いじめの始まり
授業が終わり、近藤が出て行くと、小山がすくっと立ち上がり、大声を上げた。
「嫌な奴やなぁ。
こいつは顔で女を選ぶんやぁ。
私なんかより、さっさと柏木に机を寄せてしもうて、ええ加減にしいやぁ。
女の子を顔で選ぶ奴はサイテーや」
突然の言葉に上田が驚いた表情で、小山を見つめる。
「何言ってるのですか!
僕はそんなつもりありませんよ」
上田が真っ赤な顔で、立ち上がりながら、小山に言い返した。
「ふん。
見え見えな事言うたらあかんでぇ。
女の子を顔で選ぶ奴はサイテーやと思う者は手上げやぁ」
そう言いながら、小山が率先して手を上げると、女生徒たちは次々に手を上げる。上田は仲間外れになっているとは知ってはいないが、仲間外れにされている女生徒でさえ、これ以上の被害を避けようと手を上げている。
慌てて上田が周りを見る。さっきまで教科書を見せてもらっていた柏木でさえ、上田に顔をそむけたまま、手を上げている。
「そんな。
どうして、そうなるんだよ!」
上田がそう言って、興奮気味に小山に近づく。
その姿を黙って見ていた山本が、大声で小山に賛同しながら、手を上げた。
「小山の言うとおりや。
お前は男として、サイテーなやっちゃ」
自分に対する新たな非難の声に、上田がその声の方向 山本に顔を向ける。
山本は何か文句があるのかと言わんばかりの表情で、上田を睨み付けている。
「えっ。
べ、別に僕はそんな」
上田が自分が置かれ始めている状況が、かなりまずいと気付き焦りの声を上げた。
「ほんまやなぁ。
こいつはサイテーな男や」
新たに別の男子生徒が、上田に対する非難の声を上げると、その声は教室全体の声になって行き、次の授業のチャイムが鳴り、先生がやって来るまで、収まらなかった。