第5話 初めての協力、毒の真相
薬房の窓から差し込む光が、硝子瓶に反射して淡い虹を描く。その光景に、私は一瞬だけ心を落ち着けた。だが、現実は穏やかではない。黒衣の影は消えず、後宮には複雑な力関係が張り巡らされている。
「ユイ殿、進展はあったか」
アルトが静かに声をかける。私は手元の検体と記録を整理しながら答えた。
「はい。毒の性質と摂取経路、影の行動パターンから、人物像が絞れました。特定の女官が、毒を密かに運び、特定の機会に侍女に渡していた可能性が高いです」
アルトは静かに頷き、私の推理を聞き入れる。「なるほど……君の論理は明確だ」
「ありがとうございます。ただ、現場だけでは決定的証拠は不足しています。現代薬学の手法を用いて、成分分析と毒の経路を再現する必要があります」
廊下に出て、黒衣の影の気配を警戒しながら現場へ向かう。広間の隅には、まだ誰も気づいていない小瓶と残渣がある。指先で触れず、慎重に検体を回収する。観察力が命を守る。
「皇太子殿、この毒は、単純な嫉妬や嫌がらせではありません。明確な目的があります」
私は分析結果を説明する。アルトの眉がわずかに寄る。
「王族の健康を狙った、政治的な圧力か……」
その言葉に、私は小さく頷いた。「はい。後宮の権力を操る影が、毒を道具にしているのです」
薬房に戻り、検体の分析を再現する。温度、pH、アルカロイド濃度――すべての条件を現代知識で照合すると、毒の正体と経路が明確になる。数分後、解毒剤の調合を完成させ、侍女に投与。彼女の呼吸は安定し、脈拍も戻った。
アルトが静かに息をつく。「君と協力すれば、命は守れる。だが、影はなお潜む」
「ええ。今回の事件で、後宮の権力争いの一端が見えました。次は、より大きな計画の存在に気づくでしょう」
私は手元の記録を整えながら、次の策を考える。毒事件は終わらない。黒衣の影の目的はまだ明かされていない。
窓の外、夕焼けに照らされた後宮の影が長く伸びる。その中で、私たちは静かに次の一手を準備する――毒と権力の狭間で、初めての協力関係が生まれたのだ。
そして心の中で私は決意した。
次に起こる事件も、私は絶対に見逃さない。科学と観察、そして推理で、この後宮を護る――。