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11:初めての『ともだち』

いつもより短いです。

 無論、断る理由がない。そう考えた瞬間ピロリンとSEが鳴り、夜白の手元にウィンドウが表示される。


「……クエスト?」


 クリア条件は、彼女を縛る鎖の破壊。報酬については明記されていなかった。

 このゲーム――NRWにおいて、クエストは勝手に受注されるものである。他のゲームと異なる点は、達成しなかったらそのままで失敗はない、というところだ。攻略サイトの初心者ガイドに載っていた。

 しかし、クリア報酬は確実に明記されていると記載されていた。異様に感じ、夜白はピクリと眉をひそめる。


「どうしたの?」


 元の口調でサリエルがそう問いながら、心配そうに首を傾げる。

 夜白は一瞬だけ顔をしかめ、再度サリエルの方を向く。


「……ん、何でもない。やる」

「ほんとっ!?」


 不安げな表情を浮かべていたサリエルが、目を輝かせて前のめりになる。

 チョロインは女同士にも適用されるのだろうか。そんなどうでもいい事を考えながら、夜白は『グリムリーパー』を構える。


「でも、確実にできるわけじゃない」

「……うん。でも、やってくれるだけで嬉しい」


 そう言って笑顔を作るサリエルに無表情を崩されながら、夜白は右手を縛る鎖に向かって『グリムリーパー』を振り下ろした。


「きゃっ!」


 パキン、という音を立てて鎖が砕ける。あまり力を入れていなかった筈なのだが。以外である。

 反射的に目を瞑ってきゅっと手に力を籠めたサリエルを気にかけながら、夜白は首を傾げる。


「大丈夫?」

「うん。続けて」


 承諾が得られたところで、夜白は夢中で『グリムリーパー』を振り下ろす。


 硝子の砕けるような小気味良い音が続けて響き、鎖を全て砕き終える

 ぽろぽろと床に落ちていった破片はモンスターと同じように、黒い粒子と化して空気に溶け消えていった。存外、あっけないものだった。


「……ありがとう。本当にありがとう、ヤシロさん」


 ペコリ、と頭を下げられたところで、夜白はピクリと頬を動かす。


「さんはいらない」

「……ヤシロ?」

「ん」


 なぜか疑問形ではあったが、不思議と夜白ははにかんでしまう。年の近い女の子に面と向かって呼び捨てにされると、流石に照れる。

 なんでだろうと首を傾げた所でふと気が付く。夜白は同年代の友達がいないどころか、そもそも話したことが一度もなかったのだ。


 ふわふわとした不思議な感覚を楽しんでいるところに、『クエスト完了』のファンファーレが空気を読まずに鳴り響く。夜白には珍しく癪に感じた。


「ヤシロ、その――」

「?」


 夜白がむすっと頬を膨らませていると、サリエルが夜白の裾をつまもうとして手を伸ばした――ところでまたしゅんと態度が弱くなり、手をひっこめる。

 サリエルはしばらくだんまりとした後不安そうに、上目遣いで夜白を見つめた。


「一緒に行きたい」


 今度は、クエストは発生しなかった。


 NPCだとは思えない、まるで生きているかのような生気に溢れた反応。彼女は、夜白なんかよりよっぽど人間らしい。

 無論、答えは決まっていた。


「もちろん」


 不安そうな表情で目を潤ませるサリエルの頭をわしゃわしゃと撫で回し、当然だとばかりに承諾する。


「……ほんとに?」


 邪魔ではないのか。私なんかがついて行っていいのか。夜白は何もしないのか。そんな怯えや不安の入り混じった表情で、サリエルはへたり込んだまま夜白を見上げる。

 出来るだけ怯えさせないように気を使いながら、夜白はこくりと頷いてサリエルの手を取った。


「ん。行こ?」

「っ! うん!」


 サリエルはぱっと明るくなり、嬉しそうに手を握り返した。

 大慌てで立ち上がり、早速歩き始める夜白をサリエルは小走りで追う。長い間封印されていたのが響いたのか、僅か数メートルの差を埋めた頃には既に肩で息をしていた。

 インベントリを開いたが、ポーションの類を持っていないと気が付いて夜白は歩みを止める。


「……なんでだろ、楽しい」


 膝に手を当てて休むサリエルをぼんやりと眺めながら、夜白はぽつり、と思ったことを口にした。


「ヤシロ、どうしたの?」

「一緒にいるだけなのに、楽しい」

「えへへ、友達みたいだ」


 夜白はハッと目を見開き、納得したように反芻した。


「――友達」

「ッ! ごめんなさいっ、嫌だよ、ね」

「違うっ!」


 夜白は首を、ぶんぶんと横に振った。そんな夜白を見つめながら、サリエルは目を真ん丸にして棒立ちになっていた。


「違う……違うの」


 いつもの夜白らしからぬ反応だった。


 ――AIだなんて、関係ない。


 気付いた時には夜白の頬を涙が伝っていた。ゲームの中で涙が出たことよりも、夜白の涙腺が緩くなっている、という不安感で頭がいっぱいになっていた。


「ヤシロ、泣いて――」

「――初めてだったから」


 『訓練』されていた為か、嗚咽が漏れ出ることは無かった。


「友達だって、初めて言われた」


 そう言って夜白は、涙を止めた。これも『訓練』で身に着けた、泣き真似をした後に涙を止める技術を応用したものだ。

 夜白は平然を装いながら、サリエルの手を引っ張って歩き出そうとした。当然、サリエルは動こうとしなかった。

 サリエルは苦虫を噛み潰したような表情を浮かべていたが、夜白を見るとニヤリと嬉しそうに唇の端を吊り上げた。


「じゃあ、私が初めての友達だ」

「……うん」


 初めての『友達』は、どこか気恥ずかしい感じがした。

 その反面サリエルのテンションはどんどん上昇し、夜白の感情も、不思議とこれまでにないほどに昂っていた。


「ヤシロっ、愛称で呼ぼう。ニックネーム!」


 サリエルは逡巡する間もなく決めたようだった。それでも少し悩む夜白を待ってから、互いにあだ名を口にし合った。


「ヤシロは『シロ』でどう?」

「ん。サリエルは『サリー』で、いい?」

「うん!」


 サリエルの笑顔を前にして、夜白の無表情はいつの間にか崩れ去っていた。

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