か何かなのだろうか?
「……ん」
考えても仕方ない、と考えて夜白はヘッドギアを被る。流石に、このまま聞き続けるわけにもいかない。
NRWの電源を入れると、夜白の意識は闇に落ちていった。
* * * * *
夜白がNRWにログインした一方で、リビングでは養母が斎藤に体重を預けていた。
傍から見たら、仲の良いカップルがイチャついているようにしか見えない。
「んんっ、しゅにーんっ」
「えぇい」
やたらと胸を強調してアピールを続ける養母に、とうとう斎藤が痺れを切らした。
……とは言っても、性的な意味で耐えきれなくなったのではない。
「谷口、いい加減やめろ」
「えー」
渋々身を引いて、養母がぶーぶーと唇を尖らせた。
「そろそろ夜白がログインした頃だろ。演技はやめろ」
「これでも結構本気なのになー」
再度ずいずいと身を乗り出し始めると、斎藤はソファの上で後退りする。
「おいばかっ、やめろといった筈で……」
「きゃ――っ」
ドサッ、という音に続いて、ガン、と鈍い音が響く。二人がバランスを崩し、ソファから雪崩落ちた音だった。
「……いってぇ。おいこら谷口」
おそらく強く頭を打ったであろう斎藤が、頭をさすりながら谷口を睨みつける。
「えへへ」
「えへへじゃねぇよ」
言いながら、谷口に手刀を落とす。しかしその威力は弱いもので、女性に対する配慮がなされていた。
「……で、本題は?」
「うぅ……。本題ね、本題。分かったわ」
目に涙を浮かべ、さりげなく頭を前に差し出す養母。頭を撫でて欲しいアピールだったが、斎藤にはことごとくスルーされた。
養母は少し逡巡し、斎藤へと目を向ける。
「夜白ちゃんの事、何か隠してない?」
「……何故そう思った?」
「なんとなーく。えへへへへっ」
「っておい、抱き着くな」
斎藤に抱き着きながら、にやにやと笑みを浮かべる。
「……はぁ、正解だ。なんでそんなに無駄な直感が働くのか、聞きたいくらいだな」
「やったー!」
「いや、やったーじゃねぇよ」
頭を撫でると思わせておいた後、斎藤は手刀を食らわせた。
「……さて、どこから話せばいいのかねぇ」
「無難なところから話してちょーだい主任ちゃん」
「おい、一応俺上司だぞ」
「気にしない気にしないー」
さりげなく斎藤の胸に頬ずりをしようとして、またしても手刀を食らう養母。もしこの場にいたならば、夜白の冷たい視線が突き刺さっていただろう。
「……さっき連絡があってな」
「いつ?」
「俺がトイレに行った時だ。あんときは気付かなかったのか?」
「欲を沈めに行ったのかと」
「……俺を何だと思ってる? 人んちのトイレでやるほど腐ってねぇぞ?」
その言葉の意味を理解した斎藤は、養母を睨みつける。
(話が進まねぇ)
斎藤にとっては、スムーズに事が進まないのが一番もどかしい。斎藤はせっかちなのだ。しかし断じてホモではない。
「谷口、覚悟は決めてるな?」
「ん? まぁ」
養母を真剣な顔つきで見る。養母も意味を察したようで、渋々ながらも斎藤から離れて床に座った。正座である。
斎藤は一瞬、周りに人の気配がないかを調べてから、口を開いた。
「明日の有給が取り消された。多分、明日から仕掛けてくるぞ」
「……夜白ちゃん?」
「いや――」
首を傾げる養母に、斎藤は少し間を開けて言った。
「多分、サリエルもだ」




