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08話「伝えたい想い」


 気がつくと冷たいコンクリートに横たわっていた。ふっと顔を上げると2本の細い脚がある。

「大丈夫?」

 上から氷も溶かすような温かい声が降り注いでくる。

「……あぁ」

 僕はゆっくりと立ち上がり、手に握りしめていた缶を反射的に離した。

「あちっ!」

「あはは、自販機のあったか~いは信用しちゃだめですよ」

 彼女は缶を拾うとほほえんだ。

「ちゃんと覚えてくれたんですね……私の好みも」

「……あぁ、もちろん」

「ありがとう」

 そう言って彼女は目を細めた。そう、この彼女の癖も覚えている。これは――


「んっ」


 キスをして――そう示しているのだった。


 僕は彼女を強く抱きしめた。

 そして更に更にと奥に彼女を感じていく。身体の奥、心の奥……すべて何もかも。


「七里……っ」


 七里は絶対に失いたくない。

 もう、七里のいない時間なんて嫌だ。

 心の奥から湧いてくる感情を抑えきれるはずもなく強く強く抱きしめたまま奥歯を噛みしめて泣いた。


「矢田先輩……」


 彼女は泣いた子供をなだめるようにそっと腕を僕の背中に回した。手に持っていた缶の温もりが微かに感じられる。

「大丈夫ですよ、私なんていなくても」

「そんなことない」

 必死に嗚咽を堪えながらそう言う。

「ずっと寂しかった。七里がいなくなってから世界がつまらなく感じた。七里の代わりはいないんだよ」

「……そうですよね……。私も矢田先輩の代わりなんていませんから」

 彼女の声も震えていた。


 噴水の水が跳ねる音だけが僕らの行方をじっと見つめているように感じた。




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