20話「コール音」
2010年12月25日
マンションに帰ると留守電があった。祖母からだった。そろそろくたばったかと思ったらまだ生きていた。だが口調は死んでいた。
『進かい? 元気にしちょるか? あのな……おまえのかーちゃんととーちゃん死におった』
「は……?」
『ケーサツの話しだとかーちゃんがとーちゃんを殺してそして自分も殺したらしい』
祖母の喋り方に淀みはない。だがそれが現実をより、リアルにしていた。
母さんが……死んだ?
そんな、馬鹿な。
心にぽっかりと穴が開いたような感覚に陥った。
目の焦点が合わないままに手探りでケータイを探し、電話をかける。
テュルルルル――
耳の奥の鼓膜を震わすそのコール音。早く、出てくれ。
「もしもし、矢田先輩ですか?」
「七里っ!」
「えっ? 何かあったんですか?」
「両親が……死んだ」
「え――? ちょ、せんぱ――」
その後悲鳴が聞こえた。
坂から鉄板が転がり落ちるような、そんな音だけが頭の中を支配する。
「七里っ! どうした!? おい! 返事しろ!!」
その声は届くことなく、返事はツーツーという無機質な音だけだった。
しばらくそれを聴いているとツーーという音に変わった。どうしてだろうか、それが七里の心拍数の音のように聞こえた。
「くそぅ! ちきしょぉおおおおおおおお!」
携帯を床に叩きつける。
七里の電話番号がすっと闇に変わる。
「なんで! なんで、なんでなんでなんでなんでなんで……」
言葉にもやがて力が入らなくなった。
ぐったりと冷たいフローリングに転がる。空を見ると切れかかった蛍光灯がちかちかと点滅していた。やがて、切れた。
「…………」
のどに力が入らなくて声が出ない、息ができない、苦しい。
力なく振り上げた腕はそのまま宙を切って床に横たわった。
なんで、七里は、母さんは――




