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12:合流

長いかもしれません。でもそんなに長くないかもしれません。

シロサリで少しイチャイチャします。少しです。期待しないでください。

「ねーシロ、シロはどこから来たの?」

「私? んー……」


 突然の質問に、夜白は口を噤む。


 おそらく、ずっと封印されていたという設定なので、サリエルがプレイヤーの存在を知っているとは思えなかったのだ。

 説明したとしても混乱を招くだけで、サリエルの為にはならない。今はまだその時ではない、そう夜白は懸念する。


「ごめん。言えない事は誰にでもある……よね」

「……ありがとう」


 空気を察してくれたサリエルに感謝しながら、夜白は俯く。

 ちなみに、現在歩いているのは迷宮4層。サリエルがいるお陰なのか、不思議とモンスターは敵対してこなかった。


「わーっ! シロ、人がいっぱいいるよっ」

「ん」


 プレイヤー達が奇怪な視線を向けてくるが、サリエルの笑顔を見ているだけで夜白の心は不思議と和らいでいた。

 先程養母達にメッセージを送信した際に、3層入り口付近で待ち合わせをすると取り決めておいたのだ。むやみやたらにもめ事を起こしたくない夜白としても、落ち着いていられるのは好都合だった。

 晒され者になった気分を味わいながら歩いていると、すっかり見慣れてしまった階段を発見した。行きと逆方向に見る階段は、別物のようにも感じる。


「ん」

「シロのお仲間さん、どんな人?」

「変態お姉さんが二人と、KYのおっさんが一人」

「うっ……大丈夫か心配になって来た……」

「んー……まぁ」


 ゆらゆらとうなだれながら揺れるサリエルの頭を、夜白はぽんぽんと叩く。

 サリエルはむすっと頬を膨らませていたが、やがて口元を緩ませた。


「ふにゃー」

「く……」


 すりすりと小動物のように身を寄せてくるサリエルを眺めていると、何故か頭が寂しく感じる。いつの間にか甘え癖がついてしまったのかもしれない。

 そんなこんなでイチャつきながらも階段をのぼり終えた二人は、3層のセーフティエリアに違和感を覚えた。


 悪意を持った、人の気配。夜白もそうだが、長い間封印されていたサリエルもまた、そういった気配に敏感になっていた。


「――出てきて」


 夜白が出来る限り遠くまで聞こえるようにそう呟くと、男プレイヤーが5人ぞろぞろと姿を現した。


「よくわかったなぁ」


 ニヤニヤと気持ちの悪い笑みを漏らす男プレイヤー達は皆、それなりに上物そうな装備をしている。俗に言う『初心者狩り』というものだろうと推測する。


「さて、すまんがキルさせてもらうぜ。お嬢ちゃんたち」


 男プレイヤー達はそう宣言し、それぞれの得物を構える。


 実にこのゲーム、戦闘エリアでのプレイヤーキルが禁止されていないのである。

 おおまかなシステムとしては、キルした者はキルされた者から一定の割合のお金と、ランダムで一個のアイテムを奪えるというものがある。

 といっても、無数にあるアイテムの内の一種類しか奪えない為、積極的にプレイヤーキルを行うプレイヤーは少ないのだが。


「……はぁ」


 面倒くさい、と溜息を吐く。


 正直言って、いくらレベルが高かろうが、こういった類の(やから)には負けるイメージが湧かない。夜白にとっては残党狩りに等しいのだ。

 来るならもう少し歯ごたえのある奴に来て欲しい。そう願いながらがっくりと肩を落としていると、だらりと垂れ下がった腕をサリエルがちょいちょいと引っ張った。


「ねぇシロ、私やっていい?」


「戦えるの?」

「うんっ! シロに実力見せてあげるよ!」

「それは頼もしい」


 やったとばかりに拳を握り、ガッツポーズを決める。瞳には闘志が漲っているのか、キラキラと輝いている。

 サリエルは目標を見据え、ニヤリと笑みを浮かべた。


「やっちゃうよーっ、『死神の大鎌』!」


 前方に突き出された右手にどろどろと黒いオーラが集まり、文字通りの巨大な、二股の大鎌を形作る。元気な声音とは裏腹に、『グリムリーパー』の持っていた鎌に似た禍々しいデザインをしている。

 サリエルは青ざめる男プレイヤー達に、大鎌の先端を向けた。


「ひっ、コイツヤバイッ!」


 腰が抜けたのか、男プレイヤー達が次々と地面にへたり込む。


「だーめっ」


 今にも漏らしそうな勢いで後ずさるリーダー格の男に向けて、サリエルは大鎌を無慈悲に振り下ろした。


 リーダー格のHPを一瞬で刈り取ったサリエルは、その周囲に転がるプレイヤーに標的を絞る。

 今度は鎌を横に薙ぎ、一気に全員の首から胸部にかけてを刈り取った。

 そのまま壁に突き刺さった鎌はズドンッ、と轟音を轟かせる。


 もうこの娘がラスボスでいいのではないだろうか?……などと考えてる間にサリエルが大鎌から手を放す。地面に落ちる前に、大鎌は黒い粒子となって消失した。


「シロ、終わったよーっ!」


 サリエルが振り向いて満面の笑みを浮かべる。夜白もついつい釣られて、


「サリー、強い」

「えへへーっ、でも呆気なかったなぁ……」


 頭をわしゃわしゃと撫でると、サリエルは気持ちよさそうに目を細めた。最早恒例になっている。

 未だ健康状態は悪いままだが、封印が解けてからか徐々に回復している。食事をとって風呂に入れれば、サリエルはどれほど変貌を果たすだろうか。

 もしかすると劣るかもしれない、と不安になったところで突然、背後から聞きなれた声が響き渡る。


「あーっ! ヤシロちゃん寝取られたーっ!!」

「いや元々お前さんのじゃねぇよ」


 変態お姉さんの声に素早く突っ込みを入れるおっさんの声。アクアとグランドだった。


「サリー、あれ」

「変態パーティ? あ、芸人パーティ?」

「あながち間違ってない」

「おいっ!」


 サリーとの会話に突き刺さったグランドの突っ込みを無視して後ろを振り向く。よくよく見れば、そう遠くない位置にミサミサもいた。どうやら戦闘中のようだ。


「ヤっシっロっちゃーんっ!」

「わぷっ」


 不意にむにむにとしたものが顔に押し付けられ、息が出来なくなる。

 ここで気付かない程夜白も鈍感ではない。アクアの胸だった。

 アクアの胸の大きさを恨めしく思いながら、夜白は必死にもがく。


 ……しかし時すでに遅し。がっちりとホールドされた夜白は、抜け出すことが叶わなかった。


「シロを離してっ、このおっぱい女!」

「ぶふぉっ!」


 後ろでグランドが吹きだす音が聞こえたが、夜白にはどうしようもない。夜白にできるのは必死にもがきながら、谷の間で訴えることだけだった。


「はふあ、はあひへ」

「んっ? あぁ! ヤシロちゃんが今にも死にそうになってる!」

「お前さんのせいでな」


 本気で窒息死しそうなのにようやく気付いたのか、アクアがしぶしぶながらも夜白を解放する。男ならおっ勃てているシチュエーションであるが、生憎な事に夜白は色々のっぺりとした乙女である。気分は最悪だった。


 夜白は一気に奥まで入って来た空気にせき込みながら、不安定になった息を整えた。


「ふぅ……」

「……ふぅ、じゃない」


 賢者タイムに入りそうなアクアに、夜白は冷たい視線を送る。

「えー。またもふもふするぞー」


 ニヤリと不敵な笑みを浮かべるアクアに、背筋にゾクリと悪寒を感じた。


「……いやだ」

「つれないなー。さて、お姫様を紹介してくれるかな?」

「……はぁ」


 アクアがわきわきと手を動かすと、身の危険を感じたのかサリエルが身を摺り寄せてきた。やっぱりNPCにも体温があるのか、と感嘆する。

 夜白は再度溜息を吐いて、話を切り出した。


「この子はサリエル。隠し迷宮的なとこで会った」


 いつまで経っても手の動きを止めないアクアに震えるサリエル。意外な事に、グランドに対しても少し怯えが見て取れる。男が嫌いなのだろうか。


「にゃるほど」

「ほう、隠し迷宮か……ボスは?」


 いつものテンションで納得するアクアに対して、グランドはロマンを抑えられずニヤリと笑みを浮かべる。

 嘘を吐く理由も意味も特に思い至らない。夜白は当然だとばかりに言い放った。


「倒した」


 空気が凍った。

 アクアもグランドも何も言えぬまま、まばたきすら忘れている。そんな二人に更に恐怖したサリエルが、夜白にきゅっと抱きついた。


「どうしたの?」


 夜白が首を傾げると硬直がほぐれたのか、二人はピクリと反応した。


「……お嬢ちゃん、ボスのレベルは?」

「ななじゅーご」

「おいおい……そりゃトップの奴らも見つけてねぇぞ」


 呆れ果てたのか、グランドが吐き捨てるように言う。情報に疎い夜白には、何の話かいまいち理解できなかった。


「今の所、トップが見つけてんのがLV50台までだ。どれもフィールドでだな」

「フィールド?」

「嬢ちゃんが白い狼倒した森とかの事だ。あそこの正道を進めばボスがいて、他の街にいける。皆レベル上げは迷宮じゃなくてフィールドでやってるな」

「そうなんだ」


 なぜか自慢げに語るグランドを、夜白は適当に流す。

 その隣では、アクアが今にもしびれを切らしそうにあらぶっていた。具体的に言えば、凄くとてもプルプルしている。今もとてもプルプル震えている。

 夜白は見なかったことにして、グランドへと向き直った。


「……グランド、話の続き」

「ん? おう、そうだな。で、そっちのお嬢ちゃんはなんで迷宮になんていたんだ?」


 会話を再開すると、ようやくアクアが落ち着いた……とは到底言えないだろう。なぜか目が血走っている。

 サリエルが早速怯えている。確かに、夜白もあの野獣の様な視線は勘弁である。

 ブルリ、と一度震えてから、夜白はそっけなく答えた。


「サリーは封印されてた。詳しくは知らない」

「なんですって!? 私の可愛い天使のサリエルちゃんに酷いことする奴は一体誰なのよ! 成敗してやるわ!」


 いきなり発狂したアクアに、一同はドン引きした。主に夜白とグランドである。

 サリエルは震えあがり、夜白にしがみついている。否、しがみつくというより、抱き着いていると言った方が正しい気がする。


「アクア、『私の』いらない」

「はっ、ごめんなさいサリエルちゃん……」


 怯えるサリエルにようやく気が付いたのか、しゅんとするアクア。サリエルは少し安堵しているが、どこか申し訳なさそうにしている。

 しかし夜白が頭を撫でると、サリエルは嬉しそうにすりすりと顔を擦りつけてきた。可愛いと思ってしまった私はそっちの気もあるのか、と夜白は少し不安になった。アクアと同類は結構嫌である。


「……でも、私も理由くらいは知りたい。サリー、いい?」

「うん……でも、後ででいい?」

「そうだな。いつもの店で話すか」

「へい、ご予約承りましたーっ!」


 おちゃらけてビシッと敬礼するアクアに、苦笑いを浮かべるグランド。そんな一同を見て、サリエルは少し頬を綻ばせる。

 夜白がぎゅっと抱きしめて頭を撫でると、サリエルは気持ちよさそうに目を細めた。

 そんな時だ。女性の悲鳴らしき声が聞こえたのは。


「あああああああっ!」


 一同はそろって通路を振り向き、溜息を吐いた。


「夜白ちゃんが寝取られたあああぁっ!」


 何故なら、先程どこかで聞いたようなセリフを叫びながらミサミサが突っ込んできたからだ。


「……はぁ」


 夜白は再度溜息を吐き、手をガバッと広げて突進してくるミサミサの腹に一発、蹴りを入れた。

書き溜めが切れます――というか切れました。はい。

というわけで、更新頻度が毎日じゃなくなるかもしれません。

すいません。頑張ります。

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