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13:喫茶店で

サリエルちゃんの話は次話か次々話まで焦らします。はい。

 場所は変わり、アクアの喫茶店。今更だが、店名は『カフェ青空』というらしい。

 迷宮内でかなり時間が経ったのか、辺りはすっかり暗くなっていた。道を歩くNPCは少なくなっており、ほとんどプレイヤーしかいない。


 四人席に五人はどう足掻いても収まりきらない為、サリエルは現在夜白の膝に乗ってディナーを楽しんでいる。夢中で料理を頬張る姿は、まるでリスみたいである。本人曰く、


「そんなに一気に食べなくてもいいのに」

「むぐむぐ……食べれるうちに食べるの!」


 とのことである。どれだけ過酷な生活を送っていたのだろうか。


 ところで、最初はミサミサとアクアが夜白を膝の上に乗せたいと喧嘩をおっぱじめてしまい、危うく大惨事になる所だった。そして結局、夜白の膝にサリエルという結果になってしまったわけである。まぁ、サリエル本人が嬉しそうなので良いのだが。


「もぐ……ねぇシロ、私重くない?」

「ん、平気」


 最初はかなり衰弱していたサリエルだったが、今となってはすっかり回復していた。まだ食事をとっただけなのだが、顔色はすこぶるよくなっている。

 長年断食状態だったサリエルの腹はまだ満たされないようで、現在はウェイトレスさん達が大急ぎで追加の料理を作っている。先程「お疲れ様」、と労っておいた。


 ……とまぁ結局、デザートに移行するまでに結構時間がかかってしまった。というか、よくあれだけ食べてデザートが入るな、と突っ込みたいところである。


「じゃあお嬢ちゃん、詳しく聞かせてくれるか?」

「はむ……シロ、遅いけど時間大丈夫?」


 新しく皿を一枚積み上げ、サリエルが心配そうな表情でそう尋ねる。夜白はその質問に疑問を抱いた。


 ――NPCがプレイヤーに対して、時間について言及することはない筈である。ミサミサが帰り道ヘルプを音読していた際に、そう耳にした。

 NPCは、この世界での時間しか把握できない。そしてNPCは皆、プレイヤーの存在を認知している筈なのだ。


「私は大丈夫よ、ヤシロちゃんと触れ合えるなんて素敵!」

「俺も全然問題ないぞ」

「私もまだ大丈夫だけど……夜白ちゃん、そろそろ寝ないの?」


 ミサミサが不安そうに首を傾げる。夜中の1時。確かに夜白くらいの年齢の子供は寝る時間であるが、夜白に関して睡眠は心配ご無用である。『殺し屋』が動くのは基本夜。不眠には慣れている。


 それはさておき。


 夜白以外はどうやら、サリエルの言動に違和感を抱いていないようである。


 ――言うべきか、否か。


 難しい顔をして思案に暮れていると、それに気付いたのかミサミサが口を開いた。


「夜白ちゃん、どうしたの? 眠い?」

「違う――サリー」


 やっぱり言おう。そう決めて、夜白はサリエルの名を呼んだ。


「あなた、プレイヤー?」


 その問いにアクアとグランドが「何を言っているんだ?」、といった様子で首を傾げる一方で、ミサミサだけはハッと目を見開いた。流石、伊達に警察官をやっていないだけある。

 サリエルはその様子を眺めながら、かくりと首を傾げた。



「シロ――『ぷれいやー』って、何?」



 異常だった。夜白の表情が歪むほどに、特異な存在だった。


「――は?」


 だから、こうしてグランドが素っ頓狂な声を出すのも納得がいった。

 未だ理解していないアクアは、慌てて夜白に疑問を投げかける。


「ちょ、ちょっと待って。ヤシロちゃん、どういう事……?」

「……詳しくは分からない。ただ――」

「ただ?」


 アクアが語尾を繰り返す。頭を撫でられた時と違う意味合いで、夜白は目を細める。


「サリーは――この世界に『生きている』」


 アクアは更に「意味が分からない」、と表情を曇らせた。


「夜白ちゃん」


 不意にミサミサに声を掛けられる。

 ミサミサの手元にはいつの間にか、ウィンドウが浮かんでいた。他人にも見えるウィンドウはイベントの結果やインターネット、又は対運営のやり取り。このウィンドウは、後者だった。

 酷く震えた声で、ミサミサは続けた。


「運営に問い合わせたんだけど、『設定』って。でも――」


 ミサミサが途中で口を噤む。そこで、夜白はふと思い至る。


「……確かに、ゲームの中だと運営が聞いているかもしれない」


 だんまりとする一同。流れる空気は重い。


「ヤシロちゃん……どういうこと?」


 アクアの質問に、夜白の代わりに答えたのは、グランドだった。


「……通常NPCは、時間について言及することはねぇんだ」


 アクアの眉がピクリと反応した。夜白は、グランドに続けて言う。


「そしてNPCに、プレイヤーの存在を知らないものはいない」


 アクアの目が見開かれる。それ以降、アクアは口を開かなかった。

 どんよりとした空気が流れる中、夜白はくいっとローブの裾を惹かれる。瞳に涙を浮かべた、サリエルだった。


「ねぇ……シロ? どうしたの? えぬぴーしーって……何?」


 不安そうに、顔を見上げてくるサリエル。夜白は久しぶりに、焦りというものを感じていた。


 ――さて、どう説明したものか。


 もし彼女が機械ではなく『人間』なのだとしたら――いや、確実に『人間』なのだろうが、何と説明しようが愚の骨頂だ。サリエルの心がどう動くか分かったものじゃない。

 しかしそんな思考は、そのサリエルに遮られる。


「げーむって、何? 私が寝てる間に、何があったの?」

「……サリー。今までの事、話してくれる? 聞いてから、話す」

「――うん。でもごめん」


 一瞬、夜白は胸を突き刺されるような感覚に襲われる。しかし、それは杞憂に過ぎた。


「心の準備がしたいから――明日で、いい?」


 夜白はしばらく逡巡した後、こくりと頷いた。


「サリー。私達は今から『別の世界』に帰るから、この店で休んでてくれる?」

「『別の世界』……? ちゃんと帰ってくる?」


 不安そうに夜白を見上げるサリエルの頭を撫でながら、答える。


「もちろん」


 心なしか、サリエルが少し明るくなった気がした。しかしその直後、サリエルは申し訳なさそうな表情でアクアを見る。


「約束だよ? ……でもアクアさん、ほんとに泊まってっていいの?」

「ノープログレム! うちのNP……従業員用の部屋が空いてるから、そこで寝泊まりしてって! ウェルカムするわよ! ……まぁ、私はいなくなるんだけどねぇ」


 急にテンションが上がったり下がったりするアクアを見て、夜白は苦笑いを浮かべた――しかし。


「そうだ、ここに住めばいいのよ! ウェルカムサリエルちゃん!」

「……いいの?」

「寝床無いんでしょ?」

「……うんっ、その代わりに働きます!」

「あら嬉しい」

「む……っ」


 あっという間に打ち解けた二人。微笑ましい光景である筈なのに、夜白の心は言い知れぬ不安感に包まれた。

 ……とはいえ、アクアのコミュニケーション能力は凄いものである。険悪だったムードを、一瞬でひっくり返したのだ。その点だけ尊敬できる。

 頭の中で「だけ」を強調しながらジト目でその光景を見つめていると、横から野次がとんできた。


「夜白ちゃんもとうとう嫉妬ですかー。いやぁ、お友達が出来てお母さん嬉しいなぁ」

「まぁ、お嬢ちゃんも不安定な年頃だからな」

「ううぅぅぅ……」


 珍しく唸る夜白の頭を、ミサミサがぽんぽんと叩く。どこか気恥ずかしく感じた夜白は、静止させようとミサミサの腕を握った。


「……もういい、寝る」

「じゃあ私も」

「俺もそろそろ寝るかねぇ」


 むすっと頬を膨らます夜白に、ミサミサとグランドが同調する。

 すると、サリエルと戯れていたアクアが急に立ち上がった。


「んー……ここで落ちるのもアレだから、奥の部屋使って。案内するわよー」

「お、わりぃな」

「おっさんは別にここでもいいのよ?」

「勘弁してくれ」


 手を合わせて懇願するグランド。一同は「レッツゴー!」、と高らかに宣言するアクアの後に続く。

 店は意外と広いようで、無数の個室が備え付けられていた。夜白に割当たったのは、その辺の宿よりよっぽど豪華な部屋だった。


「ヤシロちゃんとサリエルちゃんは特別よ!」

「……ん、ありがとう。サリーに手、出したら殺すから」

「ヤシロちゃんが怖いわ。おやすみなさい」

「おやすみ」


 嬉々として部屋から出ていくアクアを見送ってから、夜白は溜息を吐く。


「……『ログアウト』」


 出現したウィンドウを操作し終えると、夜白の意識は徐々に薄くなっていた。

現実での戦闘とPVPイベント、どっちからやろうか迷います。

あっでもその前に学校が……


もう順番がぐっちゃぐっちゃやで。詰め込み過ぎんのもあかんなぁ。

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