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鳴らない鈴  作者: 久賀 広一
2章 名を呼ぶ底
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第15話 結びの主律


 残骸の堆積たいせきが、地鳴りのような低い唸りを上げた。

 沈んだ谷の街──割れた道、崩れた家屋の柱、人が集った石碑──すべてが、ツムギの言葉を受けて、ゆっくりと持ち上がるように揺れている。


 〈……今と、結ぶ……?〉

 〈くびきを外すだけでは……街はまた壊れる……〉


 名喰いの声は怒りと、かすかな戸惑いを帯びていた。

 ツムギの声に反応した“黒い心臓”が、初めて自らの形を崩しはじめていた。


 コハクが輪の外で叫ぶ。

「ツムギ! この揺れは、拒絶じゃない!痛みが、方向を探してるだけ……!」


 ナドは杖で体を支えながら、ツムギの背を見ていた。

「今ものこる過去の拍に、“新しい流れ”を作れるかもしれん。塔は古すぎ、街は弱すぎ、この底の世界は傷つきすぎておる。だが──おまえの声の輪は、それを共有しながらまだ壊れておらん」


 ツムギはゆっくりと前へ進む。

 身体の中の二つの律がひとつにまとまり、『透声』の震える喉に、温かい何かが走った。


(……どちらも切る必要はない。過去も今も、この地で生きた人の力なんだ……。なら──)


 黒い谷の中心、蠢く“負の街”の心臓が、大きくうねった。


 〈結ぶ声……〉

 〈塔の子……いや……塔ではなく〉

 〈“おまえ”は、何を望む〉


 初めて、名喰いがツムギ個人に問いかけた。

 ツムギは輪の中央に立ち、息を落ち着かせて答えた。


「僕は……街──いや、街じゃない。“すべての命”が肯定されて前へ進める道を、選びたい。誰かを捨てて、強くなんてなれない。心にはいつも弱さがあって、だから進むことで、一つ一つ命はふり返ったとき、強くなっていく……!」


 その瞬間、底の残骸が一斉にざらりと音を立て──

 沈んだ街の影が、塔へ向かって“導糸”のように伸び始めた。


「……ッ!来るぞ!!」

 ヴェンが構えるが、糸は襲いかかるのではなく、輪の縁へそっと触れた。


 コハクが震える声でつぶやく。

「……繋がろうとしてる……!今の輪で作られた拍に、かえりたいんだ……!」


 ツムギは喉奥の熱を押さえ、塔も含めた底の街、すべてへの一言を落とすために、息を吸った。

 谷の奥から、名喰いが最期の問いのように声を落とす。


〈ならば問う。“傷の街”も、“いまの街”も抱えたまま、どうやって前へ進む〉


 ツムギははっきりと答えた。


「──“帰れる場所を作る”!!新しい街が生まれるなら、“今の心臓”じゃ足りない。塔も、(僕ら)も……お互いの声を聴けるようになった。拍を分け合えるんだ。だから、より大きな場所を作れる!!」


 その瞬間、輪がまばゆく光り、沈んだ街の影が、塔へ向けて動き始め──

 黒い心臓が、砕けるように震えた。


 〈……新しい……道……〉

 〈塔でも、過去に戻るのでもない……〉

 〈……街が……二つ……?〉


 名喰いの声が崩れかける。


 ツムギは、はっきりと言葉を落とした。


「──“二つの街を結び直す”。それが、今の『クラン』の、新しい心臓だ!誰も犠牲にしないと言った。お前の力も必要なんだ!!」


 黒い谷が大きく揺れ、過去の残骸が光に包まれ、塔へ還ろうとするように、響路が開かれた。



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