第15話 結びの主律
残骸の堆積が、地鳴りのような低い唸りを上げた。
沈んだ谷の街──割れた道、崩れた家屋の柱、人が集った石碑──すべてが、ツムギの言葉を受けて、ゆっくりと持ち上がるように揺れている。
〈……今と、結ぶ……?〉
〈軛を外すだけでは……街はまた壊れる……〉
名喰いの声は怒りと、かすかな戸惑いを帯びていた。
ツムギの声に反応した“黒い心臓”が、初めて自らの形を崩しはじめていた。
コハクが輪の外で叫ぶ。
「ツムギ! この揺れは、拒絶じゃない!痛みが、方向を探してるだけ……!」
ナドは杖で体を支えながら、ツムギの背を見ていた。
「今も遺る過去の拍に、“新しい流れ”を作れるかもしれん。塔は古すぎ、街は弱すぎ、この底の世界は傷つきすぎておる。だが──おまえの声の輪は、それを共有しながらまだ壊れておらん」
ツムギはゆっくりと前へ進む。
身体の中の二つの律がひとつにまとまり、『透声』の震える喉に、温かい何かが走った。
(……どちらも切る必要はない。過去も今も、この地で生きた人の力なんだ……。なら──)
黒い谷の中心、蠢く“負の街”の心臓が、大きくうねった。
〈結ぶ声……〉
〈塔の子……いや……塔ではなく〉
〈“おまえ”は、何を望む〉
初めて、名喰いがツムギ個人に問いかけた。
ツムギは輪の中央に立ち、息を落ち着かせて答えた。
「僕は……街──いや、街じゃない。“すべての命”が肯定されて前へ進める道を、選びたい。誰かを捨てて、強くなんてなれない。心にはいつも弱さがあって、だから進むことで、一つ一つ命はふり返ったとき、強くなっていく……!」
その瞬間、底の残骸が一斉にざらりと音を立て──
沈んだ街の影が、塔へ向かって“導糸”のように伸び始めた。
「……ッ!来るぞ!!」
ヴェンが構えるが、糸は襲いかかるのではなく、輪の縁へそっと触れた。
コハクが震える声でつぶやく。
「……繋がろうとしてる……!今の輪で作られた拍に、還りたいんだ……!」
ツムギは喉奥の熱を押さえ、塔も含めた底の街、すべてへの一言を落とすために、息を吸った。
谷の奥から、名喰いが最期の問いのように声を落とす。
〈ならば問う。“傷の街”も、“いまの街”も抱えたまま、どうやって前へ進む〉
ツムギははっきりと答えた。
「──“帰れる場所を作る”!!新しい街が生まれるなら、“今の心臓”じゃ足りない。塔も、街も……お互いの声を聴けるようになった。拍を分け合えるんだ。だから、より大きな場所を作れる!!」
その瞬間、輪がまばゆく光り、沈んだ街の影が、塔へ向けて動き始め──
黒い心臓が、砕けるように震えた。
〈……新しい……道……〉
〈塔でも、過去に戻るのでもない……〉
〈……街が……二つ……?〉
名喰いの声が崩れかける。
ツムギは、はっきりと言葉を落とした。
「──“二つの街を結び直す”。それが、今の『クラン』の、新しい心臓だ!誰も犠牲にしないと言った。お前の力も必要なんだ!!」
黒い谷が大きく揺れ、過去の残骸が光に包まれ、塔へ還ろうとするように、響路が開かれた。




