タックネーム―幼馴染は大空の芸術家より―
リハビリ投稿です。
すみません。長編の続きはまだ執筆中です。
真飛路が6番機に乗る最後の年に、新しいドルフィンライダーが挨拶に来た。
彼はこれから一年間、第2単独機のパイロットである真飛路から指導を受けるのだ。
真飛路より少し低い身長で逆三角形の体つきの彼は、某アイドルグループにもひけをとらない可愛らしい顔立ちで、かちこちに固まりつつも元気な声で挨拶してきた。
「この度次期6番要員に就任しました春日 行幸二尉です。よろしくお願いしますっ!!」
「よろしく。千歳 真飛路1尉。で、春日くんのタックネームは?」
「………マーマンです」
「ああ。なるほど。春日くん、確か元水泳選手だったね」
「上司から面白半分でつけられたんですよ!正直嫌ですけど。千歳1尉どのはジミーですよね?」
「千歳で良いよ。僕のタックネーム知ってるの?」
「はい!有名ですから!!」
「へぇ~?もしかして由来も?」
「いえ。そこまでは……」
ほやほやとした受け答えをする真飛路に、本当にこんなヤツが操縦が難しく技量を問われる単独機を操れるのか…などといぶかしみながら、人魚はブリーフィングに参加するため真飛路の後を付いていった。
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真飛路達は山口で行われる航空祭の展示飛行訓練をしている。
課目の内容を確認しながら青空の中に白い芸術を描いていく男達。
まず1番機から4番機が離陸後にダイヤモンド隊形になって上昇し、しばらくして5番機が離陸後低空飛行で、6番機が離陸後に急上昇する。
第一単独機の5番機のパイロットは真飛路のひとつ上の先輩だ。
真飛路とはまったく正反対と言えるやんちゃ坊主なパイロット、美帆 壱裟3佐。タックネームはドラゴである。
「よう!新入り…じゃなかったマーマンか。ジミーのテクはすげぇだろ?」
「はい!特にコークスクリューは神業だと思いましたっ!」
アクロバティック飛行集団であるブルーインパルス。
その中でも単独機と呼ばれる2機が行うのは難易度が高く、かかる重力も半端ないとされている。
コークスクリューは5番機がスモークを出しながら背面飛行になり、6番機がソレを中心として3回、スモークを出しながらバレルロールをする、スモークの形がコルクの栓抜きのような形状になる課目である。
いつもはほわほわ~と癒しオーラを漂わせている真飛路も、ひとたび『ドルフィンライダー』に変身すると人が変わるのだ。
―――――なぜなら彼らはコクピットに座るときは常に“死と隣り合わせ”なのだから。
飛行訓練が終わり、反省会を終えた後三人はシミュレーションをし、そのままジムへと向かった。
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「お?来たな?新入り…じゃねぇか。マーマン!」
「お疲れ。マーマン」
「マーマン、どうだ?6番機の乗り心地は?」
話しかけてきたのは1番機要員である飛行隊長、班長、そして4番機のパイロットである。
それぞれカポネ、リオ、チャキリスというタックネームを持っている。
ロードランナーをセットした春日は走りながらため息をついた。
「はぁ…。いくら規則とは言え、自分のタックネームをそう何度も呼ばれるときついっす」
「わははは。だが俺よりマシだろ?何しろ“自衛隊所属なのに”イタリアンマフィアなんだからな?」
「隊長は下っ端の時から妙に貫禄ありましたからねぇ。俺の上司は至極単純なつけ方をしてくれたぞ?」
「へ?班長は…リオ…ですよね?どんな由来なんですか?」
「俺は8月生まれのしし座。で、Leo。読み方をちょっと変えるとリオ」
「なるほど」
うんうん頷いて感心している人魚に、隣を走っている龍がニヤニヤしながら話しかけてきた。
「俺の由来もあててみな?」
「はぁ。中日のファンとか?」
「ばか。“暴れ龍”だよ。ガキの頃に和太鼓習ってたんだよ!『昇龍。暴れ太鼓』って演目が得意だったんだ。なかなか凝っているし、かっけえだろ?」
「…単に自慢したかったんですね。十丈3佐は?チャキリスってハリウッドあたりの俳優さんですか?」
「惜しいな」
ベンチプレスをやっていた十丈 貴代実…タックネームはチャキリス…はダンベルを置くとふうっと一息ついた。
「俺に妹が一人いてな?まだ独身でバリバリのキャリアウーマンなんだが、万梨阿って名前なんだよ」
「?????」
「ウェストサイドストーリーって言えばわかるか?」
「トニーとマリアですよね?……って!そっか!万梨阿って……!」
「ヒロインのマリアの兄はベルナルドなんだが、呼びづらいって理由で役者の名前になったんだ」
「へえ~。で、千歳さんは?どんな由来なんですか?」
みんながワイワイ言いながらトレーニングしている中一人黙々とレッグブレスをやっていた真飛路は、動きを止めると春日の方に振り向いた。
「僕?」
「やっぱりかっけぇ由来ですよね?ギタリストとかアーティストとか…それとも意外とお笑い芸人?」
「ううん。パティ&ジミー」
「??????何すか?それ?」
「パティとジミーは幼馴染でしょ?だからジミー」
「パティ?幼馴染み?……もしかして千歳さんにはアメリカ人の幼馴染がいるんすか?」
「ううん。日本人だよ?」
「????????」
きょとんとした様子で、それでも走りだけは止めない春日。
すると、そんな二人の様子を見ていた隊長がベンチプレスを終えて助け舟を出した。
「サンリオのキャラでパティ&ジミーってのがいるんだよ。千歳のタックネームはそのジミーって訳だ」
「サンリオって言うと…確かキティちゃんとか?でも幼馴染さんって日本人なんすよね?日本人でパティ?」
「マーマン、お前スマホでパティ&ジミーを検索してみろ。それと、ジミー、“例の写真”をすぐ出せるか?」
「「了解」」
編隊長の指示が出るとすぐ行動に移るのはドルフィンライダーの性だろう。二人は同時にスマホを取り出しタップする。
「「出ました!」」
「よし。ジミー、マーマンにそいつを見せてやれ。マーマン、検索した画像とジミーのスマホを見比べて見ろ」
カポネの指示に従って行動する二人。
そして二台のスマホをじっくりと観察していたマーマンは………。
「……納得。パティ&ジミー…っす」
「「「だろ?」」」
真飛路のスマホの画像は、“真ん中から二つに分けたおさげ髪”の少女と“アフロヘアー”の少年が手をつないで、赤と青、色違いのデニムのオーバーオール&キャップ、そしてスニーカーを履いて立っている写真であった。
「この頃って僕はひっどいくせっ毛だったからくるんくるんしてるよね。でも三つ編みのしょーこはとっても可愛かったんだ~。
母親達がね、僕たちにやたらとおそろいの服を着せていたんだよ。でも二人とも似合ってるでしょ?」
「「「「……………………」」」」
ブルーインパルスのパイロット。第二単独機の飛行班員千歳 真飛路一等空尉。
はるか上空や低空で華麗にT-4を操る凄腕の操縦士。
そんな彼のタックネームは……意外や意外。とぉてもファンシーなモノだった。
読んでいただきありがとうございましたm(_ _)m