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婚約破棄された元公爵令息、国を捨てたら最強の美少女ドラゴンに気に入られました

作者: 月焔 レイ
掲載日:2026/03/27


「ユリウス、あなたとの婚約は破棄させていただきますわ」

「……はい?」


 普通、逆なのでは?

 少なくとも俺はそう学んだ──前世で。


 記憶を取り戻したのはつい先ほど。

 目の前にいるのはたった今元婚約者となったアメリア・カーティン公爵令嬢。


 光を拡散しホールに彩りを加えるシャンデリアの輝きとは裏腹に、ユリウスの人生は、開始早々に終了のブザーが鳴り響いた。


「あなたのその、興味なさげな態度が嫌いなのよっ!」

「……すまないな、ユリウス。

 僕がアメリアを愛してしまったんだ」


「彼女を責めないでくれ」そう言って切なげに目を細め、アメリアの腰を抱き寄せたのは、幼馴染でありこの国の王太子でもあるルドルフだった。


 ……この国の将来は大丈夫か。

 卒業パーティーの舞踏会で、婚約者に婚約破棄を切り出す女だ。その女を王太子妃にしようとする王太子に、ユリウスは早々と見切りをつけた。


 百年の恋も一瞬にして覚めた。


 もともとそんなに熱烈な恋はしていなかったが、それ相応の愛情は注いできたつもりだった。

 

 しかし、この結果がこれだ。


「分かった」


 早期撤退。先手必勝。


 壇上で口が開いたままふさがっていない国王と父上を一瞥し、ユリウスは踵を返した。


 ⸻⸻


「おい、国を出るぞ。この国の将来は危うい」

「かしこまりました、ユリウス様」


 最低限の路銀と衣服、装備、換金できそうな宝石類だけを拝借し、幼い頃に拾ったカイルを連れて屋敷を後にする。


 父上と母上を乗せた馬車が屋敷に慌ただしく到着し、ユリウスの名前を叫んでいるのが聞こえた。しかしユリウスは、振り返らなかった。愛馬の腹を蹴り、闇にまぎれた。


 跡継ぎには優秀な兄がいるのだ。家のことは問題ない。落ち着いたころに連絡の一つでも入れれば良かった。

 親不孝だと思わないことはない。

 だが──親の決めた許嫁、期待通りの成績、親の意をくんだ王太子の側近としての内定。


 全て、親の理想を叶えてきた人生だった。


 少しくらい、自分で人生を選んでもいいだろう。


「俺は自由だ――――!」

「……ユリウス様?」


 怪訝そうな顔をするカイルをよそに、俺は満天の星空の下、叫んだ。


「異世界、最高ーー!」


 アメリア、ルドルフ──

 よくぞ、俺を解放してくれた。


 ユリウスは前世の記憶を取り戻したのだ。

 ラノベオタクであったユリウスの準備(イメージトレーニング)は完璧である。

 

 親の期待に応えるために努力したため、素材(ポテンシャル)もあった。

 チート能力こそないが、この世界(異世界)を満喫する準備は整っていた。


 俺の未来は明るい。

 このときには、そう信じていた。


 だが、人生そんなに甘くなかった。

 それは前世で学んでいたはずなのに。


 ──神様は俺に厳しすぎる。


 ⸻⸻


「カイル……金……全部()られた……」

「だからいったじゃないですか。僕が持ちますって言ったのに」


「どうするんですか、一体。僕は野宿でもいいですけど、ユリウス様は無理でしょ?そもそも、あんなあからさまに財布を腰から下げる馬鹿がどこにいるんですか?」


 落ち込むユリウスを慰めもせず、カイルは追い打ちをかける。


「そんなこと言ったってさ……」

「へこんでいたってお金は湧いてきません!お金を稼ぎに行きますよ!」


 机に突っ伏しているユリウスをずるずると引きずり、カイルはユリウスを連れ、登録を済ませたばかりの冒険者ギルドへやってきた。


「魔術が使えるんだから、さっさと依頼片づけてランク上げてください。実入りが悪すぎます」

「……お前ってそんな性格だったっけ?」

「こんなところで猫かぶっても意味がないでしょう?そもそも僕は元暗殺者ですよ。僕をこっちに引きずりこんだのはユリウス様なんですから、さっさと腹を括ってください」


 ビシッとユリウスが指さした先には、依頼の掲示板。


 ユリウスとカイルはその中から、今受けることのできる最も高い報酬 ”地竜の生態調査" の探索依頼を手に持ち、受付嬢の元へ向かった。


「ちょっと!これ、高ランク向けの依頼ですよ!確かに長らく受注されてなかったのでランク制限は消えていますが……それにしても無理です!」

「大丈夫大丈夫。ほら、こっちは予備っていうか。こっちが本命」


 ユリウスは、ぴらっと追加で依頼書を受付嬢へ差し出し、にこりと微笑んだ。

 依頼書を差し出したはいいものの、受付嬢は顔を赤らませ、なかなか受け取らない。

 

「おーい」

「は、はい!す、すみません!」


 「処理しますね」と慌ただしく再起動した受付嬢を横目に、ユリウスは「やったぜ!」とカイルにピースサインを向けた。

 カイルに「この天然誑しめ」と冷たい顔を返されたことに、ユリウスはムッと目を細めた。ここは褒められるところであり、貶されるところではない。

 

──ユリウスは自分の容姿が人並み以上に整っていることの自覚がなかった。


 ⸻⸻


「いやー雰囲気あるね!ダンジョン!」


 実家から拝借した(宝刀)と、装備(ドワーフ特性の防具)に身を包んだユリウスは、同じく装備に身を包んだカイルに向け、にかっと笑った。


「なんか、順応性高いですね、ユリウス様」

「そうか?俺は優秀だからな。こういうこともあろうかと常日頃から備えていた」

「そうですか?生まれ変わったみたいに生き生きしていますけど」


 さらりと言われたカイルの言葉に、ユリウスの背中に冷や汗が流れた。

 鋭すぎる従者を持つのもなかなかに大変だ。


「何言ってんだよ、そんな訳ないだろ?」

「当たり前じゃないですか。例えですよ、例え」


「早くいきますよ」とすたすたと進んでいくカイルの背中を、ユリウスは慌てて追いかけた。


 ⸻⸻


「おい、本当にここに地竜がいるのか?」

「そう先輩方はいってましたけどね。絶対近づくなって」

「そっか。じゃ、もうちょい奥まで行くか」

  

 カイルと二人、ダンジョンの奥深くまで潜っていく。

 

 低階層はスライムやゴブリンといった低ランクモンスターばかりだったダンジョンだったが、階層が進むほどポイズンスパイダーやスノータイガーなど高ランクモンスターが増えてきた。


「それにしても、ダンジョンって凄いな。環境も季節も階層ごとにバラバラじゃないか。どうなってるんだ?ロマンが詰まっている」

「そんなのんきなこと言ってるの、ユリウス様くらいですよ。どこの国もダンジョンの崩壊に頭を抱えてるんです」

「知ってるけどさ。倒せばいいだろ」

「誰もがユリウス様みたいに動けるとは思わないでくださいね……」


 あきれ果てたように言い捨てたカイルも、飛びかかってきたモンスターを一刀両断している。

 人のことは言えないだろ……とユリウスはカイルのことを横目で見た。


「そういえば。なんでユリウス様は剣なんですか?」

「ロマンと雰囲気?」

「ふざけてないで魔術使ってください。そろそろ本気にならないと死にますよ?」


 「必要そうならな」と飛んできた火球を剣で切り裂き、モンスターの首を落とす。

 正直、カイルとの日々の訓練のほうが辛かったくらいだ。この程度のモンスター相手に、魔術を使う気にはなれなかった。


「おい、底だそ」

「着いちゃいましたね。最下層」


 ダンジョンは、最下層へ達するとダンジョンコアがある。そのコアを破壊するとダンジョンはなくなる。消えるのだ、跡形もなく。

 

 ただし、長期間放置されたダンジョンは、スタンピードを起こし、モンスターたちが地上へあふれ出してくる。


 当初は財源として期待されていたダンジョンも、スタンピードが発生すると一転、各国は高ランク冒険者の囲い込みに走った。


「──誰だ。

 せっかく気持ちよく寝ておったのに」


 中央で光るダンジョンコアを観察していると、明らかに二人のものではない声が静寂を切り裂いた。


 その声は空気を震わせ、壁にひびが走り、細かな破片がぱらぱらと崩れ落ちた。


「おい、カイルしゃべったか?」

「ボケたんですか?僕の声はあんなに低くありません」


「──うるさい」


 怒声が空気を割った。

 地面がひび割れる。


 カイルとユリウスが顔をこわばらせ、周囲を見回すと、目の前の岩が動いた。


 いや、岩ではない。


 ──巨大な(ドラゴン)だ。


 誰だ、地竜だなんていったの。本物の龍じゃないか。


 伝説上の生き物とされた龍の目が、ユリウスたちの目の前でゆっくりと開かれた。


 大きな目がぎょろりと二人の姿を捉える。

 二人は金縛りにあったかのように動かなくなった。


「お前、二つの魂が混ざっているな──」


 轟いた声に、理解が追い付かない。

 いま、なんと言ったか──


「お前だ、無視するでない」


 発せられた怒気にユリウスたちの身体が震えた。

 ビリビリと駆け抜ける威圧は、まるで雷のように身体を痺れさせた。


「お、おれですか……」


 なんとか声を振り絞り、ユリウスは答えた。

 そうしなければ、捻りつぶされそうだ。


「そうだ、お前だ。なぜ二つの魂を持つ。世の理を壊すでない」

「そ……そういわれましても……」


 自然と言葉が丁寧になった。

 国王の前でも内心は舌を出していたのに。


「理解しておらんか……この歪さが……」


 目を細め、ユリウスを射抜く視線に射殺されそうだった。ユリウスは死を覚悟した。


「ふん、どうせ奴の仕業じゃ。まぁいい。せっかく目が覚めたのだ。我も地上に行くかの」


「ざっと3000年ぶりというところか」と気楽にいう龍に、ユリウスたちは先ほどまでとは別の意味で身体を震わせた。


「ド、ドラゴン様」

「そのドラゴン様というのは我のことか?」

「そ、そうです……」

「我にはフレイアという名がある。名を呼ぶことを許そう」

「はっ……フレイア様。地上へ向かわれると?」

「ふむ。そうしようかと思うがの。なんじゃ?お主も来るか?」


 フレイアの問いに、ユリウスの頭が高速で回転した。

 ──ここで間違えれば、すべてが終わる。


 このままフレイア様を地上に出したら大混乱だ。

 厄災どころの騒ぎではなくなるだろう。

 下手をしたらユリウスたちの国は──終わりだ。


 そう思うと、ユリウスの腹は括られた。


「はっ、お伴させていただきます」

「ユ、ユリウス様!?」


 声が裏返ったカイルには悪いが構っていられない。


 こっちは世界を背負っているのだ。

 

 いくら転生したからと言って、世界を救う救世主は自分には荷が重すぎるのだが……

 俺は、婚約破棄されて自由を謳歌する、独身貴族冒険者だったはずなのに──


 嘆いても、現実は変わらない。


 進むしかなかった。


「ほう、いい瞳だな。震えながらも伴をしようというその心意気、気に入った。顔もなかなか男前だ。よかろう。伴を許す」

「ありがたき幸せ」

「だが、これだと動きにくいな。お主らと共に行動もしにくい」


 フレイアが瞼を閉じると、ぱっと光が弾けた。

 眩しさに目をつむり、そっと目を開くと、そこには絶世の少女が立っていた。


「うん、これならいいわね。」

「フ……フレイア様?」

「フレイアでいいわよ。この格好だし。これから一緒に行くのに肩凝るじゃない」


 少女スタイルなのか、フレイアは話し方まで変わっている。

 どこからどう見ても、ただの美少女だ。


「じゃ、行くわよ」


 フレイアがパチンと指を鳴らすと、視界が暗転した。

 視界が突如として揺らめき、ユリウスたちは尻餅をついた。


 そっと目をあけると、

 そこは、見慣れた世界だった──


「空間……移動……?」

「なによ、空間魔術の初歩でしょ?」


 当然のように言い放つフレイアに、ユリウスたちは開いた口がふさがらない。


「街へ連れて行きなさい!おいしいものでも食べるわよ!」

 

 「おいしいものは増えているかしら?久しぶりだわっ」とスキップをしかねないほど上機嫌なフレイアに、慌ててユリウスたちは後を追った。


 ⸻⸻


「それで?あなたたちはなんでここにいるわけ?」


 偉そうに我が物顔でベッドに腰かけ、足を組んだフレイアが、木の椅子に座ったユリウスたちに問いかける。


「それは──」


 説明しようとユリウスは口を開いたが、「いいわ。聞くよりもこっちのほうが早いから。私の目を見なさい」というフレイアの言葉に遮られた。


 フレイアの大きな瞳に魅入られ、ユリウスは身動きが取れなった。

 

 走馬灯のように物心ついてから婚約破棄、そして前世を思い出したことまでが再生(フラッシュバック)した。


「ふーん。わかったわ」


 フレイアの言葉に、動かせなかった身体から力が抜けた。

 床に崩れ落ちたユリウスに、慌ててカイルが駆け寄る。

 ユリウスは滝のような汗をかいていた。


「い……今のは?」

「あなたの記憶を読んだのよ。普通は短時間の共有に使うんだけど、一生分だったから疲れたみたいね。休みなさい」


 とフレイアはソファーを指さした。あくまでもベッドを譲る気はないらしい。

 

 「それにしても。むかつくわね。その女」


「可愛くもないくせに信じられないわ。王族も無能ね」とぶつぶつ言っているフレイアは何やらご立腹だ。ユリウスはまったく気にしていないのだが。


「決めたわ。明日、王城へ行くわよ」


 フレイアの決定に、ユリウスは天を仰いだ。

 そして、王族に向かって心の中で叫んだ。


 (逃げたほうがいいですよー。

  俺はなにも知りませーん!)


 止めようにも、ユリウスも命が惜しいのだ。

 王族のために命を懸ける気にはならなかった。


 ⸻⸻


「いざ!出陣!」


 フレイアが腰に左手をあて、右手で天を指さした瞬間、視界が暗転した。

 

 二回目ともなれば、ユリウスもカイルも心構えはできる。足を踏ん張ってなんとか着地した。


「な!!」


 目を開くと、そこは王の執務室だった。

 国王の隣には、宰相であるユリウスの父上の姿もあった。


「ユリウス、お前っ」


 叫んだ父上に、鋭く目線をやり、話すな。と訴えかける。

 思うところはあったが、育ててくれた恩義はあるし、決して嫌いでもないのだ。

 王族の巻き添えになるところは見たくなかった。


「誰だ──」


 低く、腹の底から響く声が執務室を満たす。

 

「流石は一国の王だな」と思ったのはほんの一瞬だった。


「──誰だとは失礼な。


 お主こそ、図が高いぞ」


 射殺さんばかりの殺気が、フレイアから国王に向かって発された。

 国王の顔色はどす黒くなり、今にも気を失いそうだ。


「ちょっと、フレイア──」


 ユリウスは服の袖を引張り、フレイアを軽く宥める。

 昨日からの時間で、少しは気安く話せるくらいの仲にはなっていた。


「……しょうがないな。おい、お前」

 

「小娘が……」


 唸る国王に、ユリウスは顔を覆った。


 ──手遅れだ。


 国王の小娘呼ばわりに、フレイアがキレた。


 光が満ち、フレイアが元の龍の姿に戻る。

 城の天井はフレイアの身体により破壊され、ユリウスが目を開けたときには、空から太陽が覗いていた。


 雲一つない空に、(綺麗だなー)とユリウスは思わず現実逃避に走る。


「ド、ドラゴン……ッ」


 ヒィという叫び声と共に、文官たちがバタバタと倒れていった。

 国王と父上だけが、かろうじて意識を保っていた。

 

「お前、王太子はどうした?」

「ルドルフ……でしょうか?」

「名は知らん。ユリウスを馬鹿にしてくれた馬鹿だ」


 ふんっと鼻を鳴らしたフレイアの鼻息だけで、国王が吹き飛びそうになった。

 

 ──いい気味だ。


 ルドルフの好き勝手を許していた国王が、ユリウスは嫌いだった。

 長年少しずつ積もった国王への恨みが、ユリウスの心からすっと消えていく。


「あの王太子は駄目だ。この国から追い出せ」

「そっそんな!」

「同じ空気を吸っていると思うだけで腹が立つ。

 人のものを奪うなんて子どもでもしない。


 そんな奴が次期国王なんてちゃんちゃらおかしいわ」


 昨日からめちゃくちゃなことを言っているフレイアがまともなことを言っている。

 ユリウスは内心で大きな拍手を送った。

 

 「いいか、追放だぞ。

  一緒にあのバカ女もつけて追い出せ。

  しなかったときには、分かっているだろうな?


  ──我がこの城を破壊しに来てやろう」


「特別にな」とフレイアは笑う。しかし、笑っているのはフレイア一人だ。ユリウスでさえ、顔が引き攣っていた。


 そこへ、バタバタと慌ただしい足音がした。


「ちっ、父上!か、壁が!城が!」


 現れたのはルドルフとユリウスの元婚約者アメリアだった。久しぶりに見た二人の姿に、こんなにもしょうもない連中だったか?とユリウスは首を傾げた。

 自分の世界は狭かった、ということだろうか。


 首を傾げるユリウスのことなど目に入らなかったらしく、二人はフレイアの姿を見て「ひぃ!化け物!」と叫び気を失ってしまった。


 場違いな静寂が、ボロボロとなった執務室に落ちた。


「小物が──」


 吐き捨てるようにフレイアは言うと、虫ケラでも飛ばすかのようにふっと息を吐く。

 微かに炎を含んだ(ブレス)に吹き飛んだ二人は、髪がチリチリになりながら壁に張り付いた。


 それを見たユリウスは少しスカッとする。


「よし。要件はすんだし、帰るぞ」


 興味がなくなったのだろうか。

 フレイアは、再度美少女へと姿を変えた。


「ユリウス、カイル。今日の昼食は何にする?」


 こちらを振り向いたフレイアは、すっきりした顔をしており、なんだか楽しそうだ。


「ユリウス……」


 父上が、引き留めるようにユリウスの名を呼んだ。

 

「父上。俺はフレイアの伴をします。

 すみませんが、もう公爵家には戻りません」

「公爵様。今までお世話になりました」


 宣言するユリウスの隣で、カイルも一歩下がって静かに頭を下げた。


「そうか……」


 目を細めた父上の感情は、最後まで読み取れなかった。

 だが、微かに光った目に、ユリウスのことを少しくらいは大切に思ってくれた気がして、胸の奥がほんの少しだけ温かくなった。


「……元気でな」

「父上も、お身体ご自愛ください」


 父と子の会話にしては、あまりにも遠い距離。

 それが、ユリウスと宰相である父との距離だった。


「行くぞ!」

「おう!」

「はい!」


 フレイアが指をはじく。


 最後に見えた父上の顔は──

 初めて見る、優しい表情だった。


 ⸻⸻


「今日は串焼きを食べるわよ!」

「昨日はステーキだったじゃないか。肉ばっかりだぞ?」

「私はドラゴンよ?肉を食べるに決まってるじゃない」


 当然のように言い放つフレイアに、「じゃ、なんで昨日はパフェを食べて蕩けていたんだ……」とユリウスがぼやくと、炎の球が飛んできた。

 スレスレで避けたユリウスの髪先は、フレイアの炎でチリチリになった。


「何するんだよ!危ないな!」

「あなたが余計なこと言うからでしょ!」


 キャンキャンパス言い合う二人に、「ユリウス様の肝が大きすぎる……」とカイルは遠い目をしていた。


 ユリウスは、小さく見えた王城を振り向いた。


 自分が今まで囚われていた場所は、こんなにも小さかった。


 これから先も知らない世界が待っているだろう。


 フレイアとカイルの三人でなら、どこまででもいける気がした。


「誰も見たことがない景色を見に行こうぜ」


 未来の夢を、二人の背中に呼びかけると、


「オススメの場所があるわよ」

「そこって人は生きていけますよね?」

「……知らないわ」


 という賑やかな声が返ってきた。


 これから先は、三人で。


 どんな困難(イレギュラー)だって、三人なら乗り越えられる──そんな気がした。

ここまで読んでいただき、ありがとうございました!


本作は一旦ここで一区切りですが、三人の旅はまだまだ続きます。

いずれ続きを書けたらと思っていますので、その際はまたお付き合いいただけると嬉しいです。


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