13話「あの日々」
七里はとても律儀な子だった。
デートの待ち合わせにも遅れたことはない。会社にだって毎日決まった時間にやってくる。やれと言われたことは必ずやっていた。
そんな彼女なのに、なんで僕の元に帰ってこないのだろうか。――否、帰ってきてる。今ここに。帰したくない、帰ってほしくない、ずっといてほしい。そんな方法あったならばとっくに――
脳裏に映されたあの日常。
母親が父親に暴力をされる毎日。
もう何日も家に帰っていない。父親が怖くて、その暴力を受けている母親も見るに耐えなくて。
「お母さん、もう逃げよう。あんなやつ捨てて」
自分が中学生の時、そう言った覚えがある。
「ダメだよ、お父さんはね私がいなきゃダメなんだよ……そうだから私がお父さんの近くにいて……」
今思えば母親はおかしかった。過度のストレスで精神的にどうかなってしまったのだろう。母親は夫から離れようとしなかった。
――そうだ、暴力だ。
七里を暴力で縛り付ければいいじゃないか。名案だぞ、矢田。
だけどそれが本当にいいのかという気持ちの方が勝った。
大切な七里を傷つけることなんて僕には到底できない。
世界で一番大切な人を――




