~はじまり~
困った。
おれは今激しく困っている。
困っているのをむりやりごまかしながら(こういうのを現実逃避っていうんだっけ)ゲームをしている。
「ねぇねぇ、このこはだあれ?」
ああ、うるさい。オレの精神安定を壊す元凶め。
「あー、爆発したー。」
だめだ。集中できない。というか、こいつうるさい。
なんでこんなことになってしまったんだ。
変わってしまったのは10分前だ。
10分前まではいつもの平和な前田家だったはずだ。
今から10分前、オレが生まれてからず~~~~っと昏睡状態だった兄、恵太が目を覚ました。
こういうと大変めでたいことだが。
初対面(いや、寝顔は毎日みてるけどさ)のやつが目覚めたからって世話の仕方なんかわかるわけがない。
とりあえず冷静に考えて、今すべきこと・・・・・・・。
母さんたちに連絡!
オレは急いで電話に向かい母の携帯電話に電話をかけた。まだ飛行機にはのってないはず!頼む!でてくれかあさん!
「おかけになった電話は現在電波の届かないところにおられるか、電源が入っておりません。もういちど・・・」
なななな!なんだってー!!冗談じゃない!今すぐ連絡取れないとまずいんだって!!両親のいないゆっくりとした夏休みは惜しいが。コレの面倒とかどうすりゃいいんだよぉぉぉぉ!!助けてかあさんー!!
ガチャガチャと電話をいじるオレの洋服のはじがクイとひっぱられた。
「おにいちゃんだぁれ?・・・あれぇ・・おかあさんどこ・・?」
振り返ると恵太がオレの洋服の端をくいくいとひっぱってオレの方をじぃ~とみていた。
「いや、ダレって言われても。オレ・・・アンタの弟なんですけど。」
そう答えるしかないだろう。ソレが事実だし・・・・・。
「う?おとーと?」
あ、やっぱ理解しないよねー。恵太寝てたもんねー。
オレは「うー?」とか「ぬおー?」とかよくわからん奇声を発する恵太を無視してもう一度母と父の携帯に電話をかけた。
「おかけになった・・・」
くそう!
どうすればいいんだ。あ、先生。先生ならどうすればいいか教えてくれるに違いない!
先生とは恵太が昏睡状態になってからずっと往診に来てもらってたお医者さんのことだ。毎月毎月来てくれて、前にオレが風邪とかひいたときも何度かお世話になっている。
うん。もちは餅屋っていうしな!
相変わらず恵太は不思議そうな目でこちらを見ている。(恵太からしたら)自宅に見知らぬ少年がいるのに騒がないとは警戒心のないやつだな。
電話のよこにおいてあるアドレスブック(とは名ばかりの名詞とかをつっこんだりはりつけたりしてある手帳)をめくり病院の電話番号を探し出した。
「恵太の弟は亮太だよ。んとね。一昨日うまれたばっかなんだよー。」
へぇ・・オレは生後3日ですか・・。しかもそんな特上の笑みで。
ここでオレがその亮太だといっても絶対理解しないだろーな。オレは恵太のすっとぼけた回答を無視して病院に連絡を取った。
「お電話ありがとうございます。坂本医院です。」
「先生!オレです。前田です。前田亮太です!あの、恵太が!」
「ただいまお盆期間中は診療を休止させていただいております。次回の診察は20日となっております」
「うげ!!!うそ!」
20日ってうぁ10日以上先じゃんか!んんでそんなに・・・・
あ、そういえば先生この前来た時、お盆は家族で海外旅行にいくので怪我や病気なんかはしちゃだめですよっていってたような・・。
「ねぇ、おにいちゃんだーれ?おかあさんは?おとうさんは?」
次にどこにかければいいのかわからないとなると・・・やっぱりこのまま無視は・・・ムリだよな・・。ホラ・・オレっていいやつだから。ほっとくと心が痛むっつーか。いやさっきまでの無視でも痛んでましたよ。ほんとですって。
「えーと・・・。」
どう答えたらいいんだろ・・。
「おかあさんは病院かなぁ・・・?」
あ、そうだこいつの中ではオレは生まれてきたばっかなんだ。ってことは母さんは病院にいるってことで片付けておけばいいよな。
父さんはその付き合いということにでもすればいいんじゃね?
うむ。われながら名案だ。
「あーっとね。お母さんはね今病院なんだー。早めに(希望)帰ってくると思うんだけどね。あ、お父さんはお母さんの付き添いで同じ病院にいるんだよー。いまはちょーっと連絡がね。つかないんだけどねー。」
N○K教育テレビのおにいさんばりにやさしい口調でおれが答えると
「ふぇー・・・。そうなんだ。お母さん大丈夫かなぁ・・。」
「ん~。大丈夫だとおもうよ~」
だって本当はただの旅行だし
「そっかぁ・・・。おにいちゃんはだあれ?」
あ、まずいソレを聞かれると・・。
うーん。うーん。あ、そうだ。
「おにいちゃんはねー。お母さんたちがいない間、恵太のお世話をたのまれたんだー。えーと・・・そうだな。従兄弟の亮太っていうんだよー。」
「えー。」
なんだよ。あからさまに不満そうだな。
しかたないだろ。母さんや先生に連絡つかないんだから。しかたなく面倒みてあげようという、オレのやさしさがわかんねぇのかこいつは。
しかし・・・。つたないしゃべり方なのは中身が当時のままだからとして・・・当時ってーと・・・。6歳か。でも外見的は20歳のはずだ。うん。オレより6つ上だからな。
しかし・・・20歳のはずなのに、オレより2~3cmくらしか変わんないって・・オレが153センチだから、恵太ってチビなのか・・・。(人のこと言えないとかは禁句な)
寝てるときはわかんなかったな。もっとでかいのかと。ああ、寝てるばっかりだったから成長しなかったのかもしれないなぁ。腕もなまっちろいし。ガリガリだし髪も長めだし。女みてー。
オレのサッカー部で小麦色になった肌とは対照的だ。多分オレのが筋肉あるし・・・。髪の毛も丸坊主とはいわないけど短めでさわやか系だとオレは思う。
「じゃー。恵太はおにーちゃんと一緒にいなきゃいけないの?」
いなきゃいけないの。はこっちのセリフだと返してやりたい衝動に駆られたがここはオレのが(精神年齢的に)大人なのでこらえることにした。
「そうだよー。よろしくねー。はやくおかあさんに連絡つくといいねー(オレが)」
「・・・うん」
口をとんがらせながらしぶしぶという形でオレとの共同生活を了承してくれたらしい。
「とりあえず。顔あらっておいで。恵太」
「・・・うい!」
とたとたと恵太が洗面所に向かっていく姿をみてオレは・・・・
現実逃避をして今に至ってるわけだ。
さて、これからオレはどうするべきなのだろう。
この日からオレと恵太との不思議で奇妙な共同生活が始まった。