表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/27

1:殺し屋は養女になる。

本日二話目。

『殺し屋』、谷口 夜白(やしろ)は今、日本の警察に保護されていた。


 両親が逮捕されたので、夜白は留置という形で保護されているのだ。


「はぁ――暇」


 警察の某施設にある小さな部屋で、夜白は布団の上に寝転がりながら溜息を吐いた。


 がらんどうとした部屋の中には質素な布団と木製の机、設置された個室には和式トイレがある。逆に考えれば、それくらいしか物が無いと言える。

 警戒はされていても、配慮はされているのだろう。14歳の乙女である夜白は、他の囚人達とは遠く、離れた別室に留置されていた。

 することと言えば一日三回の食事に、排泄行為と水分補給。そして二、三日に一回のカウンセリングだ。

 言ってしまうと、それ以外は暇を持て余していた。


「筋トレしてなかったら絶対太ってた」


 平気で人を殺してきた夜白も結局は乙女。そうなるとやはり、一番気にするのは体型である。特にお腹回り。

 そんな悩みを抱えている夜白に、若いおまわりさん(女)が気を使って体重計を貸してくれたりと、夜白は以外にも不自由ない牢獄生活を送っていた。ちなみにそのおまわりさん(女)は、谷口美咲という。


 ――しかし、そんな生活も今日で最後である。


 かちゃん、と不意に鉄の扉が開かれる。部屋に入って来たのは、黒髪を後ろで結んだ若い女性――いつぞやの体重計をくれた谷口である。


 ついでながら言うと、谷口は結構美人さんだったりする。


「夜白ちゃん、出発しますよー」

「はい」


 夜白は軽い返事を返して立ち上がり、谷口の元へととてとてと歩いて行った。

 谷口はにっこりと微笑んで、夜白の長い白髪を右手でわしゃわしゃと撫でる。夜白は目を細めて、谷口の左手をきゅっと握った。実際、気持ちよかった。


「あーっ、夜白ちゃん可愛い! どうしてこんな人懐っこい子が!」

「あまり騒がないでください――おかーさん」

「可愛いー!」

「はぁ……」


 ――そう、夜白は谷口の養女になるのだ。


 苗字が『谷口』なのもその為である。元々の苗字は異なるのだが。


 谷口――改め養母は、勢いあまって夜白を抱きしめた。夜白は反射的に部屋の外を見てしまい、そこに一人の若い男性が立っているのが視界に入った。

 首からぶら下がっている名札には、『斎藤和樹』と姓名が書かれている。

 その様子を眺めていた男性――斎藤は、ピクピクと頬を引きつらせていた。


「おかーさん……後ろ」

「えっ」

「谷口ぃ、ここでやるなと何度言ったら分かるんだ?」

「しゅ、主任!? あわわわわわわっ」


 養母は慌てて振り返り、斎藤を見た瞬間に青ざめた。夜白はその様子をどこか嬉しそうに眺めていた。どうやら、斎藤は主任らしい。つまり養母の上司に当たるわけである。

 斎藤はやれやれと肩をすくめてから溜息を吐き、くどくどと説教を始めた。


「谷口、その子の養親になるんだからもうちょいしっかりやれ。けじめをつけろ――いいか?」

「はいぃっ!」


 こくこくと頷く養母を見て、斎藤が再度溜息を吐く。養母はいつもこうなのだろうか。だとしたら格好悪い――と夜白のテンションは少し下がった。著しく下がらなかったのだ。ましな方だろう。

 斎藤は視線を養母から夜白に移し、やや引きつったままだった表情を緩ませた。


「なんだかんだ言ってこいつは良い奴だ。少し頼りないかもしれんが――まぁ、よろしく頼む」

「了解……斎藤さん、おかーさんの事が好きなん――」

「ストップ! ていうか何故知っている?」

「分かりやすい。アタックしないの?」

「――ッ!」


 目を泳がせて狼狽える斎藤を横目に、夜白は養母の手を引いた。おっさんだったら気持ち悪くて吐きそうになるところだが、斎藤は若くてそこそこイケメンの類に入るのでセーフだ。


 斎藤はごほん、と咳ばらいをして、夜白の思考を遮った。


「さ、さて、そろそろ行こうか。谷口には有給が二日出ている。その間で親睦を深めるなり必要なものを揃えたりしてくれ」

「了解であります!」

「返事は『はい』だ」

「はいっ」


 まるで漫才のようなやり取りとする二人を見て、夜白はくすりと笑みを漏らした。

 夜白の笑顔が伝染したのか、やがて二人の表情も穏やかなものになっていた。


「あぁ――」


 斎藤がふと思い出したように声を漏らす。


「夜白が生活に慣れたら学校に行ってもらうぞ。それまで家で勉強もしてもらうからな」

「主任、大丈夫なん――」

「わかった」


 谷口が怪訝そうな顔をする前に、夜白は即座に承諾した。横から心配そうな視線が突き刺さるが、夜白は関係あるまいとそれを受け流した。


 ――とまぁ、こうして『殺し屋』は養女となった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ