ブリーフ探偵への挑戦
小林隊員と隊員達による推理戦が展開します。
ついに、犠牲者が出てしまった……。
「どうしてくれるんです! 隊長! 隊長のせいで小野寺が窒息死しちゃったじゃないですか!」
「待ってくれ。ワシのせいじゃない。ワシは気絶させただけじゃ。顔を縛った奴が、強く縛り過ぎたせいだろう」
隊員F「そんなぁ~僕のせいですかぁ~」
Fは泣きそうな顔で崩れ落ちた。
たしかに、小野寺の顔面を縛り上げたのは隊員Fである。
しかし、小林には気になることがあった。
「Aさん! 小野寺の口の中を調べてみてくれ」
隊員Aは、
「なんで俺が……」
と呟きながらも、小野寺の口の中を確認した。
悲鳴が聞こえたのはその直後だった。
隊員A「ギョエ! クッサ!」
小林「どうした?」
隊員A「ブ……ブリーフが、く、くっさいブリーフが……く、口から出てきやがった!」
隊員E「祟りじゃー!」
小林は小野寺の口から引っ張り出されたブリーフを一瞥すると、
「やれやれ」
と、力なく項垂れた。
そんな小林たちを前に、隊長は、
「これで決まったな。やはり、犯人は小野寺だったのだ」
と、一人納得した様子で言い放った。
「小野寺め……ワシのフィギュアから奪ったブリーフを、《胃袋》に隠しておったのだな。吊るされた状態で、胃の中のブリーフが口の方にまでリバースされて、不幸にも窒息したというわけか……。まったく、哀れな男だ。なにも死ぬことは無かったのに……自分の業によって、こうも悲惨な最期を迎えるとは……人間悪い事は出来ん」
哀愁漂うセリフを吐きつつ、隊長は空を見上げた。
尾根に半身を隠した太陽が、空を真っ赤に染め上げている。
どこか遠くの方で、カラスに似た野鳥の声が響いている……。
……かくして、事件は小野寺のブリーフ窒息により幕を閉じるかに思われた。
が、
しかし、
ここから小林の推理が炸裂し始める。
「果たしてそうでしょうか?」
「なんだ? 小林。この状況で、小野寺の弁護でも買って出ようというのかね?」
「そういう訳ではありません。ただ、一つ、どうしても気になることがありましてね」
「なに?」
「と言うのもですね、ブリーフの状態が余りにも不自然なんですよ。Aさん、ちょっとそのブリーフを広げて見せてください」
隊員Aは、
「なんでまた俺が……」
と、不服そうに言いながらも、言われた通り、ブリーフを展開した。
小林「ほら、ご覧ください。このブリーフ、たしかにヨダレで相当湿っていますが、一旦胃液に晒されたとはとても思えないのです」
隊員A「たしかに……。本当に飲み込まれていたなら、もっとビッショビショになっているはずだぜ」
小林「つまり、このブリーフは飲み込まれておらず、ずっと口の中に存在していたことになる。しかし、それもあり得ない……」
隊員D「そうしてだぜ?」
小林「思い出してください。『アベヒロシのブリーフを探せ』と、小野寺は最後に言った」
隊員E「たしかに! 祟りでもなければ、口の中にブリーフを入れたまま喋れるわけがない!」
小林「となると、小野寺の発言の後に、誰かが彼の口にブリーフを捻じ込んだことになる……窒息死させるため、殺意を持ってね……。この状況下でそれが出来たのは……」
隊員B「F君と……隊長……」
隊員F「ひいぃ……僕じゃないですよぉ~」
隊長「ぐぬぬ」
小林「しかし、それでもまだ謎は残る。果たして、小野寺を窒息させた犯人は、どのタイミングでブリーフを所持していたのか……」
隊員C「そんなもん、ずっと持ち歩いていたんじゃねぇのか?」
小林「まあ、そう考えるのが普通でしょう。しかし、それも考え難い」
隊員C「なぜに?」
小林「それはAさんに聞いてみれば分かるでしょう」
隊員A「ああ……たしかにそれはあり得ねえ……こんなクッセェブリーフを所持してたらよぉ、任務中に気付かれちまうぜ。2メートルも距離を取っていれば大丈夫かも知れねぇけどよぉ……それ以内に接近したら、クッセェのがバレちまう……」
小林「たしか、CさんはFさんと一緒の班でしたよね? どうです? Fさんが、いつもより臭いとか、そういうことはありませんでしたか?」
隊員C「そういえば、全然気づかなかったな。でも思い過ごしかも知れない。Aよ、試しにちょっとそのブリーフを嗅がせてくれ」
隊員A「ほ~れ☆」
隊員C「ヴォエッ!(失神)」
小林「と、いうことです」
隊長「なにが、『と、いうことです』だ。しゃらくせぇ。そんなに臭ぇなら、ワシの隣でジープを運転していたAも、その臭いに気付いていたはずじゃ」
隊員B「どうなんだ、A?」
隊員A「たしかに、隊長は臭くなかったぜ。それどころか、シトラスミントの爽やかな香りがしていたぜ」
隊長「でしょ~☆」
隊員D「ならば一体、その激臭ブリーフは何処にあったんだぜ? Fの私物は調べていないがが、少なくとも小野寺のテントにも隊長のテントにも、そんなモンは無かったんだぜ!」
小林「実は最初からあったのです。隊長の部屋に」
隊員一同「ナ、ナンダッテー!?」
小林「それも、アベヒロシ人形が最初から穿いていた」
隊員A「それはあり得ねェ……だって、残骸からブリーフは見つからなかったんだぞ? だからこそ、こんなややこしい事態に……」
小林「隊長、答えてください。あなたは何故、高価なアベヒロシ人形を粉砕せざるを得なかったのかを……」
隊長「そりゃあ、お前、ワシの私物が図らずも隊の結束を妨げていたからじゃな……」
小林「でも、壊す必要は無いでしょう。本土から回収班を要請しても良かったはずだ。なにせ4300万円ですからね」
隊長「ぐぬぬ……」
小林「隊長がアベヒロシ人形を粉砕せざるを得なかった理由――ひとえに、それは、どさくさに紛れて激臭ブリーフを回収する為だったんじゃないですか?」
一同「ナ、ナンダッテー!?(二回目)」
小林「あなたは激臭ブリーフ所持の発覚を恐れた。だから、それを暴きに来た小野寺に罪をなすりつけようとした……」
と、小林の推理は首尾よく進行して行った。
隊長も返す言葉が無い様子である。
しかし、そこで思わぬ異議が入った。
隊員D「待てよ、小林! お前の推理には無茶があるんだぜ!」
小林「どういうことですか、Dさん」
隊員D「小野寺が激臭ブリーフを暴きに来たって言うんなら、隊長のテントに入った瞬間、隊長を弾劾するための情報を把握できたはずだぜ!」
隊員A「一体どういう意味だ? 分かるように言ってくれ」
隊員D「だって、そんなに臭せぇブリーフなんだぜ? テントと言う密閉空間に入ったら、すぐに証拠物の存否が分かるはずだぜ。テントに顔を入れて『クサっ!』ってなったら、その時点で他の証人を募って改めて隊長のテントを捜索した方が確実だぜ。わざわざ単身で危険を冒す必要は無かったんだぜ? 仮に一人で証拠を押さえようと思っても、すぐに発見できたはずだぜ? それなのに、小野寺は隊長の私物を荒らしまくっていた……この事実は、小林の推理と矛盾するんだぜ!」
隊員B「たしかにそうだな……その辺はどうなんだ、小林」
小林「そ……それは……」
隊員Dに矛盾点を追及された小林は、それ以上言葉をつなげることが出来なくなってしまった。
この機を逃すまじと、黙り込んでいた隊長が俄かに色めき立つ。
隊長「そうじゃ! そうなんじゃ! 小林の推理は穴だらけなんじゃ! 詭弁なんじゃ! 嘘を吐いて、このワシを失脚させようとしておるんじゃ! どうしようも無い奴なんじゃ、コヤツは!」
ニィ……。
隊長の口角は、再び邪悪な微笑を刻みつつあった。