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17:過去と決意

短い→ここ←長い

 谷口夜白――もとい、ヤシロ・ウィザーズは仕事を終え、自室のベッドに寝転がっていた。


 身に纏っているのは白のネグリジェ。そんな布に負けず劣らずの真っ白な髪に、病的なまでに色素の薄く、細い肢体。仕事を終えてきてから着替えてすらいないというのに、返り血の類は一切付着していなかった。

 夜白は天井を眺めながら、『日本語』で呟く。


「次の仕事、なんだろ」


 楽しみで仕方ない……人を殺すことに愉悦を感じるようになったのは、いつからだったろうか。そんな事を考えながら上体を起こす。


「ん――っ」


 喘ぎ声にも似た声を漏らしながら、夜白は一度伸びをした。

 左腕につけられたホルスターから漆黒のナイフを取り出し、刃こぼれが無いか等のチェックをする。異常は無かった。扱い方が良いのか、何度使っても状態は悪くならない。


「他のは使ってないから……よし」


 満足気に頷き、すたっと音を立てて地面に足をつけた。

 腕のホルスターの表向きの機能である時計を見て、そろそろ時間だと考える。

 次のターゲットはどんな人だろう? そんな事を考える度に、唇の端が自然と吊り上がる。

 部屋の扉を開けた夜白を出迎えたのは、父親――エドガー・ウィザーズだった。


「来たか。次の依頼の話だ、ついてこい」

「……はい」


 『英語』でそう命令する父親にはっきりと返事を返し、夜白は後についていく。足音はちゃんと消す。

 少し廊下を歩いたところにある両開きの扉の前で父親は立ち止まり、丁寧にノックを2回してから両開きの扉を開けた。中はちょっとした応接室になっていて、普段は対依頼人の際に使っている。


「失礼、遅れて申し訳ない。ヤシロを連れてきた」

「いや気にしてないさ……というか、まだ時間前だしね」


 流暢な日本語でそう言う依頼人は、シャツにジーンズというラフな服装をした、背の高いアジア系の――つまりは日本人だった。


「……じゃあお嬢ちゃん、自己紹介をよろしく。まぁ知ってるんだけど」

「はい。ヤシロ・ウィザーズ、殺し屋です」

「ふむ、礼儀はちゃんとなってるようだね、エドガー」


 日本語で紹介を終えた夜白の頭をぽんぽんと叩き、父親の表情を見る依頼人。依頼人が眉をひそめたのを、夜白は見逃さなかった。


「っと、紹介が遅れた。俺は依頼人のフジヤマだ。早速内容に入ろうか」


 夜白を舐めまわすようにじろじろと見る依頼人、フジヤマ。

 フジヤマはテーブル横に投げ捨てられていた革製の鞄から書類を取り出し、おちゃらけたように言う。


「あー、その前に座ろうか。お嬢ちゃんはスカートに気を付けてねぇ」


 夜白と父親が席に着くと、フジヤマは書類をペラペラと捲り始める。


「お、あったあった」


 途中で手を止めて、書類を机の上に投げ捨てるように寄越す。

 開かれていたページに印刷されていたのは、アジア系の男複数人の顔写真と、全身の写真。経歴などは一切書かれていなかった。

 夜白に分かった男達の共通点は二つ。皆一様に正義感や使命感といった感情に溢れた表情をしており、ガタイがいい。『ソッチの仕事』をしていると、一目で判別できる。


「で、当然殺しの依頼なんだが、条件がある」

「何――ですか?」


 急に話を振られて動じたが、夜白はすぐに気を持ち直す。

 フジヤマはニコリと笑顔を浮かべてから、右手の人差し指を立てた。


「死体を回収する事」

「おやすいごよう」


 ソファに座ったままでは床に届かない足をプラプラと揺らしながら、夜白は即答する。

 一瞬父親の視線が夜白に向いたが、フジヤマが大きく頷いてそれを遮った。


「じゃあ早速、今から頼めるか?」

「可能だけど……飛行機は?」

「んー……送ってってもいいけど、どうしよっか」


 少し迷っているのか、指を顎にあてて唸るフジヤマ。途中で父親が耳打ちすると、夜白に向き直って言った。


「民間用の飛行機でエドガーと一緒に行ってもらうよ。ミラも日本にいるしね」


 ミラ――ミラ・ウィザーズ。母親の事である。


「ナイフは?」

「こっちで送るよ」


 夜白がすかさず放った問いに、フジヤマはすぐに答える。夜白は安心し、ほっと息を吐いた。


「便は手配してるから、今から支度して出てくれ。武器は俺が責任をもって預かろう」

「了解」


 夜白はホルスターから小振りのナイフを取り出し、フジヤマに手渡す。同様に、父親はホルスターごと拳銃を手渡した。


「さて、では出発しようか。空港まで送るよ」


 そう言って、フジヤマは車の鍵をちらつかせる。


「……あぁ、頼む」


 申し訳なさそうに言って部屋を出る父親の後に、夜白はついていった。



   *   *   *   *   *



「……で、そん時のターゲットが、この件の被害者だと」


 ここまで話し終えた夜白に、斎藤が暗い声音で、納得したかのように言った。


「間違いない」

「……そういう事か――じゃあ谷口、そっちも頼む」

「え、私?」


 養母が間抜けな声を漏らす。


「サリエルの話とやらを忘れたのか。ほれ早く」


 てっきり話を逸らされたままなのかと心配していたが、どうやら斎藤はちゃんと考えてくれていたようだ。

 養母は諦めたのか溜息を吐き、渋々ながらも口を開いた。


「まず疑った点が、NPCか否かよ」

「何故だ?」

「NPCはプレイヤーという存在は知っているけど、それがどんなものは知らない。そして、興味も示さない筈よ」

「攻略サイトに載ってたな」


 斎藤が興味深そうに頷きながら、机に置いたメモにペンを滑らせる。


「でもサリエルちゃんはその真逆。プレイヤーという言葉自体を知らないし、どんな存在か――特に夜白ちゃんに関してに興味を示した」

「……うん」


 続いて夜白が相槌を打つ。


「夜白ちゃんもここまでは分かってると思う。次からが本題よ」


 そう前置きをして、養母はノートパソコンをぱたんと閉じた。


「NPCは確かに高性能な人工知能よ。でもそれは所詮、人間の劣化版でしかない」


 目を閉じて熱く語る養母に、夜白はついつい身を乗り出してしまう。


「門番とかの他のNPCを少し見た時に気付いたわ――プレイヤーとNPCには決定的な違いがある。NRWがどんな原理なのか分からないけれど、プレイヤーは現実と完全に同じ動きをしている」


「……NPCは?」

「微かな揺れや、細かい表情の変化が無い。ちなみに、サリエルちゃんにはあったわ」

「つまり――サリエルは、プレイヤー?」


「絶対とは言えないわ。実験中だから裏迷宮なんかに閉じ込めておいたのかもしれない」


 そう言って、養母は唇を噛む。


 この少女はNPCとは思えない――夜白がサリエルと初めて会った時、確かにそう感じたのだ。

 なにより、サリエルは夜白の初めての友達なのだ。簡単に見捨てたりしたくない。だから、


「知りたい」


 ――そう、思った。


「……安易に関わっていい話じゃないわ」

「それでも――サリエルが、人間だったら」


 夜白は強い意志を持って、養母の目を見た。

 しばらく沈黙が続いたところで、斎藤が口を開く。


「……分かった。俺も出来るとこまで、調べてみる。だがその前に」

「その前に?」

「サリエルって女の子に会わせてくれ。俺も直接話してみたい」

VRMMO編がまた始まります。

……とか言ってると、気が付くと現実メインになりそうです。というか結構現実メインの話になります。

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