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24.絶叫

「えー……本当に行くの?」


 詩音が嫌そうに立ち止まった。


「これが目的で来たんでしょうが。行く行く」


 美海は詩音の手を掴んで強引に中へと引っ張っていった。ときどき美海はびっくりするような力を出す。主に腕力方面で。

 僕も二人についていった。


「やっぱりやめようよー、お化け屋敷とか怖いよー」


 詩音の悲鳴は無視された。




 今日は美海と詩音と僕、佐々木夜の三人で、小崎町の隣の大崎町にある遊園地に遊びにきた。詩音曰く、花やしきみたいなサイズ……だそうだけど、僕は花やしきを知らない。遊園地らしい。


 そこに、夏の間だけお化け屋敷が設置される。

 そのお化け屋敷に美海がスタスタと入って行って、詩音も抵抗したけど、美海にがっちり腕を捕まれて引きずり込まれていった。その様子がすでにホラーだ。

 お化け屋敷の中は薄暗く、足下とお化けのいるところだけほんのり照らされていた。

 美海はお化けが出てくると


「出た!」


 と、はしゃぎ、詩音はギャアと絶叫した。

 それをひたすら繰り返して無事に出口まで到着した。


「無事じゃないし!」


 お化け屋敷を出た途端、詩音が怒りだした。


「五体満足だよ」

「無事のハードルが低い!」

「じゃあもう一回行こう」

「じゃあ、じゃないよ!」


 怒る詩音と、お化け屋敷が楽しかったらしい美海でちっとも会話が成り立ってない。おもしろいけど、そろそろ次の人が出てくるから移動したい。


「ねえ、あのコースター乗ろうよ」

「行こう行こう」

「あれなら小さいから怖くないかなあ」


 テンションの高い美海がニコニコとコースターに向かい、詩音は警戒しながらも美海についていった。


 ごめん詩音。

 あれ、けっこうスピードが出る上に急カーブが多いし、地下にもコースがつながっていて、かなり長いんだ。心の中で謝りながら僕も二人を追った。

 声に出さないのは、もちろん詩音を驚かせるためである。




「死を覚悟したよね」

「そんな大げさな」

「いや、ほんと。花やしきなめてた」

「花やしきじゃないよ」


 休憩スペースのテーブルに顎を乗せて、死んだ魚みたいな顔の詩音を横目に、僕と美海はハンバーガーを食べていた。この遊園地に売っているハンバーガーは大きくて、中のハンバーグが分厚くて大好きなんだ。ここでしか食べられないから、すごく楽しみにしてた。

 詩音は白い顔でつぶやきながらジュースをすすっていた。気持ち悪くて食べる気にはならないけど、喉が痛いので飲み物だけ……ということだそうだ。あれだけ叫べばね。

 詩音は最初の下りから、最後止まるところまでほぼ叫び通しだった。美海と詩音が並んで一番後ろの席、僕はその前に一人で座った。その並びにしたのは美海だ。


「一番後ろが一番楽しいよね」


 ということだ。詩音も、


「前より後ろの方が怖くないかな……」


 と、頷いて美海の隣に座った。それが美海の罠だとも知らずに。




「この後どうしよっか。もう一回お化け屋敷行く?」

「美海はバカなの? 冗談じゃないけど」

「じゃあ私一人で行ってくるね。夜、詩音任せた」

「はいはい」


 美海は一人でさっさと行ってしまった。

 詩音はぐったりした顔のまま、美海を見送っている。


「夜、美海を一人で行かせてよかったの?」

「いいんだよ。美海は一人でお化け屋敷行くの好きだから、邪魔しないほうがいい」

「?」

「……一人で爆笑しながら回るのが楽しいんだってさ」

「意味わかんない」

「僕にもわかんない。美海が楽しいならいいんだよ」


 そう言って笑うと、詩音も笑った。


「詩音もそろそろお腹空いちゃった」

「今ならお店も空いてるからなんか買っておいでよ。おすすめはハンバーガー」

「さっき二人が食べてた大きいの? じゃあ、それにしよ」


 詩音は立ち上がって近くのハンバーガーのお店に向かった。少ししてハンバーガーやポテトを抱えた詩音が戻ってきて、すぐに満面の笑みの美海も帰ってきた。


「詩音が食べ終わったら、またコースターに乗りに行こうよ」

「行かないよ! 食べたもの出ちゃう」

「じゃあコーヒーカップ。全力で回す」

「メリーゴーランドとかさあ、穏やかなのがいいよう」


 げんなりした顔の詩音と、あれもこれも乗りたいという美海。こんな休みの日が、もう少し続くといいな。


 僕は二人を眺めて、幸せな気持ちになった。

ここまで読んでくださり、ありがとうございました。

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