10:死神と
ヒロインちゃん来ました。
やったね!百合百合させられるよ!
『グリムリーパー』が大鎌を振り上げるのと同時に、夜白は気配を消して駆けだした。
それとほど同時に、夜白を見失って狼狽を露わにした『グリムリーパー』が止められずに振り下ろした大鎌から斬撃が伸び、夜白が立っていた地面を抉る。
危なかった、と内心冷や冷やしながら『グリムリーパー』に急接近し、骨の首を刎ねようと短剣を振るった。
――が、カチンという軽い音と共に受け止められる。
「――ッ」
流石に初期装備の短剣では敵わない様だ。まぁ、当然か、と半分くらい諦める。
大鎌が再度振り上げられたのを見て、夜白は即座にその場から飛び退いた。
「……ここか」
『グリムリーパー』が攻撃した後に、大鎌を振り上げる際に僅かではあるが隙が出来ることが判明した。それ故に、夜白はこうして攻撃を当てられている。
敵のHPは高い――ならば、躱しながら削っていけばいい。そう考え、夜白は腰を据えて覚悟を決めた。
何度も飛来する斬撃を躱しながら、標的との距離を徐々に詰めていく。『グリムリーパー』はそれに応じたのか、再度大鎌を振り上げる。
振り下ろされる大鎌を見据えながら、『グリムリーパー』の懐に潜り込んで短剣を左手に持ち替える。
「インベントリ――『スラッシュ』」
ダメ元で取り出した『ドラゴンスレイヤー』を右手に持ち、『グリムリーパー』の腹部をローブごと切り裂く。
STR+50のおかげなのか、夜白の繰り出した『スラッシュ』は『グリムリーパー』の腹の骨を粉砕し、頭上に浮かぶHPバーを一気に半分削った。
「……意外と削れる」
勝機がだんだん見えてくるのに夜白は安堵の息を漏らした。
短剣をインベントリに仕舞い、片手剣の『ドラゴンスレイヤー』を両手で握る。
「『スラッシュ』」
振り下ろされる大鎌を左に受け流して『グリムリーパー』のバランスを崩し、骨を切断していく。
一撃でHPバーが3、4割程削れることによって『グリムリーパー』が狼狽し始め、体勢を崩した。
絶好の機会。夜白がそれを逃す筈がなかった。
「――『スラッシュ』」
『グリムリーパー』の首元の骨を砕き、『グリムリーパー』のHPバーが残り1本になった。
瞬間、大鎌の軌道が曲がった。
「あ――ッ!」
激痛が走る。
大鎌の柄の部分で腹を強く打たれ、夜白の体がボールのように転がる。この一撃で、夜白のHPは2割まで減っていた。咄嗟に受け身を取っていたから良いものの、そのまま壁に突っ込んでいれば即死だっただろう。
現実だと錯覚する程に再現された痛みを堪えながら、夜白はうっすらと重たい瞼を開ける。
目の前には、大鎌を上段に構え、カタカタと骨を鳴らす死神が浮遊していた。
「――ぁ」
現実だったら涙を流していたであろう。鮮明に脳裏に映る、死のイメージ。それは、ゲームにしてはあまりにも現実的過ぎた。
恐怖に身がすくみ、情けない声が喉から漏れる。
スキルを使ったのだろう。『グリムリーパー』の体がぼんやりと光り、大鎌が勢いよく振り下ろされる。
――一瞬、時が止まった気がした。
意識が研ぎ澄まされるような感覚。視界がクリアーになっていく。
スローモーションで流れていく光景をぼんやりと眺めていた夜白は、無意識の内に体を動かしていた。
初期装備の短剣を実体化して握り、気配を消して『グリムリーパー』の後ろに回り込む。
夜白は『グリムリーパー』の首を見据え、短剣を持つ手に力を籠めた。
「――スラッシュ」
あたかも空気を切り裂くような、弱い感触。
カラン、と音を立てて、『グリムリーパー』の頭蓋骨が落下する。
夜白が振るった短剣は、黒い閃光と共に『グリムリーパー』の首を刎ねていた。
『グリムリーパー』のHPが全損し、黒い粒子と化して消えていく。
そんな光景をぼうっと眺めながら、夜白はかくりと首を傾げた。
「……動ける?」
『現実』でしか出来ないような、まさに火事場の馬鹿力としか言いようがない動き。通常であれば、ゲームの中では不可能な動き。
明らかな異常事態だった。
いくら考えても仕方のない事だ。そう自答し、夜白は宝箱を開ける。
宝箱の中には、案の定ユニークな装備が入っていた。それも二つ。
『【ユニーク】グリムリーパー(短剣):STR+70 AGI+30 DEX+30【絶命】【破壊不可】』
『【ユニーク】死神のローブ:VIT+10 AGI+100【二重装備可】【気配隠蔽】【破壊不可】』
「……またユニーク」
インベントリを開いて説明を見る。
【絶命】は対象の首を完全に切断したら確実にHPが0になる、というもので、【二重装備可】は『聖狼の衣』のような装備の上からでも重ねて装備できる、というものだった。
【気配隠蔽】については暗殺術スキルと似たような効果なので、省略する。
ウィンドウを閉じてインベントリを開き、短剣を『グリムリーパー』に持ち替えて『死神のローブ』を装備する。
『死神のローブ』は大きいが、不思議と動きやすい黒いローブだ。
「――ぶかぶか」
二刀流もいいかもしれないと妄想に耽ながら、新品ローブの感触を楽しむ。
ローブをばさばさとはためかせながら、夜白は正面を見て気付く。
「――?」
入り口とは反対側にある、黒い鉄扉が僅かに開いていた。
その扉は入り口と比べとても小さく、ボスが潜んでいるとは到底思えない。
まぁ大丈夫だろう、となんとなくで納得しながら、夜白は慎重に扉を開ける。
「?」
部屋の中は、それなりに暖かかった。
空気もそれなりに澄んでいる。某異世界モノみたいに、最初にこの部屋に放り出されたならば、迷宮の中だとは思わないだろう。
しかし警戒をしておくに越したことはない。真っ暗な室内に気を張り巡らせながら、夜白は奥へとゆっくりと歩く。
部屋の中心くらいまで進んだ時、夜白はカチャンと音を立てて何かを踏んだ。
「……誰?」
しまった、と青ざめていると、不意に少女の声が聞こえた。
ころころとした、それでいてか細い声。弱々しいその声音から、声の主が相当弱っているのだと窺える。
声のした方向に、ゆっくりと目を向ける。補正がかかったのか、今度は暗闇の中でもうっすらとその姿を視認することが出来た。
――少女がいた。
金色の髪を太ももあたりまで伸ばした、夜白と同じくらいの背丈の少女。
ぼろぼろの布を身に纏い、四方八方から伸びる鎖に手足を縛られた少女は、今にも泣きだしそうな勢いで碧眼を潤させている。
そんな元は美人であったであろう少女の肌はかさかさ、長い金髪もぼさぼさで、栄養状態の悪さが嫌という程伝わってくる。
「よかった――女の人だ」
夜白が同性だと視認出来て安心したのか、少女は表情を緩め、思いつめた息を吐きだした。
同性補正がかかっているのか、少女は夜白に臆することなく話しかけてきた。
「私は、サリエル。あなたは?」
「夜白」
無表情を少しだけ和らげ、そっけなく名前だけ答える。
「……ヤシロ」
初めて友達が出来た年頃の少女のように、サリエルは夜白の名を反芻した。
サリエルはしばらくの間頬を緩めていたが、とたんに申し訳なさそうに顔を俯かせておずおずと話を切り出した。
「あの、突然で図々しいのです、が」
「ん?」
サリエルは真剣な表情で夜白へと向き直る。夜白も釣られて顔が硬くなってしまった。
「私を、助けてくれません、か?」
サリエルは不慣れそうな敬語で、そう懇願してきた。
というわけでサリエルちゃんです。
口調がころころ変わりますが、一応仕様です。
後に明らかになっていきますが……まず教養がないという設定なので、敬語や丁寧語がため口に入り乱れた感じです。
友達とは基本タメ口。夜白ちゃんともタメ口。




