プロローグ「新魔王軍団結成だニャン!」
長編2作品目です。
人間、魔族、妖精たちが共に生きる世界ーーグリオナ
青々と広がる草原
お生い茂る森林
無限に広がる青い空
果てし無く続く世界。
その世界を我が物にするべく魔族は侵略の手を伸ばしていた。それを阻止すべく、立ち上がる人間。
人間と魔族の間には争いが絶えなかった。
しかしそれはもう大昔の話。
魔族第16代の王ーー魔王は戦うことをやめ、最果ての島にある魔王城でのんびりとした日々を過ごしていた。
長く続いた人間との争いは魔族が一方的に放棄し、何事もなかったかのような毎日を送っていた。
今は三種族が存在する世界グリオナの平和を守る活動を魔族総出で行っている。
"平和第一"というスローガンを掲げ、早50年。すっかり魔族の持ち合わせている強大な"力"や"弱肉強食"の精神は廃れつつあった。
そこに不満を持つ者もいた。
誇り高き魔王に心配こそするものの、やはり皆魔王を信頼していた。
魔王城の大きな図書室に、不貞腐れた顔をした少年がひとり、机に向かって勉強をしていた。
黒髪に炎を閉じ込めたような紅の瞳が二つ。耳は大きく三角に尖り、右耳に赤いリングのピアス、左耳には漆黒の綺麗な羽根のピアスをしている。その羽根と同じ色の翼が少年の背中にも生えていた。
頭からは鋭く大きな角がその存在を堂々と主張していた。
服は黒いコートに金属の装飾がされており、一目見て貴族の子だとわかる。
まだ幼さの残る顔には"不機嫌"がそのまま貼られているかのようだった。
「ルイス王子、どうなさったのですか。不貞腐れた顔をなさって…」
少年の正面には眼鏡をかけて長い髪を一つに結わえている女性が、分厚い本を片手に少年に質問をした。
本のタイトルには"魔族の歴史"と記されていた。
「ありえねーよ。どうして父上は戦いを挑まないのか」
魔族次期王位の座につく少年ーールイスは勉強机をバンバンと叩く。
女性はやれやれと目頭を押さえる。
「それは先ほどお教えしましたでしょう?我らが魔王様は"平和"を望んでおられます。」
「わかってるけどさ、これじゃあ魔族の面目が丸潰れだぜ」
チッと舌打ちをこぼす。
草原に落ちたゴミ拾い
日照りが続くときは雨を降らせ、
自然に強く育つ力を与える
魔族は魔力を世界の平和のために使うようになったのだ。
…本当に、情けねえ話だよ。
ゴーンゴーン…
重い鐘の音が図書室に響く。
柱に掛かっている壁時計が午後三時を指していた。
それが合図でもあるかのように、扉が大きく開かれた。
「ルイス王子。魔王様がお呼びです」
「へーへー」
深々と頭を下げる青年。髪、瞳の色、背中から生える大きな翼さえも真っ赤であった。鎧を着込み、腰の位置には細長いレイピアが携えられていた。
ルイスの側近ーーフェニックスはスタスタと歩いて出て行くルイスの2、3歩後ろから着いて歩いた。
魔王城で1番大きな広間、魔王が座る玉座の間にルイスは赴く。
玉座には深々と座る男。ルイスの父親であり魔王が笑顔で息子を迎える。
もじゃもじゃの髭に、顔にはたくさんの皺がありルイスとは違う大きな身体、所狭しと玉座からはみ出ている翼が特徴的だった。
「ルイス、実は相談したいことがあってだな…最近人間の村で病が流行しているらしくてなあ…」
「父上、なぜ"平和"などというものを掲げているのですか。」
ルイスは口を尖らせ、魔王の言葉を遮る。
魔王はその問いに一瞬きょとんとした顔をする。本当に恐ろしさのカケラもない。
「ルイスよ…争いはなにも生まない。お前の母も人間との争いに巻き込まれて命を落としたのだ。我々は強大な力により、他の2種族に距離を置かれがちだが…いずれわかってもらえるさ。もう少しの辛抱なんだ…憎しみは、辛いだけだ」
少し切なそうに語る父親に、ルイスはそれ以上何も言うことはできなかった。
その時、魔王城が大きな音を立てて揺れる。
何事だ?!
正門が破られた!
人間が攻めてきたぞおおおお!
勇者と名乗る者が先陣を切ってやってきた!
城内が突然の襲撃に慌ただしくなる。
ーー何故人間が攻めてくるんだ!?
ルイスは困惑の表情を浮かべる。
魔王は玉座から立ち上がり、ルイスに下がっていろと命令する。
バンッと扉が開けられた。
金属の鎧を身につけた人物が堂々と仁王立ちした。所々血がついている。
ルイスの目に、酷い光景が飛び込んできた。鎧の人物の後ろに、血を流して倒れている魔族が見えた。
「ーーッ?!」
頭に血が上るのを感じる。ルイスは走り寄ろうとしたが、父である魔王に制される。
「我が名は勇者アルディナ。グリオナの平和を脅かす害虫を殲滅しにきた」
自称勇者は高らかな笑い声をあげる。
そして血にまみれた剣を引き抜き、目にも留まらぬ速さで魔王との間を詰める。
一瞬の出来事だった。
父上身体をひと突き。
ああ、どうしてなんだよ
父上は何もしていないのに
弾ける血飛沫に、くらくらする。
視界がチカチカと眩む。
ドサリと魔王の巨漢が倒れこむ。
「あーははははははっははっは!これで俺は英雄だぁ!人類最強の名誉と地位が手に入る!金も土地も女も!!!!俺のもんだ!ぎゃはははははっははは!」
この…ゲス野郎が!!!!!
ぎりぎりと歯が音をたてる。
父上は何も悪くない
このゲス野郎のせいで、
殺してやる、殺してやる、殺してやる
自称勇者アルディナは火炎魔法を詠唱する。
城中が炎に包まれた。
ルイスは闇の黒魔法の詠唱をする。
右手に力が集中するのがわかる。
それに気が付いた勇者は、黒い笑みを浮かべて鈍く光る剣を構え直す。
一歩踏みしめ、再び間を詰めてくる相手目掛けて死の魔法をぶつける…
ーーが、あと一歩の所で、空間が眩い光によって割かれた。
「な、なんだぁ?!?!」
眩さに目をやられ、目を抑える勇者。
「ルイス…よ、」
掠れるような声に、ルイスはハッとする。ーー父である魔王の声だった。
「憎しみに…囚われ、ては、…いかん…」
その言葉を最後に、ルイスは神々しい光に包まれ、意識を手放した。
***
目を開ければ、そこには青い青い空が広がっていた。ギラギラと輝く光に俺は目を細めた。
ここは、どこだ…?魔王城は…?
あたりを見渡せば見たことのない景色が広がっていた。遠くには四角い塔が何本も立っている。
あれ?…と俺は自分の手を見る。それは、俺の知っている手ではなかった。
真っ黒な毛が生えて、手の平の部分にはプニプニとピンク色の肉球があった。
は、はぁあああぁぁああ?!?!
「な、何ニャこれー?!?!?!?!」
ありえないありえない。
なんだこれ、どこだここ。
ニャってなんだニャって。
俺は頭がこんがらがって動揺する。
二足歩行ではなく四足歩行
人型の姿ではなく、これじゃあまるで獣だ
俺は地面にあった水溜りに自分の姿を映してみる……そして度肝を抜かれた。
全身真っ黒の毛が覆い尽くす。
紅い目がぎょろっと大きく見開かれるのがわかった。角や翼も勿論ない。
俺は…どうしちまったんだ…?
「王子ー!ルイス王子ー!」
「そ、その声はフェニックスかニャ?!ど、どこにいるニャ?!」
何処からか聞こえる側近の男…フェニックスの声を俺は探した。キョロキョロと見回しても紅い髪の鎧男は見当たらない。
「こっちですーこっちこっち」
「ニャ?」
つんつんと突つかれ、振り向いた。そこにいたのは、とてもとても小さな小鳥。頭部は赤茶色で、首元は黒い斑点がある。
「……誰ニャ?」
「だから、ルイス王子の側近のフェニックスですよ」
小さな口バシを細々と動かし、フェニックスと名乗る。
ああ、これは夢か…?
俺はもう何が何だか分からなくなり、考えることを放棄する。ゴロンと地面に寝転がる。
しかしお構いなしにとフェニックスはパタパタと小さな翼をはためかせる。
「どうやら僕たち、魔王様のお力で異世界に飛ばされたようです王子」
「なんで飛ばされたんニャ?」
「それは勿論!打倒ゲス勇者ですよ、王子!お父上や殺された魔族の仇を討たなくてわ!」
仇…父上の、仇…思い出して俺は鼻がツンと痛くなるのを感じた。目尻がじわじわと熱くなる。
「きっとこの世界には強くなる秘訣があるんですよ!」
…そうだ。
俺は再び立ち上がる。
強くなって、どうにかして勇者のいるグリオナに戻る。そして、あいつを倒す。
俺は身のうちにメラメラと燃え上がる闘志を感じた。
「よし、まずは"新魔王軍団"を結成するぞ!フェニックス!」
「了解です王子!」
俺は意気込み、ここに打倒勇者・新魔王軍団を結成した。…まだ2人だが
「最初の任務はゴミ拾い兼仲間集めだ!いくぞフェニックス!ついてこーい!」
父上から教えられた地面に無残に残されたゴミを拾うこと。これが初任務だ!
新魔王軍団…別名"平和を守る軍団"がここに誕生した。
魔王という響きが好きです。
無敵、最強というのが連想されてそういう存在に憧れます。
だから今回は、その格好良さを全く生かしきれていない作品になってしまいました。
魔王にゃんこが、これからいろんな事に衝突していくと思いますが、温かい目で見守ってあげてください(*´ω`*)
滝川なち