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第一話 異世界の常識

おおおお待たせしましたあああああああ!

出た場所は、路地裏の小さな広場。

広場の中心に噴水、そして路地裏に入る方向の逆に、噴水を眺めれるベンチがある広場だ。


上を見上げると集団の竜が飛ぶのが見える。鈍い赤色をした翼を持つ竜だ。


瀬乃華の予想通り、ここは世に言う『異世界』で間違いないだろう。


「やったああああああ!異世界転移成功!」


近隣住民に迷惑にならない程度で大声を出し、喜ぶ瀬乃華。

突然大声を出すことに対し銭子には慣れた事だが、内心まだまだ引いている。


「RPG…うん、やっぱり酒場かな」


あれだけ声をあげて歓喜していたが、すぐに落ち着く。

仙子は瀬乃華に対して何がなんだがよくわからない様子だった。


どうしてかと言えば、まず仙子は瀬乃華の小説もよく読み学校内で見せる時用に瀬乃華の小説を漫画にすることもある。

が、寺の用事の方が多いので、このような異世界に対しての瀬乃華の心情がさすがに読み取れないのだ。いくら今のライトノベルが異世界ものが人気と知っていても。どうしてそこまで熱中しているのか、よくわからない。と、いうことだ。


だからこそ考えていた。


「仙子ちゃーん!早く早く!早くしないとモンスターがくるよー!」


冗談交じりに瀬乃華は言った。


瀬乃華は、仙子の気づかぬ間に路地裏から出ていた。当然……なのだろうか?

と、いうのも。瀬乃華の足の速さは中学生全国一位ではないかと噂されるほど。長距離は苦手だが、短距離では早い。

跳躍力、敏捷力、この二つがくノ一として必要。と本人が言うのできっとそのせいではないかと思っている。

まぁ、その代わり瀬乃華は判断することが苦手で、とにかく突っ走っていくような性格だが。

「小説なんてネタさえあればなんとかなる!あと表現力もね!」を学校とインタビュー中に言ったら見事に名言になり一度小説家の支えになったとしてニュースで話題になったり……。と、いうような感じに大雑把な性格。


それに対して銭子はただ有名な寺の後継で巫女をしているだけである。漫画は趣味で始めたらなんか人気になったと言う程度。


「待ってよ瀬乃華ちゃん……!最近忙しくて学校行ってないんだから!」


数歩走っただけで息切れしている仙子。

銭子の足の遅さは学校で一位と誇れないけど誇れるほど。

しかし、逆に言えば頭はいいのだ。まだ二回しか大きなテストはしてないものの、その二回で両方とも四百五十点を超え、単元テストでは高得点を叩き出す。それほどに頭がいい。


瀬乃華と銭子は手を繋ぎ誰も通らないコンクリートの路地を歩く。冗談交じりの会話のように、瀬乃華は繋いだ手をぶんぶんと振って銭子の手を回す。


路地裏の小道の先に左に曲がると、大きい大きな庭が見えてきた。柵が設置され、近くに行き柵を見ると「酒場」と書かれた札が貼られている。確かに百メートル先に庭の五分の二程大きい酒場らしき建物がある。


「もしかして……この庭全部酒場の物?」


若干引いたような声で、瀬乃華は呟く。


「あ、客?」


二人が札に注目していると、柵の内側に一人の女性が堂々と手を腰に当てて立っていた。

エルフ耳が特徴的で、目がキラキラしている。


「えっと……ちょっと道に迷ってしまって……」


仙子は、ボソボソとした声で現代から来たことを誤魔化して女性に語りかける。


「あぁ、なんだ。そういうことか」


納得して頷く女性。

そして、ウィンクをしてピースをする。


「私は冒険者卒業して、そこ酒場のマスターになったロールだ。ロールケーキとか言ったらぶっ飛ばすからな!……ま、ここで立ち話もなんでし、入りな」


酒場のマスターだと言うロールは百メートルは先にある酒場を指差す。


ちなみに、二人はそれぞれ疑問を思い浮かべていた。

瀬乃華は「ロールさん、魔女なのかな」と疑問に思った。仙子は「うわ……庭の方が大きいとか……」と引いた。


「二人とも表情で思考がバレバレだよ。まず……えっと、名前は?」

「瀬乃華です」

「えっと……仙子です」


自信ありげに言う瀬乃華と、躊躇いながら言う仙子。


「そうかそうか。

まず、セノカの質問だが、私はその通り魔女だよ。世界の三大魔術師の弟子だ。

次に、センコの質問だが、ここは世界で数少ない入学冒険者を受け入れる場所だ。そのために、私は多くの土地を買って、入学冒険者を鍛えるための庭を作った」

「いや、心読めるんですか!?」


瀬乃華が率直な疑問を投げつける。


「あぁ、読めるぞ?」


疑問に疑問を投げ返すかのようにロールは答える。

対して瀬乃華の思考は「異世界かっけー!」の一心だった。


「さ、入れ入れ」


真新しそうな木製の扉を開ける。ロールは裏側の方から入って行ったようだ。


酒場は屋根が石で壁の濃い茶色の木の二階建てで、横両方に見たこともない十分に成長した木が植えられている。

窓は二階の正面に見えて二つ、歩いている時に横に四つ並んで窓が見えた。


外に居ても中の騒ぎがよくわかる程聞こえる。


中に入ると、大勢の客が最初に目に入った。

体型がまさにアニメなどに出てきそうな筋肉がすごい人、弓矢を磨く人、魔法使いの印象が強い人などなど。

右左には二階へ続く階段が見える。そして奥右側には厨房の一部が見え、そこからロールが出てくる。


「おーいみんなー。新米冒険者のセノカとセンコだ。これから骨折らない程度に仲良くしてやってくれ」


骨を折らない程度にという恐ろしいワードが聞こえた気がするが、気にしない。


「えっロールさん!私達いつから冒険者なるって言いましたか!?」


瀬乃華が言う。銭子は「瀬乃華ちゃん積極的に話しかけるなぁ」とかいう小学生並みのことを考えているが、瀬乃華には知り得ないことだろう。


「私が決めた」


言い返そうとしたものの元からなろうと思っていたため言葉が出なかった。


目を逸らし客の方を見ると相変わらず酒などを飲んでいたり瀬乃華達を誘ったりしている。

ふと聞こえた声には「新人は久しぶり」とも聞こえ反論することはやめようと互いに決心した二人だった。


「あ、あの、ロールさん。私たちどうすれば……」


仙子がフォローするようにロールに話しかけてきた。

確かに数分前に異世界にやって来た二人には基礎もなにもわからない。それに仙子にはこの騒がしい場所から。脱出できるかもしれないという考えもあった。


「そうだな。二階に来い」


何か思い出したようにロールは言った。

二人は飲み合いに誘おうと手招きする人や無理矢理を引っ張る人を振り切り階段へと向かうロールに必死に着いて行く。

階段を上がっても下の騒ぎがよく聞こえる。


階段は段差が小さく、木の質がよく頑丈なのが踏んでいくと分かる。


二階は屋根裏風で、階段から前、酒場の入り口側に先ほども見えた一つの窓。

後ろ、庭側に一つ。そして来る時に見えた左側に二つとその反対側に二つある。

大きい酒場なので窓が少なく思える。そして一階は人が多いことが印象的になっているため誰も居らず更には薄汚い布が多くも少なくもない程散乱している部屋なので、さらに部屋が大きく思える。


「はぁ。みんなしっかり片付けろって言ってるのに、散らかしてるじゃないか」


ロールはため息を吐く。散らかっている布に呆れた目をしていたが、次に二人に振り返り言った。


「さ、それじゃぁまずは職業決めだ。自分の得意分野を言ってみろ」


微笑みかけながら、期待の目を寄せながらロールは言う。


「えっと……私は足が速いです。あと忍者なんか似合うってよく言われました!」


瀬乃華は数秒だけ考え。異世界での常識は現実世界の常識は通用しないから、と、自分の知り得る限りの異世界に関しての情報全てを引き出して、何て言えばわかってもらえるかなどを考えながら言う。

仙子は瀬乃華がその言葉を数秒で考えることができたことに感心する。


「仙子ちゃんは、応急処置なんかも得意で、計画を立てることが上手いですし、お祓いなんかもできるので巫女に向いてるかなと」


仙子はこの言葉を聞いて感動した。

自分のことを褒めてくれているかのように言ってくれてとても嬉しいのだ。


「分かった。ま、手持ちのお祓い某と巫女服見たら誰でも巫女だって分かるよな。じゃあセノカは職業忍者、センコは巫女でいいな」


ボーイッシュな笑顔を見せるロール、


「瀬乃華の姿はギャンブラーかとも思ったけど……」


と、呟きながらロールは紙に何かを書き始める。そして十秒ほど経った時、「よし」と言った。


「それじゃ、訓練特訓、修行だ!あ、センコお祓い某貸せ」

「え、えぇ……」


苦笑いをしながら仙子は嫌と言うような声を出す。


「戦闘用に魔法掛けてやるから!」


押し切ってまでロールは借りたいようだ。


「は、はーい……」


諦めたように返事をする。


荷物は二階の端に置き、階段を下りる。無理矢理に酒飲みさせようとして手を伸ばす客人にロールが手を叩き、厨房の方に入っていく。


「全く、あいつらときたら……庭で修行だ」


そう言ってロールは料理をする二人の料理人に「お疲れ」と挨拶をすると、裏庭に続く扉を開きまるで草原のような光景が広がる。一瞬、二人はその光景に見惚れてしまったが、ロールが無理矢理二人を押して我に返った。


「セノカはなんでもいいから武器で適当にやってみろ!」


瀬乃華は慌ててクナイを取り出し何もない空間に対して前方に向かって投げる。勢いよく飛んだので、風切り音がした。


そんなこんなで、ロールの厳しく激しい特訓が始まった。

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