第2話「幸運を呼ぶ座敷童子ちゃんだニャン!」
広く開けた道には、所狭しと人間がぞろぞろと歩いていた。
魔族の王であった父上がゲス勇者に殺され、次期魔王の座に君臨する俺ーールイスは、打倒勇者を掲げ、新魔王軍団を結成した。
まだ側近のフェニックスしかメンバーはいないが、今は仲間探しのためにトコトコと歩いてきたのだ。
それにしてもおかしな光景だ…
俺たちが住んでいた世界グリオナにいたときは、人間なんて貧弱そうな生物に屈するなんて思わなかったが…サイズが違うだけでこんなにも迫力があるのか…
今の俺はグリオナにいたときの姿ではなく、この世界で俗にいうネコという生物に変わってしまった。ちなみにフェニックスはスズメと呼ばれる小鳥だ。
ゲス勇者と同じ人間がごろごろと波のように流れていく。
辺りにはコンクリートで造られた高い高い果てし無く高い壁が空へと伸びている。俺は首が疲れるため上を見るのはもうやめた。
それでも、グリオナにはない造形物にやはり興味が湧いてしまう。目がいくつあっても足りなかった。
「広い所に来たはいいが…ここは人間が多すぎて歩きにくいニャン」
「そうですねえ…いち早く仲間にしたいのは、この世界について詳しく知っている者が望ましいところですが…」
フェニックスが小さな翼で考えるポーズをとり、ふむふむと探偵のように考え込んでいる。
これは長旅になりそうだ…俺は果てしない旅を思い浮かべ、うな垂れた。
ぐ〜ぎゅるるぎゅるるる
腹の鳴る音がした。
そういえば朝食をとっていなかった…と頭の片隅で思う。腹が減ったことに気付けば、頭の中は、もうそのことでいっぱいになる。
「うう…腹が減ったニャン…」
「ああ、王子がお腹を空かせていらっしゃるとは…側近失格です…!」
ぶるぶると震えるフェニックスをとりあえず無視する。
視界に入ったのは、"魚屋 うおず"と書かれた看板。
生臭い匂いが、鼻をくすぐってより一層空腹を感じさせられた。
「よし、魚を盗んでくるニャン」
「おおお王子!待ってください。ここは側近である僕がいきます!」
俺の返事を待たずに、フェニックスは小さな翼を大きく広げ、勢い良く飛び出す。一直線に魚屋に突っ込んでいくフェニックス。
俺は胸がドキドキと高鳴るのを感じた。早く…美味しい魚に噛みつきたい!
ぼすんっ
一直線に突っ込んで行ったフェニックスは、横から現れた中年の女性の肩にぶつかり、地面に転げた。
…まあ、あんまり期待はしてなかったけどさ…
やれやれ、と肩を落とすしかなかった。
ふう…と溜息をつけば、再びお腹がなる。ーーすると、視界にどてんと魚が現れた。
うお?!と一瞬驚く。勿論フェニックスが持って来たわけではなく…
「お腹空いてるんでしょう?食べなよ」
そこにいたのは、小さな小さな…俺と同じくらいの大きさの人間だった。
赤い見たこともない服を着て、切り揃えられた黒い髪が特徴だ。
「だ、だれだニャン…」
「あたしは幸運を呼ぶ"座敷童子"ちゃんだよ」
にこにこと細い糸目が、さらに細くなる。頬が白色からほのかにピンク色に染められた。
…ざしきわらし?
「あ、ありがとうニャン…座敷童子ちゃん」
俺はぺこりと頭を下げて、がつがつと魚にかぶりつく。美味しい、美味しい!こんなに上手い魚は初めて食べたかもしれん!
「見かけないネコくんだねー!名前はなんていうの?」
「俺は、異世界から飛ばされてきた新魔王ルイスだニャン!」
どどーんと胸を張って俺は自慢気に答える。それに対して座敷童子ちゃんからはふーんと何の変哲もない答えが返って来た。
ガクリと身体が傾くのを感じた。
「魔王ルイスくんは、なんで異世界から来たの?」
「それはだニャン…話せば長くなるニャン…」
俺は座敷童子ちゃんに今までの経緯を説明した。うんうんと聞いてくれることが、嬉しかったりした。
「それは大変だね」
「そうなんだニャン…そして仲間探しが全く捗らないニャン…」
とほほ…と肩を落とす俺に、座敷童子ちゃんはポンと俺の肩に手を置く。
「じゃあ、あたしがそのヘンテコ軍団に入ってあげるよ!」
「ほ、本当かニャン?!心強いニャン!…これからよろしくニャン!」
俺は自分の目が輝くのがわかった。
ここに住んでいる座敷童子ちゃんが仲間になってくれるなら百人力だ!
新しい仲間、ひとりGETだニャン!