07話「記憶」
公園に着いた頃には深夜の11時頃だった。アサリの貝殻のモニュメントの噴水の前のベンチに僕ら二人は腰をかけた。僕はちょっと待っててと言って自販機でコーヒーを買う。
「そういや、七里は苦いの苦手だっけな」
そんなふとしたことが思い出される。昔はデートのたびに奢っていた。苦いのが嫌で毎回甘そうな奴を飲んでいた。試しに一口もらうとブラック派の僕は糖尿病になってしまうのではないかと思うくらい甘かったのである。その液体が入った缶が鉄の箱から音を立てて落ちる。周りは静かで人の気配はない。
「うっ……」
頭がふらふらする。
ぐっとこめかみの辺りを押さえてしゃがみ込んだ。
「……っ」
眉間にしわが寄る。いままでにない頭部全体の激しい痛み。視界がぼやけていく。
遠くで自販機のルーレットが回る音がする。ガーガーガー。外れだ。
頭の端から何かが消し飛んでいくように意識が薄れていく。
七里の顔が見える。それも消える。部長の顔だ。いつも怒っている部長が泣いていた。それも消える。社長の顔だ。いつもにこやかに壇上でくだらないシャレを言っては一人で笑っている社長がぼんやりとした表情で何か見ている。その先を見ると母親の顔があった。僕の母さんは父さんの暴力をずっと受けていた。そして何年か前に死んだ。その母さんはアザもなく綺麗にほほえみかけてきた。大丈夫、怖くない。それだけ言って消えた。
なんなんだこれは。走馬燈なのか。
そして父親が見えた。暗闇の中闇雲に走っている姿を僕は上から見下ろしていた。何かから逃げている、そう見える。
父親の姿が消えると何も見えなくなった。
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