表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
鳴らない鈴  作者: 久賀 広一
1章 音核盗難
10/15

最終話 深律の裂け目

 

 朝の光が塔を包み、街の屋根を淡く照らしていた。

 すべてが落ち着きを取り戻したように見えた。

 ──はずだった。


 心座の仮心臓は、穏やかなリズムを刻み続けている。

 ツムギは手を置き、静かに目を閉じた。

 「……ようやく、整った」

 塔も街も、もう苦しげな音を立てていない。

 人々の生活が戻り、子どもたちの笑い声が風に溶けてゆく。

 だが、その風の底には、だからこそほとんど誰も予期できない、“うねり”が混じっていた。

 ツムギは気づかない。まだ、誰も気づかない。


 外壁を伝って、淡い震動が走った。

 ほんのわずかだが、塔内部の導管──響路の奥で、ひとつの“遠大な音”が重なっていた。

 拍の乱れはない。

 ──何かが、“極めて拍に近い、だが、より巨大な旋律”を奏でている。


 「…師匠」

 風景を見下ろせる窓際まで上がってきたコハクが、手に測音石を持っていた。

 「これ、見てください。心座の奥から新しい波形が出てる」

 ナドは眉をひそめ、受け取った。

 石面には、見たことのない律動のあとが刻まれていた。


 「塔の深層から……? そんな層は、記録にはない」

 「まるで、“塔の下”にもうひとつの響路があるみたいで」

 コハクの声は震えていた。

 ツムギが不安そうに問う。

 「塔の下って、地脈の層ですか?」

 「いや、もっと深い。導脈の始まり──“”に近い場所だ」


 そのときだった。

 塔の最下層で、低い爆鳴が響いた。

 地鳴り。

 床石がこまかく震え、誰にも見えなかったが、心座の核が一瞬だけ黒く濁った。


 響衛たちの声が、広場から怒号のように上がる。

 「深導脈から、流れが生まれている! …塔の仮核に、異常が出るほどのエネルギーが!」

 ナドの顔色が変わる。

 「ありえん……“根律こんりつ”が生きているはずがない!」


 光が走る。

 塔の下層から、心座を貫通し、深紅の導糸が天井を貫いた。

 ツムギは心座の前で、咄嗟に身をかがめる。

 「師匠、これは──!」

 「そこから離れろ、ツムギ!」

 ナドが叫ぶ。 


 だが遅かった。

 仮心臓に刻まれたはずの拍が、別の律に侵食されていく。

 重なる音は、まるで塔自身が“拒絶”と“渇望”を同時に叫ぶようだった。


 「塔が…喰われてる…!」

 コハクが叫んだ。

 「“塔の下の律”が、上に出てきている…!」

 ナドは拳を握る。「深律しんりつ…封印層が破られたか!」


 ふたたび轟音が鳴った。

 塔全体に、黒い波紋のような響きが拡がる。

 仮核が鈍く明滅し、まるで誰かの鼓動をうつしているようだった。


 …だがそのリズムは、これまでの、どんな塔の拍より遠く、足下からくずれるような恐怖があった。

 それは“捨てられた心臓”の律――塔の地下に眠る、かつての塔。


 ナドは歯を食いしばった。

 「……時の流れで抑えられた廃墟が、新たな街の聴覚によって、目を覚ましたのかもしれん」

 ツムギは顔を上げた。

 「もう一つの塔……?」

 「この塔の下に、かつての記憶──根を喰いつづけた“反響の塔”がある。その存在が蘇れば、拍は二重になり…世界は裂ける」


 外の空が暗くなった。

 昼なのに、太陽の光が濁っている。

 街の屋根の上で、見慣れない影が揺れた。


 …ツムギは立ち上がる。

 「師匠、行きます。私が──塔の根まで」

 「無茶だ!」

 コハクが叫ぶ。

 だがツムギは、すでに心座の階段を駆け下りていた。

 「大きな鼓動が呼んでる。違う、これは“声”だ。

  塔の下に、誰かの声がある──!」


 ナドは目を閉じ、低く呟いた。

 「…やはり、都合の良い穏やかな世界など、人の手では作れんか。(皆の声)と共にある塔の時代は終わり、“声を食う塔”が動き出すのかもしれん」


 心座の奥で、黒い光が蠢いた。

 その拍は、まだ名前を持たない。

 だが確かに、世界を変える動きだった。







お読みいただき、ありがとうございました。


ここまでまとめるのに一ヶ月──

第2章はまた一ヶ月後──とうまくいく保証はありませんw


AIはほんとに、どうしようもない反応を返してくれる時がある。

ネットに上げるレベルに仕上がらなかった時は(僕個人の基準ですが)、この第1章、9話が最終回となります(爆)


うまくいけばいいなあと思いつつ、またポリポリと煮干しを食べながら、推敲をくり返していきます。──そしてAIとケンカを(笑)


ありがとうございました!!




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ