誰一人友達にはならない
上田がさぁと言わんばかりに、右手を差し出すのを見たその生徒が言う。
「そうやなぁ。
一日あたり三千円でどないや?」
その生徒はにんまりとした表情である。上田には意味が分からない。いや、意味が分かる解釈はできているが、それは信じたくなかった。
「何の事?」
そう言った上田の差し出している手はさっきより力なさげに、少し下がり気味になっている。
「友達になってほしいんやろ?
毎日三千円くれるんやったら、なってやってもええでぇ」
やっぱりそう言う事だったのか。
さっき、声をかけてくれたのはなんだったのか。
上田の頭の中は混乱している。そんな二人のやり取りを見ていた周りの生徒たちは、くすくすと笑っていたが、上田は全く気付いていない。
「なんや、くれへんのか。
まぁ、ええけどな。
言っとくけど、あのクラスにお前の友達になろうっちゅう奴は一人もおらへんでぇ」
「じゃあ、さっきのは何だったんだ?」
上田が力無くぽそりとつぶやく。
「分かってぇへんなぁ。
周りを見てみいやぁ」
その言葉に上田が辺りを見渡し、ようやくその異様な雰囲気に気付いた。
「あの子誰なん?」
「あれって、いじめなん?
それともいたずらなん?」
そんな声と共に、周りの視線が自分に集中している事に上田は気づいた。何が起きているのか、推測は簡単だった。今までに、実際に見た事は無かったが、よく聞く手である。
上田は慌てて、自分の背中に手を回すと、予想通り、そこには紙が貼られていた。
その紙を掴んで背中から離すと、その紙に書かれている事を見た。
「僕はサイテーな男です。ちんかすと呼んでください!」
上田は真っ赤な顔をして、その紙を手でくしゃくしゃに丸めると、一人走り出した。
上田は男子トイレの個室に飛び込むと、薄汚い壁にもたれかかって、荒い息をしていた。
なんで、こんな事されなきゃならないんだよ。
どうしたらいいんだ。
上田の頭の中はほとんどパニック状態だった。