転校生
小谷が教壇の前に立つと、号令がかかった。
「起立。礼。着席」
礼を終えた生徒たちが、着席のために引く椅子の音がまだ終わり切っていない頃、小谷が話しはじめた。
「えー。今日はみんなに転校生を紹介します。
お父さんの仕事の関係で、急に転校してくることになった上田卓巳君や」
その言葉に横に立っている転校生 上田がお辞儀をした。
小谷は上田に一度軽く顎を上にあげて、合図を送った。自己紹介しろ。
そう言う事だと受け取った上田が自己紹介を始めた。
「今まで、横浜に住んでいましたが、お父さんがアメリカのシカゴに赴任することになり、お母さんはお父さんと一緒について行く事になったので、日本に僕だけが残る事になり、おじいちゃんの家でしばらく暮らすことになって、ここに転校してきました。
よろしくお願いします」
上田がそう言い終えると小山が手を上げ、指名もされていないのに、勝手に立ち上がり、発言を始めた。
「上田君。質問あんねんけど。
元おったとこに、彼女おるん?」
「おおっ!
どないなん?小山に教えたれや」
小山の単刀直入な発言に山本が続けた。
「そんなん聞くだけ無駄っちゅうもんやろう。
おったに決まってるやろう。あの顔やでぇ。
俺なんか、生まれてこのかた彼女いない歴13年やっちゅうのに」
教室の雰囲気は一気に冷やかし状態になって、無秩序な発言がしばらく続いた。
「えぇ。残念ですが、いませんでした」
みなの発言が一段落した時に、上田は何でこんな事を答えないといけないのだろうかと言う雰囲気で言った。
「よっしゃあ。うちがもらうからな」
小山が教室を見渡しながら言う。本気かどうか分からないが、教室内のみんなはうんうんと頷いてみせている。
「えーっと。
お前の席はあそこだ」
とりあえず一瞬戻ってきた静けさの隙をついて、小谷が上田を座らせる席を指さす。
その上田のために用意された空席の机の場所は偶然にも小山の右横だった。