04話「灯油のにおい」
スーパーでオードブルなどというものを初めて買って家に帰った。一人暮らしのマンション。そこそこの年収なのでそこそこの部屋だ。冷え切った部屋に明かりを灯すと少しは暖かくなったような気がする。
「うーーー、寒い寒い……」
「おいおい、幽霊に感覚なんてないよね」
レジ袋を食卓の上に乗っけながらストーブの電源をつけてひたすら火がつくのを待っている背中にそう言った。
「えへへ、寒くないけどなんとなくそんな感じがするんだよ」
「そんなもんかね」
「そんなもんですよー」
しばらくするとごーっという音とともに灯油の臭いが辺りに立ちこめる。今年は節電の冬だのなんだのあって会社でも灯油ストーブの使用が奨励されているのだ。まことに馬鹿馬鹿しいと思うがなんだか懐かしい気分に浸れるのである。
「わぁ、つきましたよ! 暖かいです……」
めらめらと燃える青い炎に白い手をかざしていた。僕もその隣にかがんで手を並べる。
「暖かいね……」
「そうですよね」
まったりとした時間が流れる。その時間が永遠にも思えるという表現があるが、まさしくそれが当てはまる、そんな時間だ。僕も彼女も――。
「あっ、ちょっと待って。外出てみて。なんか来てるみたい」
彼女が急に思いついたように言う。
「わかった。行ってみる」
立ち上がって玄関の方へと向かった。天界か何かからの贈り物だろうか。いや、そもそも七里は天界から来ているのだろうか? いや、天界なんてあるのだろうか。じゃなかったら何が――?
扉を開けると一気に冷気が吹き込んできた。外に出て確かめてみる。後ろでドアが閉まる音がする。
「あぁ……」
夜空が綺麗だ。
……これなのだろうか。いや、だったらわざわざ外に行かせなくてもベランダから見えるはずだし……。
しばらく待っても何もない。
諦めて戻ることにした。銀のドアノブを引いて開けて中に入った。




