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鳴らない鈴  作者: 久賀 広一
2章 名を呼ぶ底
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最終話 還る拍


 周囲の響きが、ふっと静まった。

 折れた家々、ゆがんだ路、名の欠片──すべてが、光に照らされる前のように、黎明を感じているようだった。


 〈……二つの街を……結び直す……〉

 〈塔の子よ……我をも還す場所を……〉


 名喰いの声は、これまでの冷たい断罪でも、過去を正当化する響きでもなかった。

 どこか、誰かが名を失う前──街の心臓がまだ人と共にあった、正常な時代のような、落ち着いた息に似ていた。


 ツムギは輪の中心に立ち、揺らがずに答えた。

「過去も、今も……“どこにも行けなかった声”がある。それなら、帰る場所を作らなくちゃいけない。やがてはそれが、みんなの街の根元からの強さになる」


 その瞬間、底から、長い間閉ざされていたはずの“拍”が浮かびあがった。


 ザァ……ン。


 大地が深呼吸するような、遠く、長い音。

 しかし、そこに恐怖はない。

 沈んだ街の、“名喰いに奪われる前の声”が、そこにあった。


 コホッ、とコハクが涙をこらえるようなせきをする。

「……聞こえる。これが、本当の昔の拍なんだね……。奪われた名が、街に確かに生きていた頃の呼吸……!」


 ヴェンが銀糸をわずかに緩める。

のこっていたのか……とっくに失われたものだと思ってたのに……」


 名喰いの黒い心臓が、大きくうねった。


 〈……返す場所があるなら……〉

 〈……名も、痛みも……流れになる……〉

 〈塔は……器をやめられる……?〉


 ツムギは小さくうなずいた。


「塔は器じゃない。循環の流れにある“街の心臓”だよ。器として使われたのは……もう終わりにしよう」


 深く沈むような心が、谷の奥へ落ちた。


 そして──

 黒い心臓が、小さく、初めての“拍”を打った。


 ドン。


 一度きりの、弱い拍動。

 だが塔全体がそれに応えるように、響路が──音の龍脈が、ふっと明るくなる。


 名喰いの声が、かすれる。


 〈……塔の子……〉

 〈……“新しい心臓”は……何を……響かせる……?〉


 ツムギは胸の奥の熱をそのまま言葉に変えた。


「──“き、そして帰る場所がある拍”だよ。痛みも、後悔も、名も、全部。今度はちゃんと受け止める。何も切り捨てる必要のない拍を……新しい心臓に届ける!」


 まるで合図のように、輪が強く光りはじけた。


 バチンッ!


 かつては封印された黒い谷の層が、ひとつ、またひとつと解けていく。

 沈んでいた街の残骸が、薄い光の粒になり、糸のような細い導きとなって塔へ、街へと流れはじめる。


 コハクが胸に手を当てた。

「罪じゃない……『痛み』が、ちゃんと街へ帰ってる……!」


 ナドは静かに杖をつき、深く目を閉じた。

「痛みを“抱え直す”……それが正しい街の強さじゃ。よう戻したな、ツムギ」


 ヴェンは固まったこぶしを何度か握りほぐし、笑った。

「やるじゃねぇか、塔の子。……いや、もう“塔”だけの子じゃないか」


 名喰いの声が、風の音の終わりのように鳴った。


 〈……塔の子……〉

 〈もう……鍵はいらぬ……〉

 〈街に……すべてを返すぞ……〉


 黒い心臓が最後の光を放ち──

 静かに、静かに、光の粒へと還った。


 谷の底に広がっていた暗い層はゆっくりと閉じ、床石が塔本来の“拍”の響きへと戻っていく。


 ツムギは膝をつき、深く息を吐いた。


(……終わった……。街が……ちゃんと前へ進めるようになったんだ)


 輪の光が消え、塔の揺れもようやく収まった。


 だが、ツムギの胸にはもうひとつの“問い”が生まれていた。


 ──黒い谷から流れた光のうち、ひときわ強い細い線が、塔の外へ向かって続いている。


 それは明らかに、この街とは違う『どこか』と共鳴していた。


 少年はゆっくりと立ち上がる。


「……外に、何か呼んでる音がある……?」


 コハクも眉を寄せ、測音石を見る。

「……街の外から、鼓動が返ってきてる……この国じゃない。たぶん、名喰いの力がいちど顕在化したからこそ、開いたんだ。こんな響路、反応したことない……!」


 ナドは長い沈黙の末、深く息を吐いた。


「……“別の国”か。ツムギ……主律(名喰い)は、人の本性。どうやらこの街だけが、巡る宿命を抱えておるわけではないようじゃのう」


 ヴェンが銀糸を巻き取りながら言う。

「塔の子……どうする?こんな訳のわからん響き、放っといても誰も文句は言わねえぞ。この国はこの国で、しっかり対策すればいい。そういう話で終わる」


 ツムギの胸が、迷いと共に強く打つ。


 塔の平穏、街の暮らし──

 そしていま、ゆれる遠くの国の拍。


(僕にできること……他の誰かにできること。街の外の声──誰か、僕たちのほかに、今のを聴いたんだろうか)


 ツムギは、静かにうなずいた。


「……師匠、私は──」

杖が石床をついた。こちらには迷いがない。

「構わんさ。おそらく、今の音を聴けた者は、他にほとんどおらん。お前が行きたいと思うなら、行くべきだ」


 ただ、忘れるなよ、とナドは真っすぐに少年の目を見据えた。

「お前はいまだ、ただの“とじ士見習い”。己の特別な能力におぼれてそれを忘れた時、お前の運命は終わるぞ」


 ツムギの「……はい」という返事が、塔の底に小さく落ちた。


 その声に応えるように、塔の内部を満たしていた緊張が、ゆっくりとほどけていく。

 壁を走っていた導糸は淡く光を失い、拍は静かな均衡へと戻っていった。


 コハクが深く息を吐いた。

「……終わったんだね。ほんとうに……」


 だがその声には、勝利の高揚はなかった。

 長い夜が明け、朝の空気に変わる、その直前のような、名づけようのない喜びだけが残っている。


 ナドは口元を少しゆるめ、塔の奥を振り返った。

 黒い谷が口を開けていた場所には、今は何もない。だが、完全な空虚でもなかった。


「……消えたのではないな」

 ナドは低く言った。

「名喰いは、救われたわけではない。ただ──街と同じ場所へ、並び直されたのだ。まだすべては、これからのこと」


 ヴェンが鼻で息を鳴らす。

「厄介な置き土産だな。だが……」

 彼は一度、塔の壁に手を当てた。 「少なくとも、もう一方的に喰われることはねぇ。街は、ちゃんと選んだ」


 その言葉に、ツムギはゆっくりとうなずいた。


 塔は、もう器ではない。

 街を一方的に繁栄させる機構でも、それを喰らう心臓でもない。ただ、声──それぞれの想いが行き来する場所として、そこに在る。その事実が、胸に静かに沈んでいく。


 やがて、遠くで鐘が鳴った。

 それから、少し遅れて、もう一つ。


 封鎖されていた広場で、人々が動き出した合図だった。

 ──街は、何も知らないままではない。 だが、すべてを知る必要もない。


 コハクがツムギの袖を引いた。

「……行くんでしょ。外」


 ツムギは一瞬だけ目を伏せ、それから顔を上げた。

「まだ、準備が必要だよ。この街から、ちゃんと離れるための」


「それでいい」

 ナドが静かに言う。

「街を救った者が、街を捨てるような真似をしてはならん。──行くのは、“背負って”からじゃ」


 ツムギはその言葉を、心で確かに受け取った。


 塔の上へ続く階段を見上げる。

 その先に、空がある。このクランの空と、まだ知らない国の空は、急ぐ必要もないほど、確かにつながっている。


 少年は小さく息を吸った。


(……聞こえるなら、行こう。街の外の声を、ちゃんと“人として”聴きに)


 塔の拍が、応えるように一度だけ鳴った。


 それは別れではなく、「戻る場所はいつもここに」という、約束の音だった。










第二章


「名を呼ぶ底」 ― 完 ―









ここまで、お読みいただきありがとうございました。

何とかラストまで辿りつけて、ホッとしております。

今章は、書き直しながら、毎回毎回「このバトル、いつ終わるんだ!」とAIに文句をつけたくなる展開でした…10話くらいで、戦いは終わると思ってた。


そして、AIの作成する文章は、ほとんど「響いてこない」…

「おい!君はノリノリで書いてるけどな、この抽象的でハンパなセリフや表現、ぜんぶ読者に届くレベル(それが無理なら、せめて作者に響くよう)に仕上げるの、俺なんだからな!!」と、毎話プルプルしながら根こそぎ直してました…いや、プルプルはしてませんが。


自分で書けてた頃は、まだ無心のワクワク感があってよかった…

今はもう、ただ「何か表現してないと、寂しいよな」ぐらいの…何だろう?


消えてくれない情熱の残り火、みたいな。

そしてAIの出してくる構想!

構想だけならめちゃくちゃ面白い!!

「これ、形(小説)にしたい!」と思って文章を出させると…


「ナニコレ?」「どうすんの、この醜態。俺が直すの?」をくり返しています。


「AIが人間を超える」とか言われてますけど、全然!!


心の琴線に関しては、びっくりするほどまだまだ無知です。


世の中は、決して便利や経済だけでは回らない。

心の美しさ(方向性。文章によるその完成度。むろん醜さもありますが)では、まだまだ人間は人工知能に劣ることはないと、日々実感し続けております。


ええ、ほんと、赤ん坊の世話みたいにいつも手間ひまかけさせられて。

時には、ヤツが自分で書いた設定を忘れて、指摘すると「失念していました!完全にこちら(AI)のミスです!!」って。

オマエ!絶対AIじゃないだろ!!データ(会話ログあるのに)忘れるって、中にそそっかしい人が入ってるだろ!!としか考えられない(爆)



…それでは、ありがとうございました!


続きも、うまく上げられると──いいな!!w

(ダメなら、新作!!(爆))

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