第3話「魔王、敗北だニャン!」
「あ…暑いニャン…」
新魔王軍団ーー平和を守る軍団の結成者であり新魔王の俺、ルイスは飛ばされた異世界にて暑さにへばっていた。…小動物の"ネコ"に姿を変えて…。
ジリジリと足裏から伝わる熱さに目眩がする。
新しく仲間になった座敷童子ちゃんからの情報によると、ここは"チキュウ"の"ニッポン"という世界らしい。
今は"スズメ"の姿をした側近であるフェニックスも聞いたことのない地名に首を傾げていた。
そしてその"ニッポン"は、ただいま初夏の真っ只中。時間軸が元いた世界グリオナとは酷似している。ただ、グリオナの人間たちは夜には活動を最低限まで抑えるが、この"チキュウ"の人間は夜も爛々と明かりがついている。
しかし今はそれどころではない。
「暑いニャン…干からびるニャン…」
「王子!お気を確かに!新魔王軍団の魔王様とあろうお方がこんな暑さにへばっていては先が思いやられます!」
「おいフェニックス、それは俺じゃないニャン。ただの石ころだニャン」
フェニックスも暑さがきているらしい。俺に話しかけているつもりだろうが全く正反対の石ころに熱く語っている。お前一応"炎の悪魔"なんだからこんぐらいの暑さに負けててどうするんだ…と頭が尚更痛くなる。
お願いだからこれ以上暑くしないでくれ。
とりあえず途方もなく涼めるところを探す。このままじゃ本当に干からびる。フェニックスなんて焼き鳥になってしまうだろう。炎の悪魔の焼き鳥姿なんて後世に残せないくらい恥だ。
俺は隣を歩く座敷童子ちゃんの方を見る。彼女はスキップをしながら鼻歌まで歌っている。座敷童子ちゃんには夏が平気らしい。そしてさらに驚くことに、座敷童子ちゃんの姿は人間には見えないというのだ。
彼女が、もしかしたらこの"ニッポン"の支配者なのか…と深く考えたが、今はもう新魔王軍団の仲間。そんなことを考えるだけ無駄だ。
「あ、ここの公園は大きいから水道があるよルイスくん」
「おお!水だニャン!」
曲がり角を曲がった時、座敷童子ちゃんが耳寄りの情報を教えてくれる。俺が目を覚ました空き地とは打って変わってちゃんと整備されているし、見たことのない…トレーニングマシーンか?!ぐねぐねと変な形状をした柱だったり、1枚の板の両端を鎖で繋ぎ、ゆらゆらと揺れている椅子があったり…
「人間は…俺たちの知らないトレーニングをしているニャン…」
あの巨大な人間に再び恐怖を覚えた。
そしてお目当ての水道を見つける。座敷童子ちゃん曰く、蛇口を捻れば無限に水が湧き出るらしい。これも巨大な人間の知恵の賜物…この"チキュウ"の地域では水が豊富だそうだ。
「あたしが蛇口を捻ってあげるよ」
「ありがとうだニャン」
座敷童子ちゃんが銀色の蛇口に手をかけよう…まさにその時
今までサンサンとしていた陽が大きな陰へと変わった。
俺は振り返る。そこにいたのは、大きな大きな"壁"
「この公園は俺様の領地だニャン。部外者は即刻立ち去れニャン」
野太い声が頭の上から聞こえる。
俺と同じニャンの語尾。
意地の悪そうな目を細め更に感じが悪く見える。俺の黒色の毛並みとは違い、黒茶のブチ模様、大きく太った躰。何もかも俺の数倍を誇っていた。
「俺たちは水が欲しいだけニャン」
「聞こえなかったかニャン?早く立ち去らないと痛い目見るニャン」
ふんぞりかえる姿に頭にきた。
「貴様、このお方を知ってのその愚行かッ!」
それはフェニックスも同じだったようだ。小さな躰で巨体と張り合っている。しかし、目に見えているその結末に、俺は言葉を発しようとしたが、
「煩いニャン」
「ぴぎゃあ--ッ」
その小さな躰は宙を弧を描きながら落下する。ぐへっと変な音がしたかと思うとゴロゴロと転がるフェニックスに、俺は走り寄る。
「フェニックス…!大丈夫かニャン?!」
「うう…王子…すみません…あんな奴…に」
小さな口をパクパクと動かすフェニックスに、もう何も喋るなと命令する。俺はギッと巨体を睨みつける。しかし、そいつは痛くも痒くもないかのように平然としている。
「おのれ貴様、我が家来に手を上げるとはいい度胸してるニャン…」
「だ、ダメだよルイスくん!そいつは…」
「座敷童子ちゃんは下がってるニャン!」
座敷童子ちゃんの言葉を遮り、ジリジリと巨体に近づく。
暑さなんて忘れた。喉の渇きなんてどっかに飛んでった。
「くらえニャン!我が最高の奥義ニャン!」
「やかましいニャン」
「ひでぶっーーッ」
今度は 俺の
躰 が
宙を
空が きれい だ
ああ ----おち る
遠のく意識は地面に叩きつけられ現実に戻された。今度こそ…もう、ダメ……だ…
薄れ行く意識の中、座敷童子ちゃんに抱きかかえられて………ああ--チクショウ………
そこで意識はプツリと途切れた。
不定期更新で申し訳ありません(^_^;)