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しろのあるじ

作者: HEP

おすすめは、肉団子の入ったトマトのスパゲティ。

私は一国一城の主だ。

私の城は、小さな定食屋。


店を構えて12年経つが、常連のお客様に支えられてなんとかやってきた。

うちの店のおすすめは、肉団子がゴロゴロ入ったトマトのスパゲティだ。

昼時はこいつを食べに沢山お客が来てくれる。

子供も大人も最後に肉団子を残しては、トマトソースを塗りたくって頬張る。

そりゃあもう幸せな顔でだ。

筋肉達磨の冒険者や、行き遅れのパン屋の娘、泣き虫小僧だって、誰だって。

そんな顔を見るたびに、俺はこの仕事やってて良かったと思うんだ。


「おーい店長、肉団子のやつ頼むわ。大盛りでな」


っとお客様がやってきた。

顔なじみのお客様は、一番壁際の椅子に腰掛ける。

タバコをさっと取り出し火をつけ、大きく煙を吸い込む。


大きく咽る。


「大丈夫ですか」


お客様はバツの悪そうな顔をして、


「平気だ、気にするな」

いつものやり取りだ。


舐められないようにタバコを始めた、と言われたのは何年前だったか。

意外にも子供っぽい所があるのだなと思ったのは秘密だ。


他愛ないお喋りの間にも料理はてきぱきと進んでいく。


まあスパゲティさえ茹でれば、すぐ完成の簡単なもんだが。


「お待ちしました」


コトリとカウンターに皿を置く。


置いたそばからガツガツと食べていくお客様。

マナーなんてそっちのけで、料理を食べていく。

口の周りがトマトだらけになってもお構いなしだ。


「美味かった」


と、カバンから出した上等な生地のハンカチで口を拭う。

あのトマトまみれになったハンカチで、何回口の周りをトマトだらけにできるのか。


チャリンとお代をカウンターに置いて、お客様は立ち上がる。


「これからお仕事ですか」


「ああそうさ、俺には飯の時間しかゆっくりできんのでな」


このお客様は忙しい、本当に忙しい。私みたいな小さな定食屋には想像できないほどに。

しかし、忙しい合間を縫ってこの店に来てくれる。私はそれが嬉しい。


「今日も美味かった、また顔を出す」


そう言って店を出て行くお客様を見ていると、初めて来店された時のことを思い出す。

思わぬ来客に戸惑う私に、


「私は客だ、お前は店主だ。この街は私の街だが、この店はお前の城だろう。城主というものはどっしりと構えるものだ」


私は一国一城の主だ。

私の城は、小さな定食屋。

きっちり最後に肉団子を残し、笑顔を見せる領主様にも私は胸を張る。



カリ○ストロのアレを思い出してください。

あれは確実に美味い。

私はお弁当スパゲティに、ミートボールで幸せです。

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