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1、起きたまま見た夢

 畑上(はたかみ)くんが亡くなったらしい。その情報は午前一時に佑月(ゆつき)からのメールでわたしに届いた。

 わたしは素直に驚いた。けれど正直な話、畑上くんとは高二の時同じクラスだったというだけで、特に関わりがあったわけじゃないし、別に思い出があるわけでもなかったから、その短い文章はリアリティの半分も与えてはくれなかった。


 原因は分からないんだって。多分事故かなんかだと思うんだけど……病気とかないよね? 明日のお通夜に(ひろ)とよっくんが行くらしいから、また連絡する。


 暗闇でこうこうと光る携帯の画面はそんなことを言っていた。青白くて眩しくて、思わず目を細めた。

 お通夜には行った方がいいのかとか会場はどこだとか話していたが、畑上の親ごさんがどう考えているか分からないのに関わりのないわたし達が行くべきなのかという話になり、バイトも重なっているというふたりの私的な事情により、結局行かないことにした。

 高校を卒業して二年目の、夏の初めだった。




 次の日の夜は昨日より早い時間に携帯が鳴った。ちょうどバイトから帰ってきたところで、メールだと思っていたら電話だった。



好実(このみ)?」

 佑月の声が思ったよりも大きかったので、わたしはソファに深く腰を下ろしながら反射的に携帯を少し耳から離す。

「うん、どうしたの」

「畑上くん殺されたんだって!」

 更に音量を増す佑月の高い声がわたしの耳に響いてしばらくしてから、頭がやっとそれを捕らえた。

 反射的に背筋が伸びる。一瞬息が止まった。わたしのせっかちな息は、すでに少し震えていた。

 リアリティは更に削り取られたのだけれど、死因が他殺と知った途端に大きく反応するわたしの脳みそは、同情しているのではなくて、そう、酷く恐れた。



「……うそ、なんで、誰に? 通り魔かなんか?」

「……それが、」


 嫌な予感がした。

 小さい頃からよく当たるわたしの予感は、この間模様替えしたばかりのわたしの部屋の空気を冷たく鋭くえぐった。


「……、」

 矢田くん、とその声は言ったようだった。

「……は?」

「……だから、陸上部の、」

「……わたしのよく知ってる矢田?」

「そう、その矢田。矢田俊喜」

「は、」

 ぐるぐると世界が回る。いみがわからない。

 わたしは止まった。


「……好実?」

 空っぽの頭の中にあるのは彼の名前だけだった。きっとまだわたしは眠っている。だってほら、なにもわからない。



「…………矢田?」

 やっと絞り出した声は案外簡単に口の中を転がった。しんと静まり返ったわたしの部屋に響くのはその名前だけだったのに、口に出すことでそれに反応した心臓の音が、控え目に主張を始めた。



 矢田俊喜(やだとしき)とわたしは同じ陸上部だった。そして矢田はキャプテンだった。

 しっかりしてて頼りがいのある、情の厚い男だった。

 矢田が200メートルで都大会進出を決めた時のくしゃくしゃの笑顔がわたしに向く。「(しま)、ちゃんと見てたか」駆け寄って来た清々しい彼にわたしは思わず抱き着く。じいんとした熱さが伝わる。彼の呼吸が跳びはねているのが分かる。

 蘇る。蘇る。右頬に出来るえくぼが、わたしは好きだった。




「……好実、好実?大丈夫?」

「……嘘、なんで、え、どうしてよ。なんで矢田が、」

――人を殺さなきゃいけないのよ、

 語尾は荒くなった息にのまれて消えた。

 煩い。煩い。心臓の音、煩い。

「理由はわからないの」

 耳に当てた機械を通して聞こえる佑月の声も少し震えているようだった。


 心の端っこではこの事態を飲み込めていないわたしのカケラが、まだ暢気に矢田のえくぼを見ていた。




続、



梅雨ですね。雨が嫌だ…

ここでは初めての連載です。

実は一番はじめらへんだけ実話だったりします。報告がメールの文字だけじゃ淡々とし過ぎてリアリティに欠けるんだよね。とはいえ、うーん衝撃でしたかなり。明日って誰にでも来るもんじゃないんだよね…痛感。

ああ原因なんだったんだろう…


長くなりましたが、これからのんびりとお相手ください。



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