第三話 ローゼン崖の下の村で
まっまだ三話だとは…
日が沈み始めた時、馬車が止まった。瀬乃華はすぐに仙子を起こす。
「ねぇ、仙子ちゃん。起きて」
「ん……ふぁ……起きる……」
外を見てみると、村に付いていた。馬車が止まったのは噴水が目立つ広場のようだ。
二人がいる場所から見える範囲で見渡してみると、石の壁に木の屋根という構造の家が今いる噴水の広場に向いてずらりと建っている。
噴水は四つに分かれた丸い石の筒に、先から四方向に水が流れている。そこから水が落ちて水が中心部分の穴に入って行っている。
二人は運転手に対してお礼を言った。
そして、早速、サナの家を聞くために通りかかった人に仙子が話しかけた。
話しかけた人は、現代人っぽい少年。だけど、なにやら魔法の杖を持っている。
「あの、人の家の場所をお尋ねしたいのですが」
緊張しているのか声を高くしながら仙子は話しかける。
「あ、はい、いいですよ」
「サナというお方は……」
少年は少し黙った。瀬乃華には心なしか嫌らしく微笑んでいるような気がして、少し気味が悪いと思えてしまう。
「そこの通りを右に行った、盾が扉の横にある家ですよ」
それだけ言って少年はすぐに歩き去っていった。
少し不審に思いながらも、すぐに言われた通りに道を進んでいく。
確かに、黒で塗られた、枠の色が金の盾が飾ってある家があった。
瀬乃華は盾を見つけた途端走り出し、玄関扉の前に立った。玄関扉の横には青のカーテンで中が見えなくなっている窓がある。
「早く早く!」
「ま、まってよー!」
瀬乃華の走るスピードは風並みの早さ。
気がついたら扉の前にいたので仙子は大慌てで、少しは体力はついたもののまだ走ることは無理無理無理!という状態。数歩走っただけで息切れをする。
仙子が息切れしてるところに瀬乃華は「大丈夫、すぐ慣れる!」とフォローをする。
そして、玄関扉にノックした。
「すみませーん。サナさんいますか?」
瀬乃華の呼び声に対して、すぐに返事が返ってきた。
「はーい」
出てきたのは、シルクハットを被っているのが印象的な十代後半くらいの女性。
特に理由もないがサナだと確信した。
「えっと……あなた達が依頼を請けてくれた人ですか?」
自信のなさそうな声でサナと思わしき人物は中に招待した。
「はい。新人冒険者の、私が瀬乃華です。この可愛い巫女服の子は仙子ちゃんです」
「ちょっと瀬乃華ちゃん……!」
瀬乃華はいたずらっぽく笑う。
「えっと。はい。二人のプロフィールは一通り目を通しています。どうぞ中に入ってください」
サナが玄関扉から数歩離れる。瀬乃華が最初に入って、仙子が次に中に入った。
中は木造。
アンティークな構造で、シングルベッドがあるので一人暮らしなのか、と予想できる。
「ちょっと待ってください。机と椅子、引っ張り出してきます」
そう言って、サナはベットの近くにある扉に入る。
数秒後、扉が開いた。中を横目で覗いてみると物置になっていることがわかる。しっかりと掃除をしているみたいでとても綺麗だった。
そこからサナは木で作ってある長椅子にクッションが置いてあるものを引っ張っている。そして、木で作っているガラスが張ってある長机も取り出した。
ほぼ木で作ってあることに、瀬乃華はこう思っている。
(木で作ってある物ばかりでも、RPGのようです!夢が膨らみますよ!)
そして仙子はこう思っている。
(シロアリ出ないのかな……)
出された長椅子に瀬乃華が左、仙子が右というような形で座った。
「それで、依頼の件なんですけど……あ、改めましてサナです。よろしくお願いします。えっと、ここから馬車で、ミル峠まで約一時間です。あ、食料と野営の準備はこちらでします。それでよろしいでしょうか……」
相変わらず、自信のなさげな声。
「はい、もちろん大丈夫ですよ!」
サナの声とは対照的に自信のある声の瀬乃華。
「私もいいです。それだけでも嬉しいですから」
続けて仙子も言った。
「ありがとうございます。出発は明日の早朝ということで」
サナが立って、「ではまた明日、今日はこれで」と言うので二人は「失礼しました」と言って家に出る。
気がつかなったのか、もう日は落ちて夜になっていた。
宿を探そうと歩くと、さっきサナの家までの道を教えてくれた少年が歩いてくる。少年は二人に気がつき、歩み寄ってきた。
「宿をお探しですか?よろしければ僕の家に泊まっていきませんか」
随分と優しいな、と仙子は少し不審に思った。
「あ、いいなら是非!」
瀬乃華は元気良さげに返事をする。
が、仙子は嫌そうな顔で瀬乃華の服を少し引っ張った。
仙子は、自分たちが宿を探してることなど一切言ってないと警戒している様子。
これに青年は明らかに仙子の嫌そうな顔というものに気がついた様子だったが、あえて無視をしたという行動、後ろに振り返って「こっちです」と歩み出した。
青年の家は、サナの家とほぼ構造が同じ。多分、この村の家はどこも同じ構造なのだろうと思う。
「失礼しますっ!」
瀬乃華が元気に挨拶をする。
と、同時に、思い出したように自己紹介をする。
「私の名前は瀬乃華です」
「せ、仙子です」
瀬乃華が名前を名乗ってから、慌てて仙子も名乗った。
「瀬乃華さんと仙子さんですね。僕は東洋生まれの黒犬(くろいぬ)と申します。種族は人間、職業はヴィザードです。ここは西洋の別荘なのですよ」
ここで一つ聞いておこうかな、と正直で突っ走る系の瀬乃華は質問をする。
「えっと……と、東洋?西洋?」
疑問に思ったのは瀬乃華。妙に好奇心とかが湧いて出てきた。だから、聞いてみることにした。
「おや、知らないんですか?……まさか、酒場の人、説明していない…?」
黒犬は黙り込んで、下を向いて深く考え始める。
そんなに時間もかからずに、瀬乃華と銭子の方を向く。
「この世界には海と海の間に分かれた二つの大陸があるんです。今こっちが西洋、船で一週間ほどの所が東洋です」
そんな簡易な説明をして、微笑みを見せる。
「ありがとうございます!」
意気揚々とお礼をする瀬乃華に対し、仙子は挙動不審にさわさわとしていた。
瀬乃華は小声で聞いた。
「なんでそわそわしてるの?」
「なんていうか……落ち着かない……好奇心的な感じじゃなくて、不安っていう方で……」
仙子の言葉に対して瀬乃華は少し考え始める。
「あの、何を話して?」
コソコソと話している時に話しかけられ、ドキッとする二人。すぐに適当に誤魔化した。瀬乃華の見え見えの嘘と、仙子の完璧な誤魔化しで。
「……ふふ、本当に二人はお似合いのコンビですね」
黒犬は苦笑いをした。
「そういえばどうしてお二人はこの村に?」
率直な質問で、どう説明したらいいかわからず、仙子は瀬乃華に返答を任せた。
「えっとえっと、サナさんの依頼で!」
……仙子には、黒犬に家の場所を聞いた時と同じように、嫌らしく笑ったような気がした。
「へぇ……またですか。あの人いっつも頼んでばかりですねぇ……」
たまには自分で、と黒犬が呟くと、瀬乃華は苦笑いをする。
しばらく談笑をしていると、ゴーンゴーンゴーンと連続して三回の鐘が鳴る。それと同時に村の住人が一斉に広場に集まり始めた。
今は、もう完全に辺りが暗くなっている。
「あ、説明しますね。この村では三食、広場に集まって食べるんです。村の主婦たちが作ったお手製の」
黒犬は立ち上がって玄関扉に歩きながら説明した。
「鐘は朝だったら一回、昼だったら二回、夜だったら三回鳴ります」
扉を開き「行きましょうか」と一声かけると先に外に出て行った。
つられるように二人は出て行く。広場を見ると、木製のテーブルが噴水を中心にいくつも並び、その上にはズラリと食べ物が並んでいるところが見えた。
二人はその光景に驚きながら、広場の方へ足を進めた。仙子はゆっくりと歩いていたため、早く行きたい瀬乃華は仙子の手を引っ張った。
「美味しそー!異世界の食べ物ってどんな味するんだろ!」
「ま、待ってよ瀬乃華ちゃん!」
そう言いながらも微笑む仙子と、絶えない好奇心で微笑む瀬乃華。幸せそうに微笑み合う二人。
広場に着いたら、テーブルから離れて民家の壁に寄りかかって紫色のワインが入ったグラス、スプーンとフォークが乗った白い皿を片手づつに持っているサナが二人の姿を見つけ、近寄ってきた。
「こんばんは、お二人とも。お皿などは、あそこのテーブルから持って行ってくださいね」
「あ、サナさん、ありがとうございます」
瀬乃華はお辞儀をしてから走って皿を取りに行った。だが、仙子はその場に立ち止まっている。
「どうしましたか?センコさん」
「いえ……何でもないです。心配してくれてありがとうございます」
そう言って皿を取りに行こうとすると、瀬乃華が持ってきてくれたようで受け取る。
(なんで……黒犬さんがいない)
ぱっと見渡しても、注意深く観察してみても、現代の服装をしていて目立っている筈の人がいなくなったのかが疑問で、不安で、仕方がなかった。
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「"青と白"ですか……ここから幕は開くんですね」
どこかに消えてしまった黒犬は呟いた。
そんな黒犬と同じように、ロールの酒場がある街に戻っていく馬車の中にて。
「"白と青"の瀬乃華と銭子か。本当に何も起こらなければいいが。なぁ、市……」
運転手は隣に誰かいるかのように呟いた。
誤字等見つけたら遠慮なく教えてくださいねー