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19.氷

 夏も終わりに近づいた暑い日。私、川瀬美海は詩音と自宅縁側でかき氷を食べていた。

 つべたくて美味しい。そう言うと詩音から


「つべたいって言わないなあ」


 と言われてしまった。つべたいは方言だった? 口語だと思ってた。


「で、なんかあったの」

「こないだ夜にさ……」


 数日前の夜のことを思い出した。思い出せば思い出すほど恥ずかしくなる。


「美海?」


 詩音がこちらを見る。口がイチゴのシロップで真っ赤だ。


「ちょっと前の夜中に、夜のとこに行って、ほのかのこと聞いたら、なんか……なんていうか……たぶん? 告白? されたような、されてないような……」

「ごめん、ちょっとよくわかんない」

「だよね……」


 困ったような詩音に、私も困ってしまう。だって私もあれがなんだったのかよくわからない。


「田崎ほのかのことを聞いたんだよね。で? それはなんて言ってたの」

「えっと、もう一緒に勉強しないって言ってた」

「そうなのね。じゃあ告白は? されたの?」


 詩音は淡々と話をまとめていった。私一人じゃテンパったり焦ったりでなんにもまとめられないから、ほんとうに助かる。


「好きらしいよ、夜は。私のこと」

「うん、そうだね。美海はなんて答えたの?」

「え、かるっ。もうちょっと驚いてよ」

「驚かないよ。むしろ美海がマジで気づいてなかったことに驚くよ」


 やれやれと詩音はアメリカ人みたいに大げさに手を広げて首を振った。


「美海だって夜のこと大好きじゃん。気づかない人いるの? 匠海さんだってわかってるくらいなのに」

「え、お兄ちゃんも?」


 恥ずかしすぎる。しかし詩音はやっぱり淡々と続けた。


「それで? 美海はなんて答えたの」

「えっとお、夜が私のことは好きだけどまだ付き合えないからちょっと待ってって言うから、待ってるって返事した」


 あれもこれも恥ずかしすぎて、手元のかき氷をざくざくとスプーンでつつく。私がほてっているからか、氷は半分くらい溶けてしまっている。


「なんでまだ付き合えないんだっけ」

「夜が私に甘えたくないんだって。だから自分のことを自分でできるようになるまで待ってほしいってさ」

「そっか……言い過ぎたかなあ」


 詩音が苦笑した。それはきっと、七夕祭りの前に詩音が言った


『そうやって美海にすがって生きていくつもり?』


 という言葉のことだろう。

 夜が夏休み宿題を決めたのはそれより前だから、他にもいろいろ思うところがあったのだろうけど。


「詩音のせいだけじゃないでしょ。いいよ、待つよ。だって私、産まれたときから夜と一緒にいるんだよ。もうちょっとくらい待てるよ」


 そう言うと詩音は笑って、


「気が長い。詩音には無理」


 と言った。

 ほとんど溶けたかき氷を、すくうのは諦めて直接流し込む。ひんやりしたそれは喉を冷たくして、あっという間になくなった。

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