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知らない人
初めて見た。
人って本当に電車に飛び込むんだ。
ドラマとかそんなんだけの話だと思ってた。
悲鳴と電車のブレーキの音がホーム中に響き渡り、こんなに人が居たのかと思うほどの雑踏に包み込まれる。
そんな中私は動けずにいた。頬を伝い制服に染み込む生暖かい鮮血、目の前に取り残されたあの人の持ち物と思われる鞄。目が離せなかった。
怖いとは、不思議と思わなかった。
ただずっと見慣れない、普通じゃない光景を眺めていた。周りの声はもう聞こえない。
そうしていると不意に目の前が暗くなる。じんわりと温かい、手のような感覚だ。
「あまり見るもんじゃない」
頭上から聞こえた声は、どこかで聞いたことのある声だった。
「立てるか」
「…うん」
知っているようで知らない人にブレザーを羽織らせてもらい、肩を抱かれ立つのを手伝ってもらった。そしてそのままその人に支えられる様にしてホームの階段を上り、改札を出た。
あとで気づいたことだけど、私の足は震えていた。