20:転機
さぁ、お話が動きます!
(起承転結の転……だと思います。はい。)
あっ、注意書きしてませんが、V R M M O は お ま け で す 。
……すいませんでした。
「たっだいまーっ!」
「……ただいま」
「ただいま!」
元気に声を張り上げるミサミサに、夜白とサリエルがそれぞれ続ける。
……夜白だけイントネーションが違う気がしたが、多分気のせいである。
「おかえりなさーい!」
「おう、戻ったか」
「……俺は初めましてだな」
返事を返す二人に、それを見て少し申し訳なさそうにする斎藤。というか、斎藤のキャラクターネームの披露はまだなのだろうか。まさか、ミサミサが言っていた『しゅにん』だというのか?
夜白がくだらない心配をしている間に、アクアとグランドが玄関先に小走りで移動して来た。
「軽く自己紹介をしておきましょーか」
「じゃあ新入りの俺からいくぜ」
アクアが話を進めると、一番最初に斎藤が手を上げた。待ちわびたとばかりに夜白はごくりと唾を飲み込む。
「俺はコイツとリアルの知り合いの『しゅにん』だ……ちなみに、キャラネームは主にコイツが決めた。カップルでも何でもないからネタにすんなよ」
――そのまさかだった。というか、流しそうになったが、さりげなく予防線を張っている。
夜白のそんな思考を読んでいたかのように、サリエルが勢いよく挙手した。
「二人は両想いじゃないんですかっ?」
「ぶふっ!」
夜白が息を止めて笑いをこらえていると、見事にしゅにんが吹きだした。そして夜白は今頃、この世界に呼吸という概念があることに気付く。
「あれあれー、しゅにーん、何か不味い事言ったかなー」
「言ったわ! くそ、からかいやがって」
挑発するようにニヤニヤと笑みを浮かべるミサミサに、それに突っ込みを入れるしゅにん。この二人はゲームの中でも変わらないようだ。
夜白は早く話を進めろとばかりにアクアを見たが、返って来たのは肩をすくめる動作だけだった。
「私はサリエルです! 以上!」
突然響く自己紹介。夜白がこの機を逃すわけがない。
「ヤシロ。暗殺者。以上」
「……あ、あぁ」
便乗して自己紹介する夜白に、しゅにんが何とも言えないような反応を返した。何なんだろうかこれは。夜白が口を開けると空気が沈むのだろうか。
「この喫茶店のマスターのアクアよ。ピッチピッチの魔法使いでーすっ!」
「……え、あ、はい」
きゃぴきゃぴとしたオーラを纏ってウインクをするアクアに、しゅにんはまたもや曖昧な反応を示す。
「俺はグランド、有名な斧使いだ。ちょっとした小話をするとだな……この嬢ちゃんが俺のなくなった娘に似てるんだ。いや――すまん、暗い話になるからこれ以上はまたの機会でな」
「……あ、はい。なんかすいません」
何故か謝るしゅにん。以前、夜白もこの話されたことがある。
「最後は私ね!」
どんよりとした空気が流れる中、ガバリと立ち上がったのはミサミサだった。
「恋する乙女ミサミサ! 年齢は秘密よ!」
沈黙が流れる。
主にアクアとミサミサだが、あまりにも痛々しかった。少なくとも夜白はそう思う。
隣を見れば、サリエルも珍しく死んだ魚のような目になっていた。こんな酷い表情を見るのは夜白も初めてである。サリエルもまともな思考をしているようだ。
未だ静かな喫茶店で、夜白が導いた結論は一つだった。
「まともな人がいない」
「……俺も?」
イケメンが首を傾げながら言うのをを聞いて、夜白は黙って首肯した。
* * * * *
「……というわけで、奇人しかいないけど話を勧めましょうか」
毎度司会役を買って出るアクアが、そう言いながら席に着いた。
メンバーが増え、いつもの四人席では収まりきらなくなったので、今回からは机を合体して8人席である。
全員座り終えてから、アクアは話を進めた。
「本題はサリエルちゃんのことと、おまけでPvPの事かなー」
「そうだな……まず軽くいけるPvPの話からだ」
顎に手を当てて唸りながら、しゅにんは話を切り出す。
「その前に、初心者って言ってたが大丈夫なのか?」
「なんとかするよ」
心配そうに言うグランドを軽く流し、しゅにんは夜白の方を見る。
「問題は夜白だ。こいつなら優勝も夢じゃあないが、確実にネットで話題になる。そうなると当然、リアルの事も詮索されるだろ」
「そうね」
一同が頷く。そんなにおかしいだろうか。
「出るだけなら大丈夫だとは思うが、出る分には一応手を抜くべきだと俺は思う」
「はい。めんどくさい」
「……と言われてもなぁ」
すかさず手を挙げて主張する夜白に困ったかのようにしゅにんが唸る。だが、しゅにんの言い分も確かに理に適っている。
ここは大人しく従っておくに越したことはないのだが――いかんせんここはゲームの世界だ。相手が死ぬ心配がないから、思う存分暴れられる。
今のようにぽん、と平和な世界に放り出されてしまえば、常識の違う世界で育ってきた夜白は耐えられなくなってしまう。現状、耐えられそうにない。
「……暴れないと、そろそろ限界」
「これは……相当ヤベェな」
本能的に危機感を感じたのか、しゅにんが肩をブルリと震わせた。夜白はそんなに見境がないわけではないのだが。
「まぁ仕方ねぇ、存分に暴れてこい」
「……やった」
保護者の――ではないが、許しが出て感情を抑えきれなくなりそうになる。
「こういう所はちゃんと子供っぽんだけどなぁ」
「喜ぶ夜白ちゃんは可愛い……可愛い……」
約一名危ない人がいた気もするが、なんとか許しを得られたので結果は上々。意外に嬉しいものだ。
「決まったか。じゃあ急げ、締め切り今日の3時だぞ」
今まで沈黙を貫いていたグランドが急に口を開き、夜白達は目を丸くする。
「……え?」
「今日の3時だぞ」
半信半疑でウィンドウを開く。
一番上に踊る、『14:50』の文字。残り十分――余裕の欠片も無かった。
「……参加、どうやってするの?」
「普通に特設サイトでだが」
「……せーふ」
否。少しだけ余裕があったようだ。
『その他』からお知らせを開くと、サイトへのリンクが記載されていた。
「ぐらんどは?」
「俺とアクアはもうエントリーしてるぜ」
夜白は急ぎ気味で空中に指を滑らせ、『エントリー』をタップする。
「ん」
キャラクターネームやレベル等が自動入力で、エントリーする部門だけが手動入力のようだ。部門は『Ⅰ』~『Ⅲ』があり、レベル制限は『Ⅰ』が1~15の初心者向け、『Ⅱ』が1~30の中級者向け、『Ⅲ』が無制限らしい。
上級者が初心者狩り出来ないようになっているあたり、運営はちゃんと仕事をしているようだ。
「……もちろん、やるなら『Ⅲ』」
「あー、俺らも『Ⅲ』だぜ」
「ん。ミサミサとしゅにんは?」
そう言いながら二人の方を見ると、頭を抱えて必死に考え込んでいるカップルがいた。随分と迷っているようだ。
「『Ⅲ』やってみたいけど……夜白ちゃんに殺されるのは耐えられない……」
「俺も夜白にやられるのは……」
「……原因私?」
「まぁ、嬢ちゃんにはなぁ」
何故夜白を倒せないということが前提なのだろうか。確かに色々と嗜んでいるが、これでもお年頃の少女であるというのに。
「……むぅ。じゃあ中級いけば」
「分かったわ」
「俺もそうするか」
随分と早い決断である。先程まで悩みに悩んでいた二人はどこに消えたのだろうか。
まぁそれは兎も角、間に合ったのだ。結果良ければ全て良しというやつだろう。
「じゃあ次のいやーな話に入りましょうか。いや、嫌な話って決まったわけではないけど」
「ん」
話にひと段落ついたところで、アクアが次の議題に移行する。嫌な話――つまり、サリエルの話のことだ。
今までは空気を読んでいたのか、おとなしくしていたが――
「分かった。シロの為だもん」
どうやら、まだ大丈夫なようである。
「話――って言っていいのかな?」
若干首を傾げながら、サリエルは夜白の方を向く。
一同がサリエルを注視する中、サリエルは平然と言い放った。
「私、閉じ込められる前の記憶があまりないんだ」
意味が、分からなかった。
「……サリー、詳しく」
夜白は震える声で、呟く。
「シロ、どうしたの?」
「なんでもない、から」
あくまで平然と。平然とだ。脳内に父親の教えが反芻する。
訓練でやってきた筈だ。どうすれば、何を言われても自然でいられるか。
「封印される前の記憶? ……うっすら覚えてるのは、男の人達に担がれて運ばれてるシーンかな。あとは、変な建物の中にいて、光に包まれたら鎖につながれて前の場所に閉じ込められてた、ってことくらい」
周囲でミサミサやグランドが何か話しているが、今の夜白には聞こえなかった。
「記憶は、元のが残ってたの?」
「うぅん、閉じ込められてるうちに、少しだけ思い出せたの」
なぜだろうか。不思議な事に、すらすらと質問が浮かんできた。
それと同時に発生する妙な不快感が、夜白の胸の奥を掻き乱す。これ以上聞きたくないと本能が言うの
に、夜白の口は勝手に動いていた。
「……閉じ込められてる間は?」
サリエルは首を横に振った。
「何もなかった。食べ物も飲むものもないのに、死ななかったの。トイレもしたくならなかったけど、私はもう慣れたよ。ごめんね、汚い話して」
寂しそうに作り笑いを浮かべるサリエルに、夜白は猛烈な違和感を感じていた。
「記憶は、どこまであったの?」
「うーん」
夜白が聞くと、サリエルは少し難しい表情を浮かべた。
「なんというか、一回すっからかんになって、元に戻った感じ――なのかな? ごめんね、分からないや」
「……ぁ」
珍しく、夜白は弱々しい声を漏らした。
夜白は考えた。否、考えてしまったのだ。
――私と……同じ?
次話、PvP始動。
PvPの裏で大イベントを起こしたいですね(ネタバレ)




