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ブリーフ探偵の復活

大団円!

小林「そ、そんなことはありません……私はただ、純粋にこの事件の真相を……」


 大ピンチ、小林。


 ここでやり込められてしまったら、隊長の強引な策略によって、小野寺と同じ轍を踏みかねない……。


 良くて冤罪。

 悪くて殺害。


 まさに、絶体絶命の危機的状況である。


 ――こういうとき、小野寺ならどう切り抜けるか……。


 今は亡き盟友に思いを馳せる小林であったが、それは殆どあきらめの境地から発生した思考であり、彼は絶望の境地で立ち尽くしているも同然だった。


 それゆえ、《彼》の声が聞こえた時、小林はさして驚きもしなかった。


 驚く以前に、自分の意識そのものに疑念を差し込み始めていたのだから……。


『だらしねぇな、小林』


 ――やばい。

 ――幻聴だ。

 ――せっかちな小野寺め……。

 ――早くも俺を地獄に連れ去りにきやがったか……。


 しかし、その声は幻聴ではなかった。

 紛うことなき小野寺本人の肉声であると、次の瞬間に証明される。


「小野寺! 生きとったんかい、ワレぇ!」


 関西出身の隊員Aが声を張り上げる。

 

「そんな……完全に窒息していたはず……」

 

 隊長は幽霊でも見たかのような驚愕の表情で、吊るされたままの小野寺を見上げたのであった。


「隊長ぉ……、言い忘れていたんですけどよぉ……、俺ェ持病がありまして……」

 

 小野寺は、吸血鬼の様にニィっと笑った。


隊員F「じ、重大疾病の持病隠しは規則違反ですよ」


小野寺「なぁに、大した病気じゃない。慢性中耳炎さ」


隊員A「慢性中耳炎?」


小野寺「ああ。右の鼓膜に穴が開いていてな、聞こえが悪いんだわ。でもそのかわり、僅かではあるけれど、耳から呼吸が出来るんだわ、俺。窒息させるんならよぉ……、耳まで塞いどくべきだったな、隊長――改め、変態的ホモ(クレイジーサイコホモ)野郎!」

 

 そう言うと、小野寺は自らロープを解き解いた。

 その手には、コンバット鰹節が握られている。


「これ、返すわ」


 そう言って、小野寺は隊員Fにコンバット鰹節を放った。


隊員F「これは、僕の! 小野寺さん、いつの間に?」


「やれやれ……隙だらけなんだよ、お前らは。まあ、マジで窒息しかかっていた俺の言えた話ではないがな……。それはともかく――」


 小野寺は小林の方にまでツカツカと歩いて行き、軽くその肩を叩いた。


「――なかなかの名推理だったぜ、小林」

「小野寺……」

「だが、ツメが悪いな。根本的で致命的な誤解を、お前も他の隊員も見逃している」

「なん……だと?」

「かく言う俺も吊し上げられるまで気付けなかったんだがな」


「な、何を知った風なことを言っておるんじゃ貴様ら!」

 そう言って、隊長は目を血走らせる。


 しかし、小野寺は隊長など眼中にない様な素振りで話を続けた。


「いいか、俺が隊長のテントに侵入した時、アベヒロシ人形は、《俺のブリーフ》を穿いていたんだ」


「なに? 一体どういう意味だ、小野寺」


 小林が目を丸くして言及する。


「文字通りの意味さ。アベヒロシ人形は、一週間前に俺が脱ぎ捨てたままのブリーフを穿いていたんだ」

「はあ? 何言っているんだ! お前のブリーフはあの時洗濯された状態で見つかったはずだろ!?」


「それがこの事件における最大のミスリードだった訳だよ。そもそも矛盾しているんだ。俺がブリーフを無くしたと騒いでいる間に、ブリーフを洗濯できるやつが果たして居たのか?」


「ハッ」


 小林は瞠目した。

 小野寺の言う通りである。


 ブリーフ紛失から発見まで、長く見積もっても30分も無い……。

 ……だとすれば、そもそも不可能なのだ。


 ――日没後に、


 ――ドライヤーも乾燥機も無いジャングルで、


 ――どうやって洗濯→乾燥を30分以内に成し遂げたというのか!


「と、いうことは、つまり……ああ! そういうことか!」


隊員E「どういうことだ? やっぱり祟りなのか? 俺にも分かるように説明してくれ!」


「なあに、簡単な事さ」


 と小野寺は切り出す。


「アベヒロシ人形のブリーフと、俺の使用済みブリーフを、ただ単に交換しただけだったのさ」


隊員A「なるほど。つまり、アベヒロシ人形は1週間前から小野寺のブリーフを穿いていたという訳か。だから、」

隊員D「だから、小野寺は激臭ブリーフの存在に気付くのが遅れたんだぜ! 誰しも自分のブリーフの悪臭には鈍感なものだぜ!」

隊員A「(それ、俺が言いたかったヤツ……)」


「御明察だ、隊員D! あんたに小野寺ポイントを10P差し上げよう」

隊員D「ヒャッホーだぜッ!」

隊員A「(それ、俺がもらうはずのポイント……)」


「隊長……何か反論はありますか?」

 

 小林は隊長に問いかける。

 しかし、彼は俯いたまま、何も答えようとはしなかった。


「沈黙は肯定とみなしますよ……」


隊員D「言い逃れようがないんだぜ! 一連の犯行を矛盾なく行えるのは隊長だけなのだぜ! 隊長が、」

隊員A「隊長が変態的ホモ(クレイジーサイコホモ)なんですね!」

隊員D「(それ、俺が言う流れなヤツだぜ……)」


 隊長は依然として沈黙を貫くかに見えた。

 しかし、ボソッと、なにか呟いた。


「あんだって? よく聞こえねぇな。慢性中耳炎患者にも聞こえるようハッキリと言ってくれ」


「……チなんじゃ……」

「ああん?」

「……フェチなんじゃ……」

「もう一声!」

「ニオイフェチなんじゃーッワシは、ワシはッ、くっさいのが大好きなんじゃー!」


 隊長はそういうと、せきを切ったように泣き出した。


「社会人として、こういうご指摘を真摯に受け止めて、私としては、実績に基づいて、適正……枚数……適正ブリーフ枚数基づいて報告しておりますけれども、「隊長」という大きな立場から見れば、やはりご指摘を真摯に受け止めて、どこかで折り合いをつけなければ、探検隊失格だと思うんですよ! ですから、私はその隊長という、本当にもう……大きな大臀筋が大好きで、本当に大臀筋が大好きなんで、ですから、もうそういう大臀筋達に申し訳なくて……。

 こんな隊長で、隊員の皆さま、私も死ぬ思いで、もう死ぬ思いでもう、あれですわ。一生懸命、落選に落選を重ねて、見知らぬジャングルに移り住んで、やっと隊員の皆様に認められて選出された代表者たる隊長であるからこそ、こうやって、隊員の皆さまにご指摘を受けるのが、本当にツラくって、情けなくって、大臀筋達に本当に申し訳ないんですわ。

 ですから、……皆さんのご指摘を真摯に受け止めて、隊長という大きな、ク、カテゴリーに比べたらア、UMA調査費、探検活動費の、報告ノォォー、ウェエ、折り合いをつけるっていうー、ことで、もう一生懸命ほんとに、少子化問題、高齢ェェエエ者ッハアアアァアーー!! 高齢者問題はー! 我が隊のみウワッハッハーーン!! 我が隊のッハアーーーー! 我が隊ノミナラズ! 同性愛者みんなの、LGBTの問題じゃないですか!!

 そういう問題ッヒョオッホーーー!! 解決ジダイガダメニ! ワシハネェ! ブフッフンハアァア!! 誰がね゛え! 誰が誰に隊長ジデモ゛オンナジヤ、オンナジヤ思っでえ!

ウーハッフッハーン!! ッウーン! ずっと隊長してきたんですわ! せやけど! 変わらへんからーそれやったらワダヂが! 立候補して! 文字通り! アハハーンッ! 命がけでイェーヒッフア゛ーー!!! ……ッウ、ック。

 小野寺隊員! あなたには分からないでしょうけどね! 平々凡々とした、UMA研究所を退職して、本当に、「誰が隊長しても一緒や、誰が隊長しても」。じゃあワシがああ!! 立候補して!!

 この世の中を! ウグッブーン!! ゴノ、ゴノ世のブッヒィフエエエーーーーンン!! ヒィェーーッフウンン!! ウゥ……ウゥ……。ア゛ーーーーーア゛ッア゛ーー!!!! ゴノ! 世の! 中ガッハッハアン!! ア゛ーー世の中を! ゥ変エダイ! その一心でええ!! ィヒーフーッハゥ。一生懸命訴えて、UMA探検隊に、縁もゆかりもないジャングルッヘエ原住民の皆さまに、選出されて! やっと! 隊長に!! なったんですううー!!!」


「お、おお……」


 さすがの小野寺隊員も、隊長の号泣会見ぶりには言葉を失った様子である。


 そんな小野寺に小林は質問した。


「いつから、隊長に目星をつけていたんだ」


「なあに、最初からさ」

「最初? そいつは聞き捨てならないな」

「『まさか……』と思っていたからな」

「強がりを言って……本当は今日アベヒロシの人形を発見して気付いたんだろう」

「確信を得たのはまさにそのタイミングだな。だが、もっと以前から気付いていたんだ、本当に」

「ほほう……それではその根拠をお聞かせ願おうか」

「《ホモさん》だよ」

「は?」

「隊長は、決してホモを呼び捨てにはしなかった。俺達みたいに、変態的ホモ(クレイジーサイコホモ)なんて言い方は、口か裂けてもしなかった。隊長の中には、同性愛者に対するリスペクトが窺い知れていたんだ」

「そ……そんな理由か」

「ああ。でも、確かに隊長のスタンスには学ぶべきものがあるのかもしれない。俺達は《ホモ》ってだけで、ソイツを極端に警戒するキライがある。こうした男だらけの閉鎖空間では尚更さ……。でも、ホモだってただの人間なんだ。隊長みたいな、一部の変態野郎たちのせいで、ホモのイメージがウンコ臭いものになってしまってはいるが、本来は俺達と同じ人間なんだ。そのことを、今日改めて思い出せた気がするよ」


 小野寺はそういうと、遠い目をした。

 その視線の先には、日没を迎えて久しい、深い暗闇が立ちはだかっている。


 小林もまた、小野寺の見詰めている方を見詰めた。


 他の隊員達も、同じ方を見ていた。


 深い闇。

 

 夜のジャングル。


 その向こうから、奇妙な気配が近づいてくる。


隊員A「おい! 見ろよアレ! UMAじゃね?」

隊員B「な!? 本当だ! ウヨウヨいる!」

隊員C「たいへん! いまおきました!」

隊員D「ホモォだぜ! ホモの隊長の絶叫会見が! UMA”ホモォ”を呼び寄せたんだぜ!」

隊員E「祟りじゃー!」

隊員F「ふぇぇぇん! お助け~」


 他の隊員達も、一斉に強化牛蒡やコンバット鰹節を著り出して臨戦態勢をとっている。


「久し振りの大漁だ! 腕が鳴るぜ!」

 と小野寺。


「だな!」

 と返す小林。


「ウワァーン」

 と泣き続ける隊長。


 総勢108名のUMA探検隊員は、今日も命を懸けて戦いに挑むのであった。


《隊員の命は隊員が守る》


 そうした、強固な信頼関係の下に。


―――――fin――――――

よ ん で く れ て あ り が と う

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