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15:話し合い

超展開までまだ……もうちょっと……

短いです。

「正直言って――異常だわ」


 『異常』の部分をやたらと強調して、養母は斎藤を見据える。


「……そりゃ、そうだろうな。具体的には?」

「まず日常的な話ね。さっき公立高校の過去問をやらせたんだけど――満点だったわ」

「おぉう、頭もいいのかこいつ」


 少し意外だったのか、斎藤はおちゃらけながら眉を顰めた。


「家事も何もかも完璧で、料理を運ぶときに足音がしなかった。ソッチの技術についてはまとめて話すわ」


 斎藤は相槌を打ちながら、手帳にメモを取っていく。

 それからはそっけない行動・癖や銀行の預金残高についてが少し続いて、『日常的な話』がほとんど終わったのを感じ取ったのか、斎藤はふぅと息を吐いた。


「……じゃあ、ソッチの話に入ってくれ」

「えぇ、まずはゲーム――NRWの話ね」


 養母の表情が少し暗くなる中、夜白は一口コーヒーを口に含む。


「ゲームの事はよく分からないけど……夜白は一緒にやった人から見ても異常に映ってたわ。チートだと思われて通報もされたみたいだし」

「……運営に情報がいった可能性は?」

「いったわ――確実にね。私の不手際よ、ごめんなさい」

「不味ったかもしれんな。あのゲームの運営会社、裏で何かやってやがる」

「……主任、後で詳しく聞かせて。私も気になることがあるの」

「――おかーさん、サリーの話?」


 夜白がそう聞くと、養母は「えぇ」、と呟いて顔を俯かせた。

 主任の態度から見て、夜白よりも運営会社の方が警戒されていると憶測できる。何かに巻き込まれている気がしてならない。


「何かあったみたいだな。まぁ、とりあえず今は話を戻そう」


 夜白はこくりと頷いて、コーヒーを口に運ぶ。

 それを横目で見ていた養母は再度主任に視線を移し、口を開いた。


「主任、レベルとかってわかる?」

「まぁ、なんとなく」

「夜白ちゃんは初日で25のボスを二体撃破……次に75の裏ボスらしきものも撃破したわ。ちなみに夜白ちゃん、キャラのレベルは?」


 急に話を振られて反射的に肩を動かしながら、夜白は思考を巡らせる。


「……そういえば、途中からメッセージ無視してた」

「とまぁ、こんなわけよ。初めて数時間でとか意味わからないわ」


 そう言って、養母は呆れたように手をひらひらとさせた。

 夜白は怪訝な表情で養母を睨む。

 ……夜白とて、好きでこんな体になったわけではないのだ。


「とりあえずは、こんなものよ――それと、気になる点が一つ」

「言ってみろ」

「昨晩の夕食に口をつけた時、何故か夜白ちゃん泣いたのよね。カウンセリングの時も全く泣かなかったのに。夜白ちゃん、今なら原因分かる?」


 あまり思い出したくない事だ。当然、理由も分からない。


「分かんない」

「……その件も今は保留にするか。原因があったとしても、夜白の昔の事だ。後に聞こうか」


 皆再度口を噤み、シンと静まる。斎藤は何か考え事をしているのか、時折「うぅむ」と唸っている。

 次の議題――サリエルについての話が、切り出しにくいのだろう。少なくとも夜白はそうだし、養母もそう感じている筈だ。

 斎藤を見ながらコーヒーを口に含んでいると、養母が急に席を立った。


「ちょっと待ってて。部屋からパソコン持ってくるわ」

「……おう」


 夜白も同調して無言で頷くと、養母は駆け足で部屋から飛び出ていく。

 斎藤はそれを見届けてから、夜白の考えていることを探るような視線で目を合わせてきた。


「ふぅ……単刀直入に聞く。夜白――お前何者だ?」


 夜白はこの目に見覚えがある。

 警察に捕まって事情聴取された際に、最初に向けられた視線。社会というパズルから外れた、異常な存在に向けられる目。

 正直言ってこの視線は嫌いだった。無論、今でも嫌いだ。


「分からない」


 夜白は長い瞬きをして、そう言った。


「しらばっくれると?」

「……事実」


 胸の中を掻き乱されるような、不快な感覚が押し寄せてくる。

 夜白はそれを、ほんの一度も瞬きをせずに夜白をじっと見つめてくる斎藤の仕業だと踏んだ。異能サスペンスモノの定番の、心を読む能力か何かなのだろうか。

 10秒ほど経ってそれが収まったと同時に、斎藤は溜息を吐いて再度夜白を見据えた。


「どうやら本当の様だな。詳しく聞かせてくれ」

「……分かった」


 吐き捨てるように言って、降参だとばかりに緊張を解く。


「両親に引き取られてから殺し屋になったのは、知ってる筈」

「あぁ」

「引き取られて殺しを教わり始めたのは何歳だと思う?」

「ん? 赤子の時に引き取られたんじゃねぇのか?」


 眉をひそめる斎藤に向かって、夜白は首を横に振った。


「私が引き取られたのは、4歳の時」

「それまでは?」

「――記憶がない。すっぽり抜けてる」

「忘れたんじゃなくて?」

「違う。4歳の時には既になかった」

「……なるほど」


 そう呟くと、斎藤がガタリと音を立てて立ち上がった。


「……何?」


 夜白の元へ歩いてくる斎藤に、夜白は怪訝な視線を向ける。

 ぽん。


「……んぇ?」


 突然頭を優しく叩かれて、夜白の喉から間抜けな声が出た。

 そんな夜白に構わず、斎藤は『頭ポンポン』を続行する。


「お前の気持ちは分からん。カウンセリングの専門でもねぇ。俺にはこれしかできねぇ」

「……むぅ」


 この行為が思いをはせる異性に対してするものだと知らない夜白は、高鳴る鼓動に困惑する。


「……やめて」


 抗議の声をあげると、今度は優しく撫でられた。

 どうにか逃れようと頭を下げたが、大柄な斎藤には敵わない。

 夜白は斎藤を睨みつけ、頭に乗っていた腕を掴んだ。


「ん? っていだだだだだっ」


 一人の少女とはいえ殺し屋の端くれ。その辺のアスリートより強力な握力で握られた腕は、ミシミシと音を立てる。

 夜白が腕から手を離すと、斎藤はもう片方の手で腕を抑えて目に涙を浮かべていた。


「まだいてぇ。おめぇ握力何キロだよ」

「……自業自得」


 若干赤らんだ頬を膨らませて、頭のてっぺんを押さえてそっぽを向く。

 斎藤が涙目で何かを訴えてくるが、夜白は早くなる動悸でそれどころではなかった。


「……ふぅ」


 椅子に座った斎藤は、コーヒーを口運んで一息つく。


「……」


 夜白はちらりと斎藤を見やり、形容できない気分に襲われた。


「さい、とー」


 震える声で名を呼ぶ。呼び捨てである。

 夜白は速足で斎藤の傍に行き、顔を見上げた。


「……のって、いい?」

「んあ?」

「……膝」

「え? あぁ、別にいいが」

「ん」

 

 夜白はぴょんと斎藤の膝に座り、筋肉質な体に背を預ける。硬いかと思ったが、意外と柔らかかった。

 その瞬間、ガチャリとドアが開いた。


「あああぁぁーーーーーっ!」


 斎藤と同時に、声の主の方を振り向く。


「主任にも寝取られたあああっ!」


 すっかり聞きなれてしまったこの反応に、夜白は苦笑いを浮かべた。

ギリギリだった(´・ω・`)

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